第三十一話 プローヴァとの相談 中編
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自分本位で考えるならば、精霊王と連絡を取りやすいように精霊石を作成したい旨を伝えるのが一番だ。しかし精霊王がそれを承諾するのかが問題である。彼はラピスの助言を受け、争いを避けてここにいるのだ。わざわざ争いの火種となると自覚している精霊王がおいそれと了承するとは思えない。
もしそうしたいのならば、それなりの理由が必要だろう。……うーん、難しい。話をやり直せるわけではないので慎重にならなければならないので、しっかりと考えた上で発言しないといけない。
ヴィルヘルムは見極めろと言っていた。ここで何もしないよりは話した方が良いだろうと判断する。
「できるのならば外でも連絡が取りたいのですが……。クロネと契約した際にアダンの地に残すために拠点となる精霊石を作成したので、それを使えば真の力を発揮できなくとも連絡は取れるとは思うのですが……」
わたしの話に精霊王は顔を曇らせる。眠っている間も含め約二千五百年間、この部屋に引き篭っていたのだ。簡単に頷くとは思っていなかったので、その反応は予想通りだ。
『何故私を外に連れ出そうとする? 私の力は其方らにとっては大きな力だろう? それならば私は出てこない方が良いのだ』
「そうなのですが……」
『其方が私をわざわざ外に連れ出さなくとも、問題ないのではないか? 眠りにつくまで困ることはなかった。わざわざ火種を外に持ち出す必要もなかろうに』
彼の言い分は良く理解できる。けれど、それで引き下がってしまってはいけないのだ。
「プロ―ヴァ様のおっしゃることは理解できます。……正直に言うと、この件はこちらの都合です」
『私事都合か?』
「そうですね。言ったでしょう? わたしは王族の方より身分が低い立場だと」
『ああ。だがそれが私が連れ出すこととは繋がらないのでは?』
「それが十分繋がるのですよ。わたしにとっては防衛線なのです」
『どういうことなのだ? きちんと説明をしなければわからないぞ』
精霊王は困ったような顔をしている。悩むところだが、ここで精霊石を作ることを了承して貰えなければ、どちらにせよ今後厳しい。わたしは胸の前に手を当てた。
「プローヴァ様がおっしゃったこと、ライさんの手記、今の王族の考え、それぞれを知った上で考えました。……けれどわたしが王として君臨するつもりはありません」
『……何故だ?』
「以前に言ったかと思いますが、彼の子孫がいる以上、わたしがその座を奪い取るような真似はしたくありません。わたしが適任者であることはわかっていますが、今までの努力や功績を否定するようなことは……できません。争いなど起こしたくない、見たくないライさんやプローヴァ様ならわかるでしょう?」
『しかしこの地の力は衰えている。つまりこの地に住まう人間の力も衰えているということだ。精霊力を注いでいないということは総力が弱まるということ。この地の色付きの人間、例えライの子どもでもその力は落ちているのは確実だ。それを加味すると、九つの精霊、そして私と契約することは不可能であるし、この地に精霊力を注ぎ回ることも難しいだろう。他の貴族の力も落ち、王自身も落ちているならば』
「やはりそうですか……。プローヴァ様は視えていたのですね」
わたしを国王として君臨させようとしていたのは、コンラディンでは力不足ということだとわかっていた故だったのだ。未来が視えていたというよりは、知っている情報を掛け合わせた結果だが。
『だから其方はこの国を救うために神がもたらした救世主のような存在だ。ライもそれを理解して、神の望むように動いてくれた』
「当時の状況と今の状況を比べても全く同じではありません。今のわたしの見た目は成人前の小娘です。小娘が国取りをしようと思えば、後ろで誰かが糸を引いているとしか思わないでしょう? この場合、わたしの庇護者である家やジャルダン領主だと思われるのは確実です。……わたしは彼らに迷惑はかけられない」
『…………』
「神が何を望んでわたしをここに呼んだのかはわかりません。プローヴァ様の言う通り『王となり、平定せよ』なのか、別の方法を用いて『平定せよ』なのか、それすらわからないのです。わたしには今まで生きてきたわたしの事情があるのです。ご理解くださいませ」
わたしはキッと精霊王を睨みつけるように見上げた。ラピスとわたしでは環境も異なる。ラピスがこうしたから、わたしも同じ道を辿れというのは少しおかしいと感じてしまったのだ。
精霊王はここまで言われるとは思っていなかったのか、瞬く回数が多い気がする。わたしもそこまで言うつもりはなかったのだけれど、思わず言ってしまった。
『……其方の精霊は何も言うていないのか?』
「え? イディが、ですか?」
突然イディのことが出てきてわたしは目をパチクリとさせた。
イディがこの件について何か言っていたかと言われると、何も言っていない。わたしは首を横に振った。
「特に何も……。でもイディに何の関係が?」
『其方の魂から派生した精霊ということはロカリスと似たような存在のはずだ。……確かライの故郷の言葉だと、なびげえしょん、というものだ。異世界人を導くために神からある程度の知識を与えられているはずだが?』
「あ……」
そこまでの考えに至っていなかった。ロカリスがラピスにとってこの世界でのナビゲーターならば、わたしの魂から派生し、春乃の容姿にそっくりなイディも同様の存在だと考えても良いだろう。
けれど今までにロカリスのような言動はなかった。知っていることも少なかった。
「わたしが知る限り、特にナビゲートしてもらったことはないです。でもわたしの存在のことを考えると、イディはナビゲーターのはずですよね……」
何故か、と顎に手を当てて考え込む。だが、すぐにラピスとわたしの違いは転移であるか、転生であるかの大きな違いに辿り着く。
「わたしは転生だからでしょうか? 前の世界では死んでますし……」
『死を経験しているのか。不憫な。……だがそれが原因であるのは明らかだろう?』
精霊王は憐れむように眉を下げてわたしを見下ろす。精霊王がそう言うならこの推測は確かだろう。
『神とは会ったことなどないが、完全体である導き手が出現せず、不完全であるなら魂、肉体に問題があったのだろう。其方の場合は肉体だな。不完全な状態で転移できなかったから、無理矢理魂だけこちらの世界に移した、と考えるのが妥当だ。その反動が精霊に出たのではなかろうか』
「なるほど……? 九歳まで記憶が戻らなかったのもその影響があるのかも……」
『これは予測にすぎない。……ただ導き手がいないとなると、神が何を望むのかわからぬか。だが、私はこの地に精霊力が注がれ、精霊たちを生かすことができたらそれで良い』
精霊王は自分の意志を確認するようにブツブツ呟いた。……もしかして良い流れになっているのではないか?
『其方は、ライの子孫が代わりを担える状態になれば、と考えているのだろう? どうするつもりだ? とりあえず言ってみなさい』
「良いのですか?」
『まだ良いとは言っていない。聞くだけだ。私は其方が王になるのが手っ取り早く、決められたものだと考えているが、それを其方が否定するならばその方法を言ってみなさい』
「とりあえず聞いてやる」的な態度の精霊王に、こちら側の事情も考慮してくれる優しさを感じてしまう。無慈悲な方でなくて良かったと思わずにはいられない。……まあこの提案を受け入れてもらえるかはまた別の話になるが。
「きちんとまとまっていないのですが、大前提としてわたしは今の王様──コンラディン様、次の王様であるブルクハルト様に嫁入りすること、また、王都から逃れられないように囲われるのを防ぎたいのです」
『それは聞いた。そうならず、自分の故郷でひっそりと文字解読がしたいのだろう?』
バッチリだ。わたしの人生について彼は良く理解している。素晴らしすぎる。体温が上がっていくような興奮が湧き上がってくる。
「さすがです! 古代文字はわたしにとってなくてはならないものです! それに費やす時間が少なくなるならば生きている意味を感じられません。民族が一つになる前ならば、それぞれの文化があり、それに付随して文字も違っていると思います。……ああ! それを想像するだけで興奮が収まりません! プローヴァ様、どうしたらいいですか!?」
『……私に振るな。その話は横に置いておきなさい。それで、其方は代わりにどのような提案をする?』
とても面倒臭そうな表情を浮かべながら、話題を元に戻してくる。ちぇっ、もっと話したかったのに、と文句を心の中で留めておきながら、わたしは笑顔を貼り付ける。
「わたしが裏方で徹するための環境を確保しようかと思います」
少しバタバタしておりまして、執筆の時間が取れませんでした。今後も遅れる可能性がありそうです。申し訳ないです。できるだけ間隔をあけないように投稿します。




