僕の兄様と女神様(アルフレド視点)後編
ブクマ、評価くださった方、本当にありがとうございます!!
パーティー会場になっている大広間に近づくにつれ熱気や興奮が伝わってくる。どうやら競売は大盛況みたいだ。
「マリー様、気をつけて」
前から歩いてきた男女とぶつかりそうなり、僕は握っていたマリー様の手を引き寄せた。ふぁ、マリー様から良い香りが……。なんの香水を使ってるのかな。僕もお揃いにしたい。
「大丈夫ですか? マリー様」
「ええ、ありがとうございます」
丁寧にお礼を口にしたマリー様が足を止めて振り返る。その視線の先には、さっきの男女がいた。
僕たちのことなんて眼中にないのか、人目も憚らず熱烈な口付けを交わしている。
はわわ。「ぶちゅっ」て音まで聞こえてきて、見ている僕のほうが恥ずかしくなってしまう。
「い、行きましょうマリー様。オークション、終わってしまいますよ?」
「そ、そうですわね。すみません……」
マリー様も口付けの場面を見てしまったことで、顔を真っ赤にしていた。か、可愛すぎる!
なんとも言えない気まずい空気のまま、僕たちは無言のまま歩く。ふと思った。
——マリー様に恋人はいるのかな?
いても不思議じゃないよね……。
だって言葉遣いや洗練された所作からみても、たぶんマリー様は上流階級のご令嬢だと思う。
それなら婚約者、もしくは恋人がいてもおかしくない。年頃でこんなに可愛い女性なら、まわりが放っておくはずないもの。
ああ、いいな……。
マリー様と一緒にいられる男の人は……。
ずっと前から僕はマリー様に憧れていた。
実際の彼女のことなんて何ひとつ知らないけれど、物語の端々から汲みとったマリー様を、僕は心のなかにおいていて、時間が経つにつれて身近な存在になっていった。
でもね……。
出会ってしまった今、はっきりしている事がある。
——マリー様から見た僕は、ただの愛読書。
この距離感ばかりはどうしようもない。
出会えただけで奇跡みたいなものだと喜ばなくちゃいけないのに、今の僕は、マリー様のそばにいる人達を羨ましいと思ってしまう。カルナディアさんのことですら。
……どうしよう、胸が苦しい。
こんな気持ちはじめてだ。嫉妬で頭がおかしくなってしまいそう。助けて兄様!
「アルフレド様は、その……いえ、なんでもありませんわ」
「え?」
何かを言いかけたマリー様が口を噤む。
僕は急に怖くなる。もしマリー様に嫌われてしまったら、もう生きていけない。
「どうしましたか? 僕がなにか……してしまいましたか?」
いいえ、と答えたマリー様の足がぴたりと止まる。
僕は自然と握っていた手を離していた。何故だか今は、マリー様のほうが緊張しているように見える。
「アルフレド様は、その……お手紙で、ご自身のことを、たくさん打ち明けてくださいましたわね」
手紙……ファンレターのことだよね。
僕は頷いた。
何度も書き直して、結局、便箋で二十枚にもなってしまったんだっけ。その中で僕は自分のことを事細かく綴った。そうじゃなきゃ、どうしてマリー様の書く物語が好きか伝えられなかったから。
でも、もしかして……。
「もしかして、迷惑、でしたか?」
「まさかっ、そんなわけありませんわっ!」
「でも……気持ち悪いですよね、僕のこと。いつもドレスを着て女装してるって書いたから」
「違いますわ。むしろ、それは見てみたいというか」
「……え?」
迷惑じゃないし、気持ち悪くもないし、むしろ見てみたい? えっと……幻聴?
「な、なんでもありませんわっ」
「じゃあ、マリー様はいったいなにを?」
「わ、わたくしが言いたかったのは……お手紙を読んで、アルフレド様と同じだと思ったのです」
「僕と、同じ……」
「わたくしは、幼い時のある事がキッカケで、社交の場にも行かず、引きこもりの生活をしていて」
「えぇっ、マリー様が!?」
「本当のことですわ。カルナーに聞いて頂ければ分かります」
疑っているわけじゃない。
意外で、驚いただけ。
「そんなわたくしのことを、両親は、臆病で冴えない娘だと……嫁ぎ先も見つからないと呆れていて。家に居場所もなく、もうずっと叔母の屋敷で暮らしているのですわ」
そこまで言ったマリー様が自嘲するように笑った。
「男性が苦手なわたくしは、一生、独り身でいることでしょう……。なので、ひとりでもちゃんと生きていけるよう、いま頑張っているところなのですわっ」
「!」
「アルフレド様も、お兄様のお荷物にならないよう、自立するために奮闘していると、お手紙に書いているのを見て、わたくしと同じような方がいるのだと、とても励まされましたわ」
「マリー様……」
「でも、実際には違いましたわね」
「え、」
「実際にお会いしたアルフレド様は、とても勇敢で、優しくて……愚図なわたくしとは違い、家族にも……ちゃんと愛されていて」
「ッ、マリー様、……マリー様!!」
一度は離してしまったマリー様の手を、僕はふたたび両手を伸ばして掴まえた。僕の馬鹿。離さなければよかった。指先がさっきよりずいぶん冷たくなってしまっている。
「マリー様、僕のほうがずっとマリー様に助けられて救われています。今の僕があるのはマリー様のおかげだよ。だから僕から離れていこうとしないで? そんなの哀しくて耐えられない」
ううん。今、決めた。もしも離れていこうとするなら、僕は全力で追いかけるよ。
だって、今、目の前にいるマリー様は憧れてやまない「女魔術師・ミスリルライラ」の作者であると同時に、弱い自分のことを真っ直ぐに伝えてくれた、とても勇気のある女の子。
——大好きだ!
ずっと僕の心を照らしてくれた女神のようなマリー様のことを、憧れで終わらせたくない。せっかく縮んだ距離を、このまま繋ぎとめておきたい。
「僕は……どんなマリー様でも大好きです!」
「っ!!」
驚いて見上げてきたマリー様の瞳が、仮面の奥で揺れている。告白してしまったからには、もう後戻りはできない。僕は一か八か勝負にでる。
「今度……ドレスを着た僕と会ってくれませんか?」
駄目なら、きっとものすごく辛い。その時は兄様にたくさん甘やかしてもらうんだから。……でもね、もしも良いと言ってくれたら僕は……。
真っ直ぐに僕を見つめていたマリー様が、やがて、こくりと頷いた……!
「はい。ミスリルライラのドレスを着たアルフレド様に、会ってみたいですわ」
「ほ、ほんとうに……?」
「本当ですわ。こんなわたくしで良ければ、仲良くしてくださいませ」
「こんな……って、マリー様がこんななら、僕なんかただの変態だよ? 女装とマリー様が大好きな変態だけど、それでもいいの?」
「ふふっ……、かまいませんわ」
それから僕たちは、改めて自己紹介をした。
マリー様の本名は「マリアンナ」と言うらしい。素敵な名前だ。ちなみに僕の本名はすでに手紙に書いているから知っていると思う。
アルフレド・ウェルズリー。
ウェルズリー家は遠い祖先に魔術師がいた。マリー様はそれに気付いたみたい。何故なら彼女も魔術師の系譜で、祖母の家の書庫には、継がれてきた魔術書などがたくさんあると言う。
どおりで……。
兄様がミスリルライラを読んで、魔術に関しての記述がやけに具体的なことを不思議がっていたけど、これで謎がとけた。
実は我が家にも、門外不出の魔術書がある。
良かったら見にきませんか? とお誘いしたら、マリー様はものすごく嬉しそうな顔をした。
なんて可愛いんだろう。
今の僕は、世界一の幸せ者だと思った。
読んでくださり、ありがとうございます!
楽しんで頂けるよう、次も頑張ります!




