隠されていたもの
お待たせしました!
最後に実家に帰ったのは、たしか一年以上も前だ。
私にとって、親は、自由を束縛する鎖のような存在。
逆に向こうから見た私は、ただの〝金稼ぎの道具〟のようなものだと思う。
幼い頃は、その現実に心を痛めることが多かった。
だけど、親友ができて、手仕事を覚え、少しだけ見る世界が広がったことで、私は以前よりもずっと強くなった。
だからきっと、もう大丈夫……。
これからどんなに辛いことや、傷付けられる言葉を投げかけられたとしても、私を大切にしてくれる人達のことを思えば、強い気持ちのままいられる気がする。
「レイフォルド様……会いたいな……」
乗合馬車に揺られながら、私は自然とレイフォルド様の名前を口にしていた。
下町を離れて、馬車で一時間ほどの寂れた街が、私の生まれた場所だ。
「おや……アンタ、帰ってきたのかい?」
実家に帰ってきた私を見て、母さんは目を丸くしていた。
「ちょっと休みが取れたから。しばらくは此処にいるから」
「ふぅん……」
とりあえず追い出されなかったことに、私は安堵する。
てっきり「住むなら家賃代をまず払え」と、手持ちの金をむしり取られることくらいは覚悟してきたのに……。意外。
さらに、家のなかに入って驚く。まるで知らない他人の家にきたのかと思うくらい、すべてが様変わりしていた。
どうやら私がいない間に、ずいぶんと色々買い揃えたようだ。
とくに家具のほとんどは、私がいた頃には無かったものばかりで、母さんは今、革張りのソファに腰を掛け、優雅に紅茶を啜っている。
着ている服は、他所行きのような、庶民の普段着にしては華美すぎる意匠だし……。
はっきり言って、身の丈に合わない暮らしぶりとしか言いようがない。
気になるのは、どこから「お金」を工面したのかっていうこと。酒浸りだった父さんが働きはじめたのは嬉しいけど、一年足らずで生活が変わるくらい高給取りになるだろうか。なんだか、すっごく違和感。
「そういえば、父さんは? 仕事?」
「……さぁ。そのうち帰ってくるでしょ。最近はとくに忙しそうでねぇ」
「ふぅん。そうなんだ……」
家のなかを一通り見て回って、さっそく手持ち無沙汰になってしまった。
さて……これからの私は雲隠れの身。
部屋にこもって、大好きな刺繍を朝から晩までするんだから。ある意味、贅沢な時間の使い方よねぇ。
「じゃあ母さん、私、自分の部屋に行くね」
「! ま、待ちなさいっ!」
「え? 私の部屋はそのままになってるんじゃないの?」
焦った母さんの声がして、手荷物を持った私は振り返って聞いた。
「アンタの部屋は、今は使えないわ」
「なんで?」
「……その……物置きになってるのよ」
「ああ、そういうことね」
「だから、入らないでちょうだい」
しばらく帰っていなかったのだから仕方ない。
きっと使い古した家具とかが置いてあるのだろう。または……強欲な母さんのことだから、私の部屋に〝ヘソクリ〟とか隠してたりして? ふふん、私の推理めちゃくちゃ冴えてる。
「気にしないで。何も弄ったりしないし、金目のモノがあってもとったりしないから」
「ちょっ……待ちなさいっ、カルナー!」
私が歩きだすと、慌てたように母さんが追ってくる。けれど事故の後遺症で片足をひきずりながらだから、止めることはできなかった。
そして私は、自室の部屋の扉を開いた。
「な……なに、これ……」
信じられない光景に立ち尽くす。
何故、こんなモノが私の部屋に——!?
所狭しと、さまざまな素材や、形状のものが置かれている。それは全て〝魔道具〟と呼ばれているモノだった。
お読み頂きまして有難うございます!
新作の執筆もはじめていて、遅くなってしまいました。
最終回まで、どうぞ宜しくお願いします!




