守りたいもの(レイフォルド視点)後編
ブクマくださった方、ありがとうございます!!
馬車に揺られながら、いまだ記憶に新しい過去を振り返っていると、あっという間に職場に着いてしまった。
——王立魔術研究所。
まだ発足されて数年足らず。
この機関の最大の目的は、失われた古代文明を解明し、新たな「観光名所」をつくることだ。
わたしは魔道具を展示した「博物館」を創設する案を国に提出し、それにむけて日々、文献をもとに発掘された魔道具の解明をすすめている。
最近では「女魔術師・ミスリルライラ」の人気が追い風となり、我々の機関に興味を示す者が増えはじめた。作者のマリー氏には感謝しかない。これからも長く頑張ってほしいものだ。
執務部屋に入り、さっそく仕事に取り掛かろうとしたところで、部下が慌てた様子で飛び込んできた。顔色が悪い。なにかあったのだろうか。
「所長、大変です! 何者かによって採掘場が爆破されたと報告がありました!」
「なんだとっ。怪我人は!? 皆、無事かっ!?」
「爆破されたのは夜間だったため、作業員は全員宿舎に帰っており、無事だということです」
「そうか……」
ひとまず良かったと、安堵する。
「犯人の目星は?」
「分かりません。……ただ、このところ珍しい魔道具を狙った窃盗が多発しているので、同じ輩の可能性はあるかと」
「魔道具を盗んで売り捌く……か」
頭を抱えたくなる問題だ。
ミスリルライラの人気とともに、古代の魔術師がつくった魔道具の窃盗も頻発している。まさか採掘場まで狙われるとは。
王都から馬車で半日ほどで着く山間地帯に、魔道具の採掘場がある。
古代、この地帯は魔術師達の住む集落だった。失われた遺物やミイラが大量に眠っている。採掘場は幾つかあり、一般人は、許可なく立ち入りはできないことになっている。
管理はすべて魔術研究所に一任されているものの、予算が低いせいで警備員を置くこともできない。ただでさえ採掘の人手も足りないというのに……。
「遺跡の状況は?」
「盗掘された痕跡がありました。爆破されたのは手付かずだった東側のほうだったので、被害状況はなんとも言えませんが……」
「そうか」
重苦しい空気が流れる。
部下も黙りこんでしまったが、何か言いたげな表情をしている。
「わかった。ひとまず採掘場の現状と増員を、陛下に直接頼んでみる。それから……暫くの間は、わたしも採掘場で働くことにしよう」
「……良いのですか?」
「ああ、わたしは所長だ。現場の指揮を任せっぱなしにはできないからな」
部下達は家にも帰らず、採掘場で働いてくれている。いくら仕事とはいえ不満も溜まってくる頃合いだろう。爆破があったことで穏やかに仕事をできる心境でもないはずだ。責任者として放っておくわけにはいかない。
休みを取りたい者にはとらせ、改めて作業の見直しをしなければ。
アルと過ごす時間が無くなるのは、ものすごく残念だが仕方あるまい。そのかわり毎日手紙を書こう。
数日後。
わたしは採掘場で視察をしていた。
「所長、調査書が届きました」
「思ったより早かったな」
「それから、ご家族からのお手紙も」
「!」
アルからの手紙だ!
わたしが毎日手紙を書くと言ったら、アルも毎日返事をくれると言ってくれた。なんて優しい弟だろう。
アルの手紙は労働のあとの楽しみにとっておくことにして、まずは調査書を確認することにする。
個人的に探偵を雇い、市況にながれた魔道具にかかわった人物の洗い出しを依頼した。
調査書には、途中経過が記されており、黒幕に関する情報はまだ掴めていないらしい。簡単に尻尾は掴ませてくれないというわけか。
「! この、名前は……」
調査書のなかに、幾人か怪しい動きをしていた者の名前と経歴が書いてあった。そのなかに気になる姓を見つける。
「——ロイシタン……」
カルナディア嬢と同じだ。
嫌な予感がした。
お読み頂きまして、ありがとうございます。
これでレイフォルド視点は終わります。
次からは主人公に戻ります。




