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いつのまにか恋に落ちていた

ブクマくださった方、有難うございます!


「うぅ……気持ち悪い……」


 嘔吐(えず)きそうになるのを必死で堪えながら、私は身体を起こす。

 ……さ、寒い。

 床の上に転がされていたせいで、身体は芯まで冷え切っていた。季節が冬じゃなくて本当に良かったと思う。これが冬だったら、還らぬ人になっていたかもしれない。


 ……見知らぬ広い部屋。


 大きな窓からは、月明かりが差し込んでいた。

 気を失う前のことを思い出して、私は憂鬱な気持ちになる。

 

「魔道具を盗んでいたのは、父さんだったんだ……」


 しかも、私とマリーの繋がりまで見抜いていた。

 アルフレド様が「庶民を雇って、盗んだ魔道具を売り捌いてる貴族がいる」って言ってたけど、まさか父さんが関わってるなんて思いもしなかった。


 ミスリルライラの人気を利用し、金儲けのためにローズヴィメアを買収をしたのが同一犯なら、私を狙ったことにも納得がいく。


 契約書を預けておいて正解だった。

 

「これから、私、どうなるんだろ……」

 

 途方に暮れながら、よっこらしょと気合いをいれて立ちあがる。少し、頭痛と眩暈がした、


 部屋の出入り口はひとつしかない。

 私は足音を立てないよう注意しながら扉に近付き、外の様子を窺うことにした。

 ぴっとりと耳を扉にくっつけると、かすかに話し声が聞こえてくる。見張りがいるのかもしれない。


「逃げるのは、無理か……」


 分かってはいたけれど、がっかり。

 都合よく助けがくるとも思えないし、そもそも、ここは誰の家なんだろう。


 扉の前から離れて、今度は窓際にむかう。

 月明かりのおかげで、外の景色がよく見えた。

 どうやら私がいるのは、大きな屋敷の二階にある部屋のようだ。窓からの逃走はできない。敷地も広そうだし、近くに民家も見えないから、逃げ出したところですぐに捕まりそうだ。……詰んだ。


「うぅ……頭、痛い……」


 体調が悪い。手足の震えも酷い。さすがにこれは寒さのせいだけじゃない気がしてきた。

 母さんに無理やり嗅がされたアレは、人間が吸ったら駄目なヤツだったんだと思う。くさかったし。


 私はくたりと、その場に座り込んだ。

 膝を抱えて、夜空に浮かんだ丸い月を見上げる。

 冴えた銀色の輝きは、なんだかレイフォルド様の瞳の色に似ていた。


「会いたいな、レイフォルド様に……」


 切ない気持ちになる。


 父さんと母さんに酷い仕打ちを受けたことより、レイフォルド様に会いたいと願う気持ちのほうが、今は何倍も強かった。


 ——もしも、このまま二度と会えなかったら?

 

 想像しただけで、ものすごく悲しい。


 会いたい。

 会えるだけいい……。

 

 いつのまに、私はこんなにレイフォルド様のことを想うようになっていたのかな。


「好き……。レイフォルド様のことが、好き……」


 夜空に浮かぶ月を見上げて、そっと自分の心を打ち明けてみる。

 会うたびに、レイフォルド様に惹かれていく自分がいた。でも、恋をするとは思ってなかった。だって住む世界が違いすぎるもの……。

 それどころか、未来の私は、世間から「犯罪者の娘」と後ろ指をさされた人生を送ることになりそうだ。レイフォルド様にだけでなく、マリーにだって気軽に会うことはできなくなるだろう。


 もっと田舎に移り住んで、ちまちまと針仕事をするのが身の丈にあった暮らしかもしれない。


「せめて……、〝さようなら〟くらいは、言いたいわねぇ……」


 抱えている両膝に顔をうずめて、少し泣いた。


 悲しいし、寒いし、お腹も空いてきた。そろそろ「なにか食わせろ」と、扉を叩いて訴えても良いだろう。


 そう思って行動に移そうとしたとき、複数の足音とともに、誰かが部屋に入ってきた。



お読み頂き、有難うございます!

次回も、どうぞ宜しくお願いします!!!

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