魔術師
お待たせしました!
「みんな、本当にお疲れさま! おかげで予想以上に利益がでたわよ!」
「ミイサさん、やりましたね!」
閉店まで客足が絶えることなく、マジカル・ローズヴィメアの初日は大盛況のまま終わった。
マリーと、アルフレド様にも感謝だ。
二人がいなければ、ここまで大きな売上をたたくことは出来なかっただろう。
「ミイサさん、先に帰っていてください。私は少し用事があるので……」
「わかったわ。明日もよろしくね」
そう言ってミイサさんは、軽い足取りで去っていく。
さて……私も行かなくちゃねぇ。
軽く化粧直しと、髪を整えてから、待ち合わせの場所に向かう。
閉館後の博物館は静かで、大きな窓から差しこんだ月明かりが壁や柱の彫刻を照らし、なんとも荘厳な雰囲気を醸していた。
展示室の扉を開けると、そこにレイフォルド様の姿があった。
「……っ、……」
その整った美しい横顔に、思わず胸がどきりと高鳴る。
あの日と違い、今のこの部屋にはたくさんの魔道具が展示されている。レイフォルド様は、私を待つ間、それらを眺めて時間を潰していたのだろう。
「お待たせして、すみませんでした!」
「あ、いや、そんなに待ってはいない……」
レイフォルド様の声が上擦っている。
もしかして……緊張、してる?
なんの話をされるのかドキドキしているのは私なのに、どうしてレイフォルド様が緊張しているのか分からない。
「あ、あの……それで、話したいことって……」
うかがうように見上げると、覚悟を決めたような強い瞳に見つめ返された。
「まず、話の前にこちらに来てほしい」
「えっ?」
戸惑いながらも、歩き出したレイフォルド様を私は追う。
連れていかれたのは、広い展示室のなかのあるショーケースの前。なかには色々な種類の魔道具が並べられている。
レイフォルド様はポケットから鍵を取り出すと、それを使ってショーケースの蓋をあける。
「勝手に開けちゃって、いいんですかっ!?」
「かまわない。これは元々、わたしの家にあったものだ」
「へっ……、そうなんですか?」
そういえばレイフォルド様は、魔術師の系譜……って言ってたっけ。
だから魔道具のひとつやふたつ所持していても不思議じゃないし、博物館に寄贈したものもあるかもしれない。それにしても……。
「わあ、この魔道具、宝石みたいに綺麗ですねぇ」
取り出したのは台座にはめられた六角形の青い石。
手のひらに収まるくらいの大きさの石は、ランプの灯りに照らされてキラキラと輝いている。まるで夜明けの空に浮かんでいる星みたいだ。
「あっ!」
レイフォルド様の指先が石の表面をなぞると、驚くことに見たことのある紋様が浮かびあがる。
幸運をあらわす紋様。
ミスリルライラの物語にも出てきたから知ってるし、ハンカチに刺繍したこともある。
「カルナディア嬢、手を出して」
「は、はい? こう、ですか?」
おずおずと右手を胸の前まで持ち上げる。
するとレイフォルド様は魔道具を乗せた自分の手のひらの上に、私の手を重ねた。
あたたかな体温は心地よいけれど、心臓に悪い。
触れられたことで頬にも熱があつまってきて、明らかにレイフォルド様を意識してるのはバレバレだ。
さらにもう片方の手も添えられ、私の右手はレイフォルド様の手にすっぽりと包まれる。
「あのぅ……」
「うまくいくと良いんだが」
「なにが、です?」
「癒しの魔術。わたしには遠い祖先の……魔術師の血が流れている。魔道具に触れる機会が増えたことで、多少だが、魔道具を介しての魔術なら使えるようになった」
「ええっ、すごい!!」
本気で驚いてしまう。
だって魔術師は物語のなかにしかいない存在だし、それが常識だから。
もしレイフォルド様が魔道具を自在に扱えるようになったら、世間は大騒ぎになるのは間違いないだろう。
「わたしは、キミを守れなかった」
「……そんなことは」
「ずっと悔やんでいたんだ。カルナディア嬢は、わたしが一番大切にしている弟……アルのすべてを受け入れ、笑顔にしてくれた。それなのに、わたしはキミの大切なものを守れなかったと」
「私が針を持てなくなったことを、そんなふうに思ってたんですね。レイフォルド様のせいじゃないのに……」
握りしめてくる手に力がこもる。
同時に、魔道具が熱を持ちはじめた。
怖くなってレイフォルド様を見つめると、額に玉のような汗をかいている。ひどく苦しそう。
「レイフォルド様! 魔道具を放してください!」
「平気だ。キミを癒すためなら、これくらい」
「癒す……って? よく分からないですけど、とにかくレイフォルド様が苦しむのは嫌です! 放してっ!」
掴まれた手を無理矢理解こうとしたけど、びくともしない。手のひらは火傷しそうなくらい熱いし。
「レイフォルド様!」
「——好きだ。キミのことが好きなんだ! だから絶対に諦めない!」
その言葉の意味を理解するより前に、レイフォルド様に強く抱きしめられる。
繋いだ手の間から、眩しいほどの光が溢れた。
お読みいただきまして、有難うございます。
あとで活動報告も書きます。




