採掘場への道のり
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翌日の早朝。
私とマリーはウェルズリー家にいた。これから馬車で採掘場に向けて出発する。
付き添いとして家令のヴォヌールさんも一緒だ。
はじめて会ったときは怖い人だと思ったけれど、何度か顔を合わせるうちに、いくらか気軽に話せるようになった。
「今日は、お世話になります」
「いいえ。そろそろ旦那様がアルフレド様不足で禁断症状を出す頃合いなので、むしろ好都合です」
……禁断症状……とは。
気になったけれど、他人の事情を深く追及するのは止めておこう。
ヴォヌールさんは使用人に命じて、屋敷から荷を運ばせ馬車に詰めていく。中身はレイフォルド様の着替えの肌着や衣類、お気に入りのお酒らしい。
「さあ、皆様はこちらの移動用の馬車へ。出発しましょう」
レイフォルド様のいる採掘場までは馬車で半日かかる。けれど最近では交通の整備が進んだおかげで、明るいうちには到着できるだろうという事だった。
「小旅行ですわっ!」
「うん。お菓子もたくさん持ってきたから、馬車のなかで食べましょうね、マリー様」
一緒に来てくれたマリーは、はしゃいでいた。
確かに遠出する機会なんて滅多にないものねぇ。
しかも採掘場の近くの街で一泊してから帰ることになっている。
外泊なんて久しぶりだし、「夜はたくさんお喋りしようね」なんて、マリーと私は話していた。
馬車に揺られているうちに、朝が早かった私たちは、いつの間にか眠りに落ちていた。
途中、大きく馬車が揺れて起きると、くぅくぅと寝息を立てているアルフレド様が目に入る。あどけない寝顔はまさに天使。かわいい。なんかイイモノを見た気分。
眠ってすっきりした後は、遅い朝食をとり、またすぐに出発した。
アルフレド様は、マリーとずっとお喋りを楽しんでいる。主に「女魔術師・ミスリルライラ」について、この場面が良かったとか、この台詞に感動したとか、そういうことを熱弁していた。マリーは照れながらも、アルフレド様から目を逸さず、語らいに応じている。親友の私としては感慨深いものがある。
……この二人、実はとても似ているのかもしれない。
理由はそれぞれだけど、他人とのかかわりが苦手なところや、自分の「好き」をしっかり持っているところとかも、すごく似ている。
並べて見ると二人とも絵になるくらい美しい容姿をしているし。ひょっとしたら別な意味でも「お似合い」なのでは? そんなことを考えていると、外に異変を感じた。
複数の蹄の音。それから乱暴そうな男の声がした。走っていた馬車も急停止する。
「なにか、あったのかしら……」
窓から外の様子を見ようとしたら、アルフレド様に止められた。人差し指を唇にあて、静かにしているようにと促される。
馬車を取り囲むように蹄の音が移動している。まるで袋のなかのネズミだ。ますます不安になる。
すると僅かに馬車の扉が開かれる。顔を見せたのは御者台にいたヴォヌールさんだった。
「アルフレド様、申し訳無いのですが助太刀をお願いします」
「うん、——まかせて」
助太刀とは?
問いかける間もなく、颯爽とドレスの裾を捌いて降りていくアルフレド様。その手に握られているのは……えっ、鞭!? 一体どこから出したの。
「すぐに戻ってくるね」
「アルフレド様、お気をつけて……」
「うん。絶対、見ちゃダメだよ」
私と違い、マリーはずいぶん落ち着いた様子だ。
「ねぇ、アルフレド様は大丈夫かな?」
「馬車を取り囲んでいるのは、おそらく噂の盗賊団ですわね」
「!!」
「近頃、この街道で、多くの被害が出ているそうですわ」
盗賊団……。
もしそれが本当なら、危険な輩を相手に、か弱いアルフレド様は大丈夫だろうか。さっきの鞭の使い道も気になる。
「ドレスを翻しながら戦うアルフレド様! ミスリルライラみたいで素敵ですわっ! ……み、見たい」
「わっっ駄目だよマリー、外へ出たら危ないってば」
好奇心に負けそうなマリーの腕を、私は必死に掴んでおく。
外からはビュンッとか、ビシイッとか、鞭のしなる音と、馬の嘶き、それから男達の呻き声が聞こえてきた。ひぃ……。
喧騒がおさまると、アルフレド様は戻ってきた。
「もう大丈夫。出発しよう」
「アルフレド様……、わたくし達を守ってくださり、ありがとうございます」
「ううん。僕なんて大したことないよ。兄様のほうが、もっとずっと強いから」
——やっぱり戦ってきたんだ!
少し乱れてしまった髪を整えているアルフレド様を見て、なんて底知れない人だろうと思った。
それから二時間くらい走ったところで、ついに到着する。山の一部を切り崩し、更地になっている古代遺跡の採掘場だ。
「風……つよいっ! げほっ」
山の天気は変わりやすいというけれど、その通りかもしれない。
さっきまで穏やかだった天候が急変し、厚い雲が空を覆い、叩きつけるような風に砂埃が舞いあがる。まるで嵐がくる前兆みたい。
「わざわざ、こんな所まで来てくださるとは。とにかく、早くこちらへ!」
出迎えてくれた魔術研究所の職員の男性が、休憩場所にしている天幕へと案内してくれた。そこで髪の毛や衣服の隙間に入り込んだ砂粒を払い落とす。
ヴォヌールさんは、荷物を降ろしたらまた戻ってくると言って、一足先に宿に向かった。
「兄様はどこにいますか?」
「所長は、この採掘場の先にある洞窟にいます」
「洞窟?」
「そろそろ日暮れですし、戻ってくる頃合いなんですけどねぇ。夢中になって時間を忘れてるのかも」
兄様らしい、とアルフレド様は笑う。
私は急に緊張を覚えはじめた。
レイフォルド様には、私たちが来ることを伝えていない。会ったら絶対にビックリすると思う。アルフレド様はともかく……、私なんかが職場にきて迷惑だと思われたらどうしよう。
「なかなか、戻ってこないね兄様……」
「呼びにいったほうが、良いかもしれませんわね」
しばらく待ってもレイフォルド様は現れない。
ますます風は強くなってきたし、雨も降ってきそうだ。マリーの言う通り、こちらから迎えにいったほうが良いかもしれない。
「じゃあ、私が行ってくるよ。マリーとアルフレド様は、綺麗なドレスが汚れちゃうから此処にいて?」
「いえいえ、所長を呼びにいくなら自分が!」
研究所の職員さんはそう言ってくれたけど、私は断って一人で向かうことにした。自分達だけ天幕に残っても、何かあったときに対処できないと思ったから。
それなら私が一人で行ったほうが安心だもの……。
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