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第十七話 会話からの考察、説教


 暮れの鐘の合図で家族での食事を終え、フェデリカに簡単に身支度を整えてもらい、ヴィルヘルムの部屋へと向かう。

 最近、ヴィルヘルムとは食事を共にする機会がない。会議の準備やら根回しやら領地の仕事やらをこの夜の時間で一気に片付けているようなので、簡単に食事を済ませる方を取っているそうだ。そのくらい忙しいのにわたしとの時間を取ってくれているのは有難いが、正直ヴィルヘルムにはゆっくりと休んでほしいところだ。第一夫人という脅威が去ったとはいえ、領主一族は実質ヴィルヘルム一人なのだからその分仕事量は膨大なのだから。


「それで、何故あのようなことになっているのだ。其方から事情を聴かねば何とも言えないが、聞いた上でも色々と言わなければならないことがあるのだが」

「ハイ……、それはもう……、ええ……」


 わたしなりにヴィルヘルムの心配をしているつもりなのだが、部屋に入った途端、ずんとした重い空気を纏ったヴィルヘルムが立っていた。低く冷たい声から出る上記の言葉に対してわたしはもごもごと小さく返事をする。ヴィルヘルムが言う聞いた上でも色々言わなければならない内容はわたしが根回しをしなかったことだということはわかりきっているし、わたし自身の立ち振る舞いが悪かったのが原因であるのであまり振り返りたくない。わかっているが故の逃避、良くありますよね……。

 目をあまり合わせたくなくて、変な方向を見てしまうが、ヴィルヘルムはその行為を咎めることなく続ける。


「誤魔化すことなくきちんと話しなさい。そうでなければ今後の対策もできない。時間が足りないのは其方もわかっているだろう?」

「わかりました……」


 ここで嘘で塗り固めた言い訳をしても自分のためにはならないことはわかりきっているので弱弱しい声になってしまったがわたしは承諾した。良くないとわかっていたことを改めて言葉にするのはとても気持ち良いものではないが仕方がない。認めて次に進めるように気持ちを入れ替えよう。わたしは大きく深呼吸をして気持ちを整える。


「資料だけでは見つかりにくい話はしていましたよね? ですので今日も少々抜け出して古城を探っていたのですが……、少しおかしな部屋を見つけまして……」

「おかしな部屋、だと?」

「はい……。物で整えられた部屋ですと家具に紛れて目立たないはずなのですが、古城から今の王城に拠点を移す際にある程度のものは運び出されたおかげなのか、壁にプローヴァ文字が刻まれていたのです。『手、当て、精霊王、建国せる国王の名を呼べ。選ばれし色のみ、通るべし』……だったと思います」


 わたしがそう言うと、ヴィルヘルムは目を見開いて固まった。しかしそれは一瞬の出来事ですぐにわたしの方に顔を向け、ぽつりと呟く。


「隠し部屋か」


 ヴィルヘルムの言葉にわたしはこくりと頷いた。


「はい。実際に精霊王プローヴァと初代王ラピスの名を呼んだら、壁の一部が消え、隠し部屋に繋がる通路が現れました。それで……」

「探っていたら時間を使ってしまって、あのような事態になったということか……。はあ。オフィーリア、其方は目の前のものに飛び付き過ぎだ。今回は何とかなったので良かったが、そういう場合はそこで一度引き返すのだ。改めて長時間退席していても怪しまれない内容をブルクハルトに根回ししてからじっくり探るべきだった」

「はい……、おっしゃる通りです……」


 ヴィルヘルムは大層呆れた表情のまま、額に手を当てやれやれとため息をついている。わたしはヴィルヘルムの言葉に同意しながら小さくなっていく。

 ド正論過ぎて何も言い返せない。時間のことを気にするのならばあの時、あの部屋を探索するための時間を確保してから向かうべきだったのだ。そうすれば焦るようなことはなかったのだ。


「しかしブルクハルトは其方に気に入られたいという気持ちを持っている。そのおかげなのかはわからないが、其方と対立しかねない発言はしないように心掛けているようだ」

『基本的にリアの言うことには同意したいようですね。共感、と言っても良いでしょう。ただ背後にヴィルヘルムがいるということで敏感にはなっていると思います』

「だから変な動きをすればその指示をしているのが私と変換されてしまう。私は多少の火の粉は振り払えるが、多くなればなるほど難しくなるので注意してほしい」

「申し訳、ありません……」


 怒鳴ることなく淡々とした説教にわたしは声を沈ませながら謝罪の言葉を述べた。わたしの迂闊な行動のせいで巻き添えを食らいかねない状態なのに冷静に話す姿にさらに申し訳ない気持ちになる。きゅっと唇を嚙んで溢れそうになる気持ちを抑え込んだ。


「きちんと理解した上で行動しなさい。ブルクハルト様を相手にするということはそういうことなのだから」

「はい……、本当に申し訳ありませんでした」

「今は良い。暗い顔をされるとこちらの調子が狂う。そんな顔を見せるな」

「はい……」


 そう言われてもすぐには気持ちを入れ替えられない。感情を出すな、考えていることを読まれるな、と言われ続けているが、それを当たり前に生きてきたのでそんな数年ではできるわけがない。

 沈んだわたしを慰めてくれるのかイディがすぅ、と傍に寄ってくれる。特に声をかけるわけではないが、ただ傍にいて、頭を撫でてくれた。

 そんな暗い雰囲気を払拭したいのか、シヴァルディが話題を切り替えてきた。


『リア、それでその隠し部屋での出来事を詳しく教えてはくれませんか?』

「あ、はい……。思ったより長い通路でしたが進んで行くと、こじんまりとした小さな部屋に出ました。古城同様に殺風景なものでしたが、中心に青い宝石のような丸い玉が一つ置かれていました。石碑だと思い込んでいたので驚きましたが、シヴァルディたちと同様な役割を持っていると思い、精霊力を注いでみました」


 そう言いながらわたしは一枚のメモを取り出す。古城にいる時に隙間時間で書いたものだ。乱れたひらがな、カタカナ、漢字が並んでいる。自分で書いておいて何だが、読みにくい字だ。


「それで? やはりその宝石には精霊王が眠っていたのか?」


 ヴィルヘルムの問いかけにわたしはこくりと頷いた。するとシヴァルディは嬉しそうな声を上げて、口元を覆った。精霊のトップが復活したことが喜ばしいのだろう。


「時間はかかりましたが、わたしの精霊力を使って目覚めさせることができました。ですが、ブルクハルト様の件もあって焦っていて……、それを知っているのか精霊王は『明日また来るように』と言って引っ込んでしまったので、詳しいことは何一つわかっていません」

「だが会話はしているのだろう? どのような会話をしたのだ。その中にも足掛かりは隠れているものだ」

「そう、ですね……。少々お待ちください……」


 そう言ってわたしは手元のメモを見る。あっという間の出来事だったので、覚えているうちにまとめておいて良かった。精霊王が言っていた言葉が書かれた欄を探す。そしてその時に言われて訳が分からなかった単語である呪いのこと、無色のことなどを含めてざっくり話していた内容を伝えた。

 それを聞いてヴィルヘルムとシヴァルディ、そしてイディもうーんと考え込む仕草を見せた。


『無色の娘……は確実にリアのこと言ってるよね? 特殊な精霊力ということは領主様やブルクハルトたちとは違うっていうこと?』

『そうなりますね。リアは初代王と感じが似ている気がします。初代王と同様ならば、もし仮にリアが他の精霊と契約したのならば、彼と同じようにさらに白味が増すということでしょう。無色……ということは染まって混ざっていく、ということでしょうか?』

「シヴァルディの仮説は正しいのかもしれない。基本我々は精霊力に色を持つ。私ならば翠、ジギスムント叔父上ならば灰色、コンラディン様、ブルクハルト様なら白、というようにな。オフィーリアが無色であることによって、触れなかった石柱が触れるという謎の理由が理解できた。無色であるが故、色々なところに触れられる。王族の白色を含め、全てを包括しているということか」


 わたしは自分の手元をじっと見つめた。わたしの精霊力の色はイディの橙色ではなく、無色透明であるということか。だからシヴァルディやクロネの石碑、各領地の石柱に難なく触ることができたのか。

 ……では何故? その疑問が浮かんだが一瞬で解決する。


 ……前世の記憶だ……。


 わたしには卯木春乃(うつぎはるの)という前世の記憶がある。小説風に言うなれば、転生したと言ったらしっくりくるだろう。わたしの元となる魂は、地球の日本という小さな島国で生まれたものだ。オフィーリア視点で言うと春乃は異世界人ということだ。

 もしかするとこの現象はたまたまそうなっていたのかもしれない。しかし、もしこの現象に無理矢理理由付けするならばこれしか考えられない。

 わたしの考えが正しいのならば、もしかして……。


『プローヴァ様が言っていた精霊の呪い、という言葉も気になります。以前ジギスムントから借りた資料にもその記述がありましたが、起こってはならないものだと思いましたし』

「確か精霊を害そうとすればそれが跳ね返ってくるというものだったか?」

『精霊に死の概念はほぼない。そして精霊は自由に生きるものだもの。でも共生したい気持ちが本能的にあるから手を貸しているに過ぎないんだよ』

「オフィーリア、プローヴァ王は『呪いの反動で眠りについた』と言っていたのだな?」


 突然問いかけられて、違うことを考えていたわたしはハッとして顔を上げた。

 ヤバい……、あんまりちゃんと聞いていなかった……。

 わたしはへへへ、と誤魔化すように笑みを浮かべると、ヴィルヘルムははあと小さくため息をついた。聞いていなかったことが確実にバレている。


「いつまで落ち込んでいるのだ。しっかりしなさい。気を付けさえすれば良いのだから。……それで、その時プローヴァ王は『呪いの反動で眠りについた』と言っていたのだな?」

「はい。呪いの反動と確かに言っていました」

「なるほど……、そうか。わかった」

『何かわかったのですか?』


 シヴァルディがヴィルヘルムの考えていることに興味を示し、尋ねたが、彼は険しい顔をしている。シヴァルディの問いに答えず、ヴィルヘルムはわたしの方を向いて言った。


「とにかく明日、尋ねたらわかることも多いだろう。イディやシヴァルディと行動できないことについては不安があるが、眠りにつく前のことをきちんと聞き出してきなさい。そして我々の要求も話しておくと良いだろう。勿論プローヴァ王の考えを聞くことも忘れずに」

「眠りにつく前……? 精霊たちが去った時のことですか?」


 わたしの問いにヴィルヘルムはああと同意する。精霊王が絡んでいる可能性が高いということだろう。コンラディンは突然消えた、と言っていたし、知っている者がいるとすればもうそれは精霊王しかいない。当たり前か。

 そう考えていたら、ヴィルヘルムは少し言いにくそうにぽつりと言った。


「もしかすると当時突然死した王族の中に精霊王を害そうとした者がいるのかもしれない」


 突然の言葉に頭が混乱した。



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― 新着の感想 ―
[一言] 精霊王からの言葉でヴィルヘルムが気付いちゃいましたねー 精霊がいなくなったことのそもそもの原因が当時の王族にあるかもしれないことに
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