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第十六話 合流と後悔

本当に遅くなり申し訳ございませんでした。


『ああ! リア! 良かった……!』


 もと来た道を真っ直ぐに戻り、イディが弾かれた場所まで戻ってきた。わたしの姿を見た瞬間にイディは安堵の表情を浮かべ、わたしに駆け寄ってきた。「心配かけてごめん」と言いながらわたしはイディの小さな頭を一撫でする。


『とりあえずシヴァルディ様に念話を送って! そしてすぐに資料室に戻ろう! ちょっと前くらいにブルクハルトが動き出したみたい』

「え! わ、わかった!」


 イディに急かせれてわたしは慌ててシヴァルディに念話を飛ばした。先程返事が来なかったとは思えないくらいのスピードで返ってくる。やはりあの部屋は特殊な守りのようなものがあるのかもしれない。

 シヴァルディから、直ぐに今いる場所から離れてほしいということと、ブルクハルトはお手洗いがある場所付近を探しているということを教えてもらったので、助言に従い、わたしはさっさと今いる部屋から出る。いつかはブルクハルトをここに連れてくることになると思うが、情報不足は否めないので今のタイミングでない。おそらく近いうちだとは思うけれど。


『シヴァルディ様から聞いた? お手洗いの方に向かって行くよ。言い訳は考えてる?』

「うん……、まあ、何とか……」

『お腹痛かったとか、頭がボーッとしてたから休憩してたとかいろいろあると思うから、リアが困らない理由付けを考えてね。きちんと根回しとかしてたら良かったって思うよ。あそこでヒヤヒヤしながらそう思ってた』

「……ソウダネ……」


 イディの言うことにぐうの音も出ず、わたしは廊下での人影の有無を確認し、サッと出て静かに扉を閉めた。ここは資料室に近い場所なのでそこまで入り組んだ場所ではない。まっすぐに進めばお手洗いに辿り着く。わたしは言い訳をうまく成立させるために玄関へと繋がる分岐点へと急ぐ。

 イディが言っていた休憩がてら外の空気を吸っていたと言えば、まだマシかもしれない。さすがに古城を散歩していたことを馬鹿正直には言えない。高価なものがなくとも秘匿とされた場所なのだから部外者がウロウロしていたら誰だって嫌だろう。

 ……そうか。今後、ちょっと休憩してきますね、と声掛けていけばこのように慌てずに済むのか……とも考えたが、あのブルクハルトの様子を考えると、「付いて行きますよ」とか言いかねない。うーん、面倒だ。


『今、ブルクハルトはお手洗いの方からこっちへ向かってるみたい。うまく事が運んで良かったね』

「じゃあ玄関の方からバッタリとくる感じで行くね。……本当、良かった……」


 イディはシヴァルディと繋がっているのか、ブルクハルトの動向を教えてくれたので、わたしは玄関へと繋がる道の方へ行く。今のところブルクハルトの影は見えない。首の皮が何とか繋がったことにホッと安堵した。


 ……それで、精霊王はやっぱりあそこにいたの?


 もう直ぐブルクハルトがこちらに来るということで声を出せないことを察してイディが念話を送ってきた。わたしはイディの方へと向き直るとゆっくりと頷いた。


 でもわからないことだらけ。精霊王もなんか察して明日また来いって言ってたから、今日シヴァルディも含めて話すつもり。


 ……そっか。リアがどんな選択をしてもワタシはリアの味方であり続けるからね。


 にこりと笑うイディを見て、力が入っていたのかガチガチになっていた肩がフッと軽くなる。自然と口元が緩み、フーッと息を吐いてしまった。

 すると、わたしが来た方向とは反対側の廊下からコツコツコツ……と足音が近づいてきた。この古城にいる人間はわたしとブルクハルトしかいないはずなので、聞こえる方向も合わせるとその主はブルクハルトに違いない。……自然に、いつも通り、何も悟られないように、と何度も自分に言い聞かせて小さく深呼吸をする。それを二、三度繰り返して意を決すると、背筋をピンと伸ばして一歩前へと踏み出し、T字路の中心に出た。


「ああ! オフィーリア! 探しましたよ!」


 案の定、声のする方向へ顔を向けると、ブルクハルトが笑顔を浮かべながらこちらへと小走りで駆け寄ってきた。可愛らしい女の子が駆け寄ってくる展開は小説で良くあることで、きゅんとしてしまうことだが、目の前には二十を超えた成人済み男性だ。まあ爽やかな男性ではなあるので、好みのタイプならばきゅんとすることもなくはない……のか? 前世では彼氏のかの字もなかったくらい男っ気のない生活だったから、正直あまりピンと来ない。

 とりあえず心配して探してくれていたこともあるので、ブルクハルトの方に向く。監視で付けていたシヴァルディはホッとした表情を浮かべていた。探していた事実はもうわかっているので、先手必勝で頭を下げる。次期国王に心労をかけてしまった事実は許してもらわねばならない。


「申し訳ありません……、探してもらうことになるとは思わず……。少し気分転換がしたく、外に出て森の空気を吸っていたのです。ここの森林は何故だか気分が休まるのです」

「そうだったのですか……。そう言っていただけたら私が案内しましたのに……」


 必死に考えた言い訳をスラスラと述べると、ブルクハルトは少し困った笑顔になりながらも納得してくれた。わたしが来た方向にあるのは出入口しかないので、そう判断せざる得ないだろう。わたしはブルクハルトの返答に頭を下げた状態で両手を前でブンブン振る。


「いいえ! ブルクハルト様はお忙しい中、わたしのために時間を作り、この古城に篭ってくださっているので……。お仕事もあるかと思いまして……。ですが、ご心配をおかけしてしまったのならば先に言っておけば良かったです。本当に申し訳ありませんでした!」


 耳にかかっていた銀色の髪がするりと耳から外れ、顔へと垂れる。

 頭を下げた状態なので、ブルクハルトからは見えないのが幸いした。何故ならわたしの顔は歪んでいるに違いないからだ。結局、事前に言っても付いてくるのか。何を話すのかはわからないが、ヴィルヘルム関連のことだろうと想像するとげんなりしてしまう。

 ここまで察しが悪いと次期国王としてはどうなのかと思うが、もしかするとブルクハルトはわたしの気持ちを見ていないのかもしれない。本人が言っているわけではないので何とも言えないけれど。百パーセント善意、と捉えるのは安直なのかもしれない。


「顔を上げてください、オフィーリア。もし休憩が欲しければ遠慮なく言ってください。さあ、貴女の安全も確認できましたし、資料室へ戻りましょう」

「はい……、ご配慮、ありがとうございます」


 何とか作り笑顔を浮かべて礼を述べると、ブルクハルトに促されるままわたしは資料室へと向かう。

 ……明日、抜け出す理由付け、きちんと考えないといけないな、と考えさせられることになった。イディたちに相談しても良いかもしれない。帰ってからになるので今は考えるのは止そう。


 その日は呼び出した精霊王のことで頭がいっぱいだったが、一つひとつ言っていたことを思い出してメモに書き留めておいた。そしてピックアップしていた資料の読破も目指す。まだ題名読みできていない資料が膨大にあるが、一応当初の目的である、精霊王と会うことは達成しているので交渉材料としては最低ラインにきた状態だ。今、目の前にあることをできる限りやるしかない。


 そんなことをやっているうちにあっという間に日暮れが近づいたので、通常通り古城を出た。王都に滞在する日数も残り少なくなっては来ているので早いところヴィルヘルムたちと相談してどう立ち回るのか考えたいところだ。まあ明日の精霊王との会話次第なところもある。そこで情報がたくさん得られれば早く動くことができるが、精霊王もシヴァルディ同様に知らないことが多ければまたこちらで情報を収集していくしかないところもある。切り札は多ければ多いほど良いのだ。



『ある程度はシヴァルディを通じて聞いているが、色々と聞かなければならないこともある。食事が終わり次第部屋に来るように、とヴィルヘルムから伝言が……。既に貴女の側仕えには話を通しているようです』

「う……、まあわかってはいましたが、きちんと説明して助言を請わなければいけないので精霊王のことも含めて全て話します……」

『まあそうだよね。あれだけやらかしてるんだから領主様も会議どころじゃなかったかもね……』


 シヴァルディから明言されているわけではないが、ある程度の視覚共有をしていたらイディの言う通り気が気ではなかっただろう。あまり怒られたくないので上手く言い訳しつつ、精霊王のことを出して話を逸らしつつ……としていかなければならない。面倒くさいなあ本当に。



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― 新着の感想 ―
[一言] どうにかバレずに済みましたが、やはりブルクハルトが探していましたし間一髪でしたねえ イディの言う通り根回しができていれば良かったんですが隠し部屋の発見が偶発的なものでしたから今回ばかりは仕方…
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