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第三十二話 プローヴァとの相談 後編


『裏方? 表舞台には立たないということか?』


 わたしはその通りと首を縦に振った。目立つとさらに違うところから目をつけられるので、何があっても裏方だ。縁の下の力持ちという言葉があるように、知られずにしれっとやっておく立場の方が動き易いのは確かだ。


「わたしという存在は表に出ない方が良いのです。わたしが女という立場上、別の災いが起こるかもしれません。あと先程言った通り、見た目から見当違いの考えを持たれたら困りますもの」


 ヴィルヘルムたちが裏でわたしを操っているのではないか、と思われるのも嫌だし、王家とは別の派閥が出てきてわたしを夫人として取り込もうとする可能性が少しでもある以上、わたしは顔を見せるわけにはいかない。勿論王家の文官として働くのも良くない。


「わたしはシヴァルディたちとの約束でこの世界の精霊を目覚めさせたい。プローヴァ様がお目覚めなので可能かとは思いますが、今後のことを考えてこの地に精霊力を注ぐ者は必須。わたしは今の国王として君臨されているコンラディン様にその任をお願いしようかと考えていますが、プローヴァ様のおっしゃる通り、コンラディン様の精霊力量ではプローヴァ様との契約は厳しいでしょう」

『それでは難しいではないか』

「なので、わたしが裏方で動くのです。わたしはプローヴァ様と契約できていますので、力の器を作成してお渡しすることもできます。精霊殿での儀式を復活させ、あの石柱に溜めた精霊力と自身の精霊力を注ぎ、王になる方の精霊力の回復の速さを少しずつ速くしていくのです」


 精霊力が足りそうになければ、器を渡す前にわたしが精霊力をあらかじめ注いでおいても良い。注ぐ儀式をきちんと行えば、彼らの回復スピードは上がっていく。そうすれば自分で賄えるだけの力は得ることができるはずだ。そうなればわたしのお役は御免となる。精霊王と契約できれば良いのだから。

 わたしの提案に精霊王は厳しそうな表情で首を横に振る。


『案自体は良いが、後天的能力の伸び代が高いのは十から成人くらいまでだとライは予想していた。自身の子どもたちを見ていたらそうだったらしい。成人を迎えてから緩やかに伸びなくなったと。だからコンラディンではそこまで伸びないだろう。そしてその息子のブルクハルトも』

「え……!」


 精霊王のカミングアウトにわたしは驚きの声を上げる。

 けれどよくよく考えると思い当たるところはある。ヴィルヘルムとジギスムントが精霊力量を伸ばそうとした時、ジギスムントはヴィルヘルム程伸びなかったと嘆き、苦労していた。ジギスムントはクロネと契約を結べない絶望から必死に時間を見つけては力を伸ばしているそうだが、あまり上手くはいっていないようだ。

 同じ領主であるのにも関わらず、そのような違いが出ていたのだ。しかし精霊王の話で疑問が解消した。二人の違いは年齢だ。ヴィルヘルムは成人してしまっているが、ジギスムントほど時間は経っていないし、成人前から精霊力関係で苦労をしていた。そう考えると辻褄は合う。

 けれど、息子のブルクハルトもそこまで伸びなければ、次世代に期待するしかないのか……。魅惑の解読ライフまでの時間がまた延びていったことに愕然としてしまう。でも現王族に任せるのならば時間がかかってもやり遂げなければならない。


「では……ブルクハルト様のご子息を鍛えていくしかありません。目指すはご子息とプローヴァ様の契約です! それまではわたしが裏でフォローします」

『長期計画だな。……それほど王になるのが嫌か』


 悲しそうにポツリと精霊王は呟いた。わたしは軽く肩をすくめた。


「嫌というか、コンラディン様たちに恨まれてまで王座に就くほどの度胸がないだけです」

『そういう見方もできるが、…………そうか』


 また言ったことは断りの理由の三割くらいを占めているが、文字解読の時間を削られたくないというほぼ本心は言わないでおく。まあ今までに古代文字大好きアピールはしているので、精霊王は気付くかもしれないが。精霊王は何も言及してこないので置いておこう。


『だが、コンラディンたちはこの状態を良しとするだろうか? 「お飾りになれ」と言っているようなものだぞ? そのような屈辱を味わうくらいなら、と別の策を企てると思うが』

「コンラディン様方が考えるだろう別の策……、といってもわたしを取り込んで好きな時に好きなように使うことくらいしか思い浮かびませんでした。ですので、そのために精霊石を作成したいのです」


 わたしの提案を跳ね除けてブルクハルトあたりと婚姻を結ばされるのは、わたしの希望と反する。

 しかし精霊王の居場所を教えれば確実にそこは封鎖され、好きに精霊王と話すことはできなくなるだろう。場所に行けても監視は確実に付く。わたしが別の手段で精霊王と連絡が取ることができ、精霊王という存在が抑止力になればと考えていた。それは精霊王がこちら側に付いてもらわなければ意味がないのだが。


『何とまあ、他力本願な策だ。私が無理だと突っぱねたら崩壊してしまうではないか』

「そうですね……。まずは精霊王の居場所だけ伝えて様子を見るつもりです。コンラディン様たちがどのように動いてくるか、それ次第で身の振り方を考えます」


 どう動くかわからないが、確実に契約を結べないことはわかっている。何も情報がないのでできることは限られてくる。

 この申し出が断られたら……、そう考えたくないが、そうなればわたしは……。


『……ライの時のような顔を其方にもさせてしまうのは堪えるな』

「え……?」

『その、人生を捧げようという全てを諦めた顔だ』


 眉を顰め、どこか辛そうな表情をする精霊王を見て、わたしは慌てる。何かスイッチが入っちゃったんじゃないだろうか? 精霊王にそのような顔をさせるつもりではなかったのに。


「わ、わたし、諦めていませんよ? この世界の古代文字全てを解読するまでは死ねませんし、死ぬつもりもありません! 不死身になってでもやり遂げる覚悟です!」

『誤魔化しは要らぬ。其方は、王族との婚姻も最悪受け入れるつもりだろう? ……そういう顔をしていた。……其方は、少しライに似ている。友思いなところも、大切にしてくれた人を大切にしようとするところも、そっくりだ』


 友を思い出し、懐かしんでいるのだろうか。精霊王は目を細めながら、わたしの銀髪の髪の一房を手に取り、さらりと撫でる。髪色も顔立ちも性別も全く異なるが、わたしとラピスを重ねてみているのかもしれない。

 わたしは何も言わず、それをただじっと見ていた。見ているしかできなかった、が正解か。


『……ライは、同じ道を歩もうとする其方を見たらどう言うだろうか。……いや、愚問だな。そうならないようにライは自分の人生を諦めて動いたのに、また同じだと失望するだろうな。彼の悲しみに溢れた顔が目に浮かぶ』


 自嘲するように精霊王は乾いた笑いを浮かべた。そして、わたしの髪から手を離すと、瑠璃色の瞳がわたしの瞳を捉えた。


『オフィーリア、私は友の願いを叶えるために其方を守ろう。……精霊石を作成しようではないか』

「……よろしいのですか?」


 わたしの確認に精霊王は力強く頷いた。


『其方はどちらに転んでもこの地に精霊力を注がんと動くつもりだろう? それなら私の願いは叶っている。私の願いさえ叶えられそうもない今の王族に私は何もできない。彼らはライの血縁だが、ライの願いの方が大切だ』

「ありがとうございます……!」


 全く貴族のお嬢様らしからぬお辞儀を勢いよくする。長い髪がバサッと乱れながら重力に従って落ちていく。


『自己満足だ、気にするな。私は、この状況を打開するために何をしたら良いのだ? また、してはならないことも教えてくれ』


 精霊王は手をひらひらとさせながら、そう言う。精霊王の協力を得ることができたのは大きい。わたしは安心感からフーッと息を吐き出すと、顔を上げた。息苦しさが少しマシになった気がした。


「わたしが明かすまではプローヴァ様とわたしが契約していることは伏せてください。そして、明かした後はわたしとブルクハルト様が婚約とならないように、良いご助言をしていただけますと助かります。あくまでもそう動けばとなりますが。また、コンラディン様との交渉の際はプローヴァ様も精霊石を通じてお聞きください。先程言ったような提案をする予定になっています」

『わかった。言う通りにしよう。……たがオフィーリア、必ずこの地に精霊力を注ぐことを約束してほしい』

「勿論です。……わたしはそのために生まれたのだと知ったのですから」


 精霊王の言葉にわたしはこくりと頷いた。わたしがこの世界に存在する意味がはっきりしたのならば、駒通りに動くしかないのだ。シヴァルディたちとの約束もきちんと守りたい。


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― 新着の感想 ―
[一言] どうにか精霊王の協力を得ることには成功しましたねー ただ、王族との交渉が控えてますし安心してばかりもいられませんよね
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