誕生日パーティー 後編
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花園をイメージして装飾をした、とレイフォルド様が言う通り、誕生日パーティーのお部屋には、たくさんのお花や植物が生けられていた。
良い香りに包まれていると、まるで本物の花園にでも来てしまったかのような気持ちになる。
「わあぁ、とても素敵。ありがとう兄様!」
「喜んでもらえたらなによりだ。誕生日おめでとう、アルフレド」
「おめでとうございます。アルフレド様」
にっこりと微笑むアルフレド様の横顔は、まるで花園に佇む可憐な妖精みたいで、とっても愛らしい。
「さあ、乾杯しよう!」
レイフォルド様が、濃い紫色の液体が入ったグラスを持ち上げた。なかみは葡萄酒かしら。
テーブルには、私が見たことも食べたこともないような、さまざまな料理と飲みものが並んでいた。薄く切ってあるハムは、薔薇の花のように盛り付けられていて、見ているだけでも楽しくなる。
「カルナディアさんは、お酒飲める?」
「いえ、お酒は苦手で。お水などあれば……」
「えっ、お水でいいの? お酒が駄目なら、僕と同じコレはどう? 美味しいよ」
そう言ってアルフレド様が、差し出してくれたのは、小さくカットされた果物がたくさん入った透き通る琥珀色の飲み物。
「フルーツ入りの冷たい紅茶だよ」
「美味しそうですね。せっかくなので、いただきます」
三人でグラスを合わせて乾杯をする。
誕生日パーティーのはじまりだ。
かわるがわる屋敷の使用人が料理を運んできては、アルフレド様にお祝いの言葉をかけていく。その表情から、アルフレド様を心から慕っているのが伝わってくる。
なかにはお手紙を書いてきた使用人や、一輪の薔薇を持ってくる人もいたり、プレゼントもたくさん。
嬉しそうな笑顔を浮かべるアルフレド様に、私までほっこりした気持ちになった。こんな誕生日っていいな。
部屋の隅には、こんもりとしたプレゼントの山が出来ている。すべてレイフォルド様からの贈り物。その中には、先日、ローズヴィメアから納品したものも含まれていた。
結局、全部買ってくれたのよねぇ。
ありがたい……。
「アルフレド様、私からのプレゼントも受け取ってくれませんか?」
「えっ!? カルナディアさんが、僕にっ!?」
「ふふっ、ほかに誰がいるというのですか」
本気で驚いているアルフレド様に、私はついに例のモノが入った包みを渡した。
「開けてみても良い?」
「もちろんです。ひとつは値段がつけられないほどスゴイもので、もうひとつは使い捨て用にでも……」
お酒をたくさん召し上がって、ほんのり頬を赤くしたレイフォルド様も興味津々と言った様子で、アルフレド様の手元を覗きこんでくる。
「あっ、これは……」
中から出てきたのは「女魔術師・ミスリルライラ」の本だ。愛読書であるアルフレド様なら、既に所持しているに違いない、けれど——。
「この本は、普通のとはちょっと違います。表紙を開いてみてください」
「?」
素直なアルフレド様は、私の言ったとおりに表紙を捲ったところで、大きく目を見開く。
一緒に見ていたレイフォルド様にいたっては、書かれている内容を見て、ぽかんと口を開けた。驚く美青年達——……可愛いんですけど。
「こっ、これっ……、うそっ……本当に……?」
「作者本人から、だと——!?」
「はい。間違いなくミスリルライラの作者『マリー』から、アルフレド様宛に預かってきた、ご本です」
私は誇らしい気持ちで、胸をはって言った。
「どこの誰かは申し上げられませんが、作者のマリーは、実は私の古くからの友人なんです」
「ええっ!!」
「まさか友人だとは……」
驚くのも無理ない。
特にミスリルライラの作者については、世間には厳重に伏せられているから。
男か女か、年齢などもすべて極秘になっている。もしバレたら、マリーの日常は平穏とは程遠くなってしまうもの。
「はい。アルフレド様のことをお伝えしたところ、マリーは快く直筆のメッセージを書いてくれたんです。ミスリルライラを大切に思ってくれる愛読者のお誕生日を、自分もお祝いしたいと……」
「っ……、嬉しい……」
感極まったアルフレド様の瞳から、ぽろりと涙がこぼれ落ちる。
泣くほど喜んでくれた。嬉しい……。
準備した甲斐があったよ。
「カルナディアさん!」
「はい、なんでしょう」
「僕がマリー様に手紙を書いたら、渡してくれる? どうしても御礼を伝えたいんだ。それに——……僕がどんなにミスリルライラの物語を愛しているかも、たくさん伝えたいんだ」
「もちろん! それならお安い御用ですよ」
「ありがとう、ありがとうカルナディアさんっ!」
「そんな……御礼なら、マリーと、ミスリルライラのドレスを見つけてくださったレイフォルド様に言ってください」
「うんっ、兄様もありがとうっ! 大好き!」
いったんプレゼントをテーブルに置くと、アルフレド様が、レイフォルド様に抱きついた。
「わたしも大好きだぞ、アル!!」
ギュッと抱きしめあっている兄弟。
本当に仲が良いのねぇ。
——はっ、まさかっ。
「ん? アル、包みがもう一つあるようだが?」
「本当だ……そういえばさっきカルナディアさんが、使い捨て用がなんとかって……」
「あっ、ソレはですね、」
あぶない。禁断愛の妄想の沼に沈むところだったから、助かった。
アルフレド様が、包みを開けて中に入っていたものを、ひらりと広げた。
「わあ、木綿のハンカチだぁ!」
「大したものじゃなくてすみません、やっぱり絹のほうが良かったですね……すみません……」
なんだか急に居た堪れない気持ちになる。こんな可愛い人に、やっぱり木綿のハンカチは似合わなかった。
「ううん、そんなことないよ。こんなに上手な刺繍のしてあるハンカチははじめて。カルナディアさんのお手製? やっぱり本物のお針子は腕前がすごいね!」
大切に使うね、と私を見て微笑んだアルフレド様。
やっぱり天使かもしれない。
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