守りたいもの(レイフォルド視点)中編
サブタイ変えました。
ブクマ、評価下さった方、有難うございます!!
嬉しいです……泣
カルナディア・ロイシタンは、弟と変わらぬ歳だというのに、とても大人びて見える女性だ。
手に職を持ち、自分で身を立てて生活しているからなのかもしれない……はじめはそう思っていた。だが何度か顔を合わせていくうちに、少しずつ印象は変わっていく……。
まず驚いたのは、人見知りの激しい弟が、カルナディア嬢にはすぐに心を開いたことだ。二人の間に何があったかは知らないが、カルナディア嬢と出会ってからのアルは、以前よりも明るくなった気がする。
それから偶然、彼女が母親とおぼしき女性と言い争いをしている現場を目撃したときのこと……。
『——私を、金稼ぎの道具みたいにっ!』
悲痛に叫ぶ姿に、ひどく心が揺さぶられた。
そこに本当のカルナディア嬢を見つけたと思った。
いつも凛としている彼女が、密かに抱えていた苦悩や、弱さ……。震えている後ろ姿があまりにも危うくて、すぐにでも駆け寄って支えたくなってしまう。
けれどカルナディア嬢は気丈に踏ん張り、ひとりで自分の涙を拭い、しっかりと前を見据えている。
困難のなかで、それでも精一杯に立ち向かおうとする姿に、わたしは庇護欲を掻き立てられた。
家族以外の者に、こんな気持ちを抱いたのは初めてだった。
それから、さらに事件は起こる。
カルナディア嬢から贈られたハンカチを持って、いつものように職場で働いていたときのことだ。
「所長、この発掘された魔道具なのですが」と、部下の一人がボロボロの箱を持ってやってきた。
現存する魔道具にしては、珍しいカタチをしていると、手にとり観察する。
発掘された魔道具のほとんどは、鏡や壺、タペストリーといったものが多かった。それは古代の一般家庭では「魔除け」の調度として活用されていたらしい。
しかし、この箱のようなモノは、調度にしてはやや質素に思える。なんの為に作られたものなのか。
ボロ箱には蓋がついていた。
部下が「誰も開けることが出来ませんでした」と報告をしてきたので、実際に試してみることにした。
指の腹を蓋に添わせるとビリッと熱を感じた。しかも持ち上げてもいないのに、蓋が勝手に開く。
「離れろっ!!」
異変を感じて、部下に向かって叫ぶ。
瞬間、なかから炎が噴き出す。
どうやらボロ箱には、開けた者を危険に晒す魔術が仕込まれていたらしい。
「しょっ、所長ーーッ!」
回避しようとしたが、もう遅い。
立ち上がった炎をもろに浴び、わたしの前髪はチリチリと焦げていく。まずい。死にはしないが、これは確実に禿げたぞ。そう思った時だった。
机の上に置いていたカルナディア嬢のお手製ハンカチが、眩い光を放つ。
部下は驚いて腰を抜かしていた。
ハンカチから放たれた光は、炎から庇うように盾となり、わたしを包み込む。
とても心地が良い、温かい光だった。
「所長、ご無事ですかっ!?」
「あ、ああ……」
気付けば炎は消え、かわりにハンカチが炭屑になっていた。
——守って……くれたのか……。
呆然と残骸となったハンカチを見つめる。
ハンカチには「幸運」を意味する紋様が刺繍されていた。まさか本当に効果があるとは——
カルナディア嬢の親友は、あの巷で人気の大衆小説「女魔術師・ミスリルライラ」の作者だ。この紋様についても小説に記述があったから知ったのだろう。
古代の文献では、魔力のある……つまり魔術師が力をこめながら描いた紋様には、邪気や呪いをはね返すことができるという。
だがカルナディア嬢には、おそらく魔力はないだろう。模するのはできても、本当の効果を発揮する紋様を作り出すのは困難だ。
考えられることとしては、魔術師の系譜であるわたしがハンカチの紋様に触れていたことで、魔力が注入されたか、もしくは……カルナディア嬢の幸運を願う「想念」が強く紋様に刻印されたからか。その両方が重なった可能性もあるだろう。だとしたら。
——願ってくれたのだろうか。カルナディア嬢が、わたしの幸運を……。
いつも家族を守ることだけを考えてきた自分が、誰かに守ってもらう日がくるとは……。
カルナディア嬢が、幸運を願いながら針を刺す姿を想像して、なんとも言えない不思議な気持ちになる。
空虚な胸の内が温かくなるような、それでいて切なく締めつけられるような。例えるなら「弟が可愛すぎてつらい」時の感覚に近い。
それに、わずかに動悸もするのだが……。
まさか先ほどの呪いにあてられたせいで、異変をきたしてしまったのだろうか。
体調不良を理由に、わたしは退勤することにした。
いつもより早い刻限に帰宅したため、アルは驚いていた。事情を説明すれば、「兄様が無事で良かった!」と泣きながら抱きついてきた。かわいい。
弟の頭を撫でまわしながら、ふと思い至る。
——わたしは、わたしが思っている以上に、周りから大切にされているのかもしれない。
今さらになって気付く。
本気でわたしの無事を喜んでくれた弟。幸運を望んでくれたカルナディア嬢。育んでくれた父や母や、体調を心配してくれた部下にも……、自分が想像しているよりもずっと、大切だと認められてきたのかもしれない。
夢もなく、とくにコレといって目標もない自分ができるのは「家族を守ること」だと働いてきたが、真実は、それすらも守られてきたからこそ。
視ている世界が塗り変わる。
そう……、気付かせてくれたのは、わたしよりもずっとか弱くて、ひとりで涙をぬぐうしかなかった「彼女」と出会えたからだ。
——守らなければ。
それしか、わたしには出来ないのだから。持てるもの全てで。
「兄様! 次の休みの日にカルナディアさんのところに行こう! ハンカチのお礼をしなきゃだよ!」
ようやく泣き止んだ弟が、今度は鼻息を荒くして、わたしを見上げて言った。やはり、かわいすぎる。
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