別話 精霊の呪いと独り言 ???視点
ある一室にて、一人の青年が物書きをしていた。しかし普通の物書きの様子ではなく、書いた後の文字たちは黄金色に光り輝いている。その異様さを指摘する人間はこの部屋におらず、青年は気にするそぶりもなく書き続けていた。
精霊の呪い
精霊、土地の精霊力が失われぬ限り死すことなく、人に力を貸し続ける。
されど悪意を持つ者、精霊を害せむとせるほど、精霊の呪い、発動す。呪いがいかなるものかは伝聞のほかに知らず。由は、一度も発動せるがなければなり。
呪いにて聞けるは、跳ね返るということばかりなり。また、精霊の位、高くば高きほど、呪いの範囲は大きになるめり。
ゆめゆめ精霊の呪いを発動さすべからず。
「……この項目はこんなものだろうか」
私はペンを置き、一呼吸おいた。先程作成した本に見立てた精霊道具を撫でる。
正直、この内容を書くのはどうかと思ったが、次の王になる者は精霊とともにあることのデメリットを知るべきだ。それを知った上でうまく付き合っていくしかない。
精霊と力を合わせるととてつもなく莫大な力を得られる。下手をすれば一人で国取りもできるかもしれない。だから情報制限の必要があるからこうしていろいろと動いているわけだが……。
それが正しいのか、間違っているのか、よくわからなくなってきた。けれど今はこれが最善だと思って突き進むしかない。
「精霊の呪い……ね……」
私自身も発動させたことがない。全てはプローヴァからの伝聞でしかない。
精霊王プローヴァ。彼は精霊を統べる存在。
彼がそう言うのだから、そういうものがあるに違いないし、起こさないことに越したことはない。死の概念が基本ない精霊に手を出すなんてそんな意味のないことをする人間がいるのかと思うが。
精霊の呪いは跳ね返すが基本。特殊なものもあるそうだが、腕に切り傷を付ければ、自分の腕が傷付くし、殺そうとすればその致命傷が自分に付く仕組みだ。しかもそれで精霊の体が傷付くことはない。欲に塗れた人間から脅されて言うことを聞かせるなんてことは起こらないだろうな。何とまあ素晴らしい仕組みだよ。
「プローヴァには何処まで視えているのだろう。全てが視えていないから、敢えてこのことを伝えたのだろうけど」
プローヴァは未来を見通せる力を持っている。そしてその力を我々のために行使してくれている。有難いことだ。その代わり、精霊王が望んでいる精霊力でこの土地を満たす義務を担っているのだ。たったそれだけで良いのかと呆気に取られてしまうが、友である彼が満足しているのならば良いだろう。
土地に精霊の力の原動力である精霊力を流すことで得られる利点は豊作だけでない。
私がこの地を満たすために注ぎ回ったことでわかったことだが、どうやらこちらの身体も大きく変化しているようだ。
一部の人間には精霊力が宿っている。その器の大きさは魂によって決定されている。ある特例を除くと、この世界に生まれ落ちた瞬間に決まるようなものだ。器の大きさと精霊力を使える量は比例しているのは良くわかるだろう。器の大きさが小さければ小さいほど不利なのだ。
しかしこの前提を覆すものが上記の内容だ。
器の大きさというものを先天的と名付けるとすると、後天的な力というものがある。先天的なものは自身の努力では変えることはできないが、後天的な力は努力によって大きな力を得るものとなるだろう。けれどその変化は一歩間違えれば大きな争いを生みかねない。
では、後天的な力とは何か。
それは回復の速さだ。精霊力を使い、中身が枯渇しても自然回復のスピードが速ければ無限に使うことができる。それを可能にするには土地に精霊力を納めるという単純なことで可能としてしまう。私自身、この危機的状況で多くの地に精霊力を注ぎ回ったおかげで神的と言えるくらいの力を手に入れることができた。
しかし力を手に入れると、底知れぬ恐怖も湧いてきた。
────もし他者がこのことを知れば、力の奪い合いになるのではないだろうか、と。
私が王として君臨せざるを得なかったが、この力さえ得られれば私でなくともこの小さな国の王になれるだろう。しかし力を得ようと思えば永遠に得られる環境は常に下剋上を生みかねない。それは国が荒れるのと同義ではないだろうか。
それは我が友も私も願ってはいない。私がここにいる意味はこの土地の安定だ。悲しい定めだが、それを全うするしかないのだ。
「隠すしかないのか……」
このことを知るのは私とプローヴァのみだ。他者はどうやら気付いていないようだ。それならば国が荒れる情報は遮断すべきなのかもしれない。今なら間に合うだろう。
「取り敢えずプローヴァに相談しよう」
先程まで書いていた部分を指でなぞった後、そのまま本を閉じた。この本は秘密にするべき内容となるので特殊加工を施している。私は本の表紙に手を当て、精霊力を多めに注ぎ込んだ。
そして席を立ち、本を机の引き出しに仕舞う。この部屋に忍び込んで漁る人物はいないだろうが、念のためだ。
そうして今後の方針を相談するために、友がいる場所へと向かうことにした。彼は何というだろうか。彼の考えが聞きたい。
黒の瞳をギラリと光らせたのち、青年は部屋から立ち去っていった。
先程まで執筆していたこの本は後々、数多くの人物の手に渡ることとなる。
投稿再開します。よろしくお願いします。




