針が持てない
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私はお針子だ。それ以外なにもなくて、お針子であることが私の「希望」であり、心と生活の支えだ。
「針が持てなくなったら、この先、私はどうやって生きていけばいいの」
震える自分の手を握りしめる。目の前が真っ暗になりそう。誰か悪い夢だと言って欲しい。
その時、控えめなノックの音がして寝室の扉が開いた。入ってきたのは……。
「レ、イフォルド様……」
「カルナディア嬢、体調は、……どうした!」
私の様子がおかしいと気付いたレイフォルド様は、険しい表情で駆け寄ってくる。
「どこか具合が、今すぐ医者を——」
レイフォルド様はそう言いかけたものの、私の膝の上の裁縫道具を見て、はっとする。その凍りついた表情に、私は予感を覚えた。
「私……針が持てなくなったみたいで。どうしちゃったんでしょうねぇ、この身体……」
「カルナディア嬢、落ち着いて聞いて欲しい」
レイフォルド様は震えている私の手に優しく触れ、そっと握りしめると、話し始めた。
「きみの身体は今、薬物の後遺症で治療を必要としている」
「薬物、ですか?」
「その薬物は神経系統に害を与えるもので、主に液体に加工されることが多い」
「あっ」
「やはり、心当たりがあるか」
「はい。とんでもない悪臭だったので、二度目は息を止めて、なるべく吸い込まないようにして」
「二度もか!」
一度目は、実家で魔道具を見つけた時に、二度目は誘拐された時にだとレイフォルド様に説明すれば、分かりやすく怒りをあらわにする。
「くそっ、なんてことだ! すまない……わたしの所為で、きみを危険な目に」
「えっ、なんでレイフォルド様が謝るんですか? 助けにきてくれたじゃないですか」
「いや、結局守れなかった……。きみの父親が関与していることを知っていたのに、わたしは頭目の証拠集めに手間取り、後手に回ってしまった……」
「そんな。それこそレイフォルド様のせいではないですよ。レイフォルド様が来てくれなかったら、もっと、きっと私は酷い目に遭ってました!」
そもそも、あの時の私は、誰かが助けにきてくれるなんて期待していなかった。だからすごく嬉しかったんだ。レイフォルド様が来てくれて……。
ああ、思い出したら泣けてきた。
「私は……レイフォルド様が、いて、くれて……っ、良かったです。気にかけてくださって……、ありが、とう、ございます……」
ぐずくずと鼻を啜りながら、感謝を伝える。
すると、ふわりと温かなものが私を包みこんだ。……ふぁっ!?
レイフォルド様に抱きしめられているのだと気付くのに、時間はかからなかった。心臓が痛いくらいに跳ねる。
「カルナディア嬢、今度こそ……。きみの病だけは、どんなことをしてでも必ず治す。だから心配するな」
「そこまでは……さすがに甘えられません」
「わたしが、そうしたいんだ」
「でも……」
お針子として致命的な病を抱えてしまったのなら、これから日銭を稼ぐために、新しい道を探さなければいけないだろう。
何ができるか今はさっぱり思いつかないけど、立ち止まっている暇はない。落ち込んでる暇も。
私は、レイフォルド様の温かな胸をそっと押した。
「私のことなら、大丈夫です!」
精一杯の笑顔をつくると、何故かレイフォルド様はなんだか泣きそうな、切なそうな顔をした。
「わたしは……、いや、……それより、カルナディア嬢に会いたいと言っている者がいる」
「え、誰ですか?」
「少し待っていてくれ、今、呼んでくる」
「い、今っ!?」
こんな恰好だけど、大丈夫かな。
とりあえず、裁縫道具だけは片付けておこう。
二度と針を持つことはないかもしれない。そう思ったら、また涙が出そうになった。
扉が開く音と、コツコツと床を踏む踵の音がして、私は顔を上げた。
「カルナー! 会いたかったわ!」
「ミ、ミイサさんっ!?」
なんと、そこにいたのは数日振りに会う、元上司のミイサさんだった。
お読みいただき有難うございます!
ラストまで頑張ります!




