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第二十二話 動作テストと相談


 関所を無事に抜け、今日宿泊する館へと到着した。アルベルトに聞いたことだが、貴族が泊まるような施設は領主が管理しているそうだ。事前に連絡しておくことで館を使わせてもらえるそうだ。しばらくは各地にある館を使いながら王都へと向かうことになる。勿論、そこを使わせてもらうのだからその領地には謝礼を支払う。つまりは王都に近い領地は自然と通過する貴族も多いので、その謝礼金で稼ぐことができるそうだ。それに対して国の端に位置するジャルダン領は農作や漁業などで生計を立てるしかないのだ。格差が生まれるのは仕方がない。


 館は綺麗に整えられており、きちんと日頃から手を入れているのがわかる。

 基本フェデリカがわたしの身の回りの世話をしてくれるのでわたし自身が動く必要はなく、快適に過ごすことができた。アルベルトと早めの夕食を摂り、湯浴みを終え、今は寝間着を身につけてもう寝台に潜り込むだけだ。しかし、わたしの自由時間はこれから始まるのだ。


『もうしゃべっても大丈夫?』

「……うん、メルヴィルもフェデリカも部屋の外にいるし、ここは奥の部屋だから大声を出さない限りは大丈夫だと思う」


 わたしが頷きながらそう言うと、イディは大きく伸びをした。今日一日、わたしの近くには必ず人が付いていたので、イディと話す暇などなかった。そのためかなり退屈していたのだろう。


『じゃあどうする? 資料、貰ってないから解読作業できないよ?』

「資料はシヴァルディを通じて領主様から受け取るつもり。その前に、これを……」


 そう言ってわたしは今朝作成したカメラを取り出した。橙色の光を帯びながらカメラが手のひらサイズに収まっている。今のうちに動作テストをしておきたいところだ。わたしはカメラを構え、イディに大きめのレンズを向けた。イディのキョトン顔がカメラの画面に映る。


『それ、絵になるって言ってたけど……』

「人に見えない精霊って映るのかな。とりあえずじっとしてて……」


 せっかく初めての撮影なのだから綺麗に撮りたいところだ。わたしはそう言ってカメラのシャッターボタンに手をかけて、位置関係を調節する。そして丁度良い角度と大きさを維持したまま精霊力を流しシャッターを切った。


『わっ!』


 道具からカッと閃光が生まれイディを襲い、イディは反射的にぎゅっと目を瞑る。フラッシュが出るとは思わなかったのでわたしも驚き、慌てて気付かれていないか気配を探る。特に物音もしないので、気付かれていないことに一先ずは安堵した。今は夜で暗いからフラッシュが出ることは有難いが、普段使いならば目立つのでかなり困る。こっそり使えなければ正直使いどころが限られて意味がない。わたしはカメラをひっくり返し、発光禁止にできないか探る。説明書などないので手探りだ。


『あ、何か出てきた?』


 格闘しているとカメラの下部の印刷口から紙が出てきた。落とさないように、かつ印刷面に触れないようにそれを手に取ると、イディが覗き込んできた。


『真っ白だ……。あれ、絵は?』

「ちょっと待ってて。浮き上がってくるから」


 そのまましばらく待っていると、徐々に写した画像が浮かび上がってくる。このじわじわと出てくる感じは堪らない。しっかりと撮れているのか、出来具合をドキドキしながら待ってしまう。

 浮かび上がった写真は、キョトン顔のイディがばっちり映っていた。許可を出さないと見られない精霊のイディがきちんと映るようになっているので、他の精霊も同様に写せば精霊が見えない人でもここに現像されるので見られるということか。イディは出来上がった写真を見つめて、『ワタシってこんな変な顔してたの……?』と衝撃を受けていた。変な顔って失礼な。元々は春乃(わたし)の顔だぞ。イディも良くわかってると思うのだが。


『本当に忠実に再現された絵だね。これなら書き写さなくてもいろいろと残せるし、便利そう』

「これは『写真』っていうの。外でも使えたら記録にも使えて便利なんだけどな……。でも光るし……」


 結局、発光禁止にするための操作がわからなかった。今回良いところ取りのカメラを作成するために細かい部分は曖昧に想像してしまった。そうするとこういう不具合が出てくるのか。次、精霊道具を作る時に気を付けたいところだ。


『どうしても外で使いたいなら領主様に相談してみたら? 便利なのは便利だし』

「……そうしてみようかな。資料の催促で連絡するし」


 一応カメラの動作テストは終え、現像された写真には問題が見当たらなかった。書き写すという作業は時間も労力もかなり使うので、普段使いができればと思っている。イディの言う通り、ヴィルヘルムに相談してみたら何か助言をくれるやもしれない。……ただこれは、この世界では魔道具という貴重と言われ大切にされている品なので、あまり良い答えは得られないかもしれない。


 ──シヴァルディ、道具を使って領主様とお話がしたいのですが……。


 ヴィルヘルムに繋いでもらうためにわたしは胸に手を当てそう念じた。すると、ややあってから了解の返事が返ってきたので、わたしは通信するための精霊道具を即座に取り出し、精霊力を注ぎ込んだ。そして通話開始のボタンを押す。


「こんばんは。お忙しいところ申し訳ありません。オフィーリアです」

『それはわかっている。……資料のことか?』


 さすがはヴィルヘルムだ。わたしの用件をぴたりと言い当てている。


「はい。アダン領に行くまでに見せていただいた資料の全てを訳してお伝えできたらと思うので、シヴァルディを通じていただけたらと思ってご連絡させていただきました。あと別件でご相談もあるので、それも聞いていただけたら」

『そうか。まあこれから忙しくなるのでもう渡しておこう。ただ無くさぬよう、見つからぬように、読み終えたらイディに必ず預けるように。……今、シヴァルディをそちらに送る』


 ヴィルヘルムがそう言うので、わたしは自身の精霊力を中心部に集めると抜き取られていく感覚がした。そして翠色の光とともにシヴァルディが現れた。


『お待たせいたしました、リア。これを受け取ってください』


 そう言ってシヴァルディは指をぱちんと鳴らすと、一冊の本と数枚の書類が出てきた。そしてそれをわたしに差し出す。


「ありがとうございます。領主様、シヴァルディ」

『……それで、相談とは何だ? 碌でもないことではないだろうな?』


 一つ目の用件が済み、ヴィルヘルムは次と促してくるので、わたしは借りた資料を鏡台に置いて、先程撮影したイディの写真一枚をシヴァルディに手渡した。シヴァルディは不思議そうな表情でそれを受け取り、じっと見つめている。


『これは……? とても精巧な絵で素晴らしいですわ……』

「えっと、『写真』です。それを領主様に渡してもらえますか?」


 とりあえずヴィルヘルムにこれを見てもらわないことには話が進まない。シヴァルディは『戻りますよ』と一言言うと粒子になってパンッと消えていった。


『……今、受け取った。対象物は間抜け顔で滑稽だが、見たものそのままで描いたような美しさだ』

『領主様、ヒドイ!』


 馬鹿にされた気がするがそれがわたしの前世の顔とはヴィルヘルムは思ってもいないだろう。しかし表立って抗議する訳にはいかないので、わたしは黙り込んでしまった。


『それでこれをどうやって手に入れたのだ?』

「……あ、領地から出発する前に精霊道具を作ったのです。『カメラ』と名付けたのですが、写したいものをそのような紙に出してくれるものなのです」

『ほお……』


 ヴィルヘルムは興味深そうに感心の声を上げる。その声からきっと楽しそうに写真を見つめているのだろうな、と安易に想像できてしまう。


『其方が作った精霊道具は其方が使うのだろう? それでこれに何の相談があるのだ?』

「外でもこっそりと扱えたらと思っていたのですが、『撮影』……写す際に一瞬閃光が走ってしまうのです。それで目立ってしまうので使いにくくて……。領主様なら何とか良い案など思い浮かばないかと思いまして」

『ふむ……』


 声を漏らし、ヴィルヘルムは思索に(ふけ)る。知恵を絞り、解決策を見つけてくれたならば御の字だ。わたしはヴィルヘルムの答えを待つ。


『案はあるにはある』

「本当ですか!?」


 わたしは思わず身を乗り出した。堂々と使うことができるのならば外での記録の際、便利だ。例えば孤児院の中庭の石碑の文章などそういうものが出てきた時は、カメラで一発だ。時間のロスもあまりないし、わたしも資料を手に入れられて幸せだ。わたしはまだ統一前の未解読文字とプロ―ヴァ文字を諦めていない。


『稼働していない魔道具の一つとして今回城から持ち出した、という体にすれば使える。使い方を記した資料が見つかったと言えば皆も疑問には思わないだろう』

「なるほど……」


 今は生活に必須の精霊道具くらいしか動かしていない。そう考えると、カメラは趣味の範囲に入るのでわざわざ稼働させるかと言われると否定されるものだ。そういう言い訳をすれば皆を誤魔化せるだろう。これでカメラを大手を振って使用することができる。かなりの助けになると思う。


「ではそう言い訳をさせてもらいます。領主様から借りました、と言いますね」

『使う時は必ず周りに声をかけなさい。いきなり光るとなると敵襲だと勘違いしてしまうからな。ただでさえ緊迫感が漂っているのだから』


 ヴィルヘルムの言葉に息を呑んだ。この敵襲とはヴィルヘルムの命を狙っている第一夫人の勢力のものだとすぐピンとくる。アルベルトはピリピリとした雰囲気を見せていた時もあったが、他はそう感じなかった。わたしが鈍いのかもしれない。だが、ヴィルヘルムの言う通り、状況は良くないので空気が張り詰めるのは当たり前だ。


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