表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/43

僕の兄様と女神様(アルフレド視点)前編

長くなりそうなのと、更新遅くなりそうなので、前後編にわけました。


 お酒を飲んでしまったカルナディアさんが倒れてしまった! あわわわっどうしよう。もっと早くに気付いて声を掛けられれば良かったのに。


 兄様が気を失ったカルナディアさんを抱き上げて、ソファに寝かせる。だけど身動(みじろ)ぎをしたと同時に、ドレスの裾が(めく)くれてしまった。きゃっ。


 一瞬かたまった兄様だけど、いそいそと着ていたマントを脱いで、カルナディアさんに掛けてあげる。

 

「カルナディアさん、……大丈夫かな」

「見たところ、気持ち良さそうに眠っているようだが……」


 眠ってるなら平気かな?

 いつもお仕事頑張っているから、疲れていたのもあるかもしれない。


「前にもカルナーは、誤ってお酒を飲んでしまったことがありますの」

「ええっ、カルナディアさんて、意外とおっちょこちょいなんですね」

「そうですわね。だから目が離せなくて、でも、そういうところも可愛いというか……」


 マリー様だって可愛いよ!!

 そう言ってしまいそうになるのを、僕は必死におさえた。さっきからずっと心臓がドキドキしっぱなし。苦しいくらい。


 だって、()()()()()()が、僕の隣にいるんだよ?


 本当に夢みたいで、幸せすぎる。

 もしも今、天変地異が起きて世界が滅ぶことになってしまっても、もう思い残すことはなにもない。


 仮面を外したマリー様は、僕と同じくらいの年齢の女性だった。少しだけ幼さが垣間見える、可憐で、整った美貌の持ち主。指の先から、睫毛(まつげ)のひとつまでもがまるで芸術品のようで、僕はずっと見惚れていた。


「大丈夫です、カルナーはすぐに目を覚ますと思いますわ。以前もそうでしたから」


 その時、部屋の外から大きな歓声が聞こえてきた。

 おそらく余興の競売(オークション)が始まったに違いない。

 あれ? マリー様、そわそわしてる?


「そういえばカルナディア嬢が言っていたが、貴女(あなた)は取材のために、オークションを見にきたとか」

「ええ、そうですわ」

「気分が悪く無いなら、カルナディア嬢のことは、わたしが見ているから、アルと一緒に見物してくるといい。アルは体術の心得もあるし安心だろう」

「でも……」

「大丈夫。兄様は紳士だから、カルナディアさんの嫌がることは絶対しないよ」

「信じても……良いんですの?」

「心配なら、わたしが変なことを出来ないよう、縛っていくといい」


 兄様が両手を僕のほうに向けて差しだす。

 ……縛れってことだよね?

 僕は長い髪を(まと)めていたリボンを解いて、それで兄様を縛ることにした。

 

「アル……頼む」

「うん。痛かったら言ってね」

「天使が与える痛みなら、喜んで」

「兄様、変態っぽいよ。マリー様が見てるんだからね」


 普段はとてもカッコいい兄様なのに、僕のことになると、途端にふにゃふにゃになる。マリー様の前では恥ずかしいからやめて欲しい。


 思えば……兄様が僕を溺愛するようになったのは、いつからだったか……。


 小さな頃から身体が弱くてベッドばかりで過ごしていたせいで、僕にとっての兄様は遠い存在だった。

 離れて暮らすようになってからは、ますます会う機会もなくなって、久しぶりに顔を合わせるのが怖かったくらい……。 


 でも兄様は僕のことを大切な家族だと慈しんでくれた。可愛いものが好きで、ドレスを着る僕のことを受け入れてくれた。


 兄様が爵位をついで、父様がやりたがらなかった王立魔術研究所の所長になると決めたのは、たぶん、全部僕のためだ。


 僕の身体が弱いのは一種の「呪い」だった。魔術師の系譜にあらわれる遺伝的なもの。

 だから兄様は、城の隅っこにある日の当たらない部屋で魔術の研究をして、その立場を利用して、最先端の医療を生み出している医師と繋がり、僕のために薬をつくってもらった。おかげで、たまに体調を崩すことはあるけれど、僕は元気になった。


 いつも「ありがとう」って思ってる。


 そして……そろそろ僕のためじゃなくて、自分のために生きて欲しい。兄様に心配かけないように、兄様が安心して手を離せるように、僕なりに今、頑張っているからね。


 リボンを結んでいると、兄様が囁いてきた。


『アル、頼んだぞ——』


 うん、任せておいて。僕は頷いた。


「兄様のかわりに、ちゃんと見てくるからね」


 僕たちは此処(ここ)に遊びにきたんじゃない。

 オークションの景品に盗品がまじってないか確認するためだった。

 最近、兄様の職場で、貴重な古代の遺物(いぶつ)が盗まれるという被害があった。金目当ての犯行だとして、市場で売り(さば)くには、被害届を出しているから追跡されやすい。だからオークションを利用する可能性は高いと考えたんだ。


 古代の遺物——「魔道具」だとしたら、絶対に僕が取り返してみせるよ。兄様の信頼に応えなきゃ。


「じゃあ兄様、僕たちは行ってくるね」

「ああ、楽しんでおいで」

「マリー様……僕じゃ頼りないかもしれないけど、エスコートさせて頂いても宜しいですか?」

「もちろんですわ」


 マリー様が笑顔で頷いてくれるから嬉しくなる。

 ふたたび仮面をつけてから、僕はマリー様の小さな手を取った。




お読み頂き、ありがとうございます!


ブクマ、評価も、本当に嬉しいです。

続きも頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ