仮面仮装パーティー 後編
ブクマ、評価、ありがとうございます!!
嬉しいです!!頑張ります!!
レイフォルド様が驚くのも無理はない。
私だってこんなパーティー、マリーがいなければ……って、そうよ、早くマリーを助けなきゃ!
「マリー! 大丈夫!?」
今ならマリーを助けられる。
そう思って動こうとしたとき、私の目に飛び込んできたのは、レイフォルド様と同じ、真っ黒な仮面をつけ、長い髪を後頭部でひとつに束ねた、見知らぬ青年。
なんと彼は、マリーを縛っている狩人の仮装男の腕を捻りあげると同時に、背負い投げを決めた。なんて鮮やかな身のこなし。す、すごい!
「いでででッ、クソっ……」
おかげで床に這いつくばることになった男が、痛みで呻いている。
助け起こしている仲間の男が、恨めしそうにこちらを睨み、文句を言ってくる。
「なにも投げ飛ばさなくたって良いだろ。暴力反対! オレ達はただ女の子達と楽しもうとしただけなのにさ。……ねぇ、キミ達だって、ソレが目的でこのパーティーにきたんだろ?」
そんなわけないじゃない!
否定しようとしたけれど、男の絡みつくようなじっとりとした視線に、声が出なくなる。
そんな私の視界をレイフォルド様の背中が遮った。大きくて、広い、守ろうとしてくれているのが伝わってくる背中だ……。
「嫌がる女性に手を出すな。遊びが目的なら、他をあたりたまえ」
きっぱりと言いきるレイフォルド様の声が嬉しくて、息苦しいほどに私の胸はいっぱいになる。
結果、勝ち目がないと悟った狩人風の男達は、溜息をつきながら去っていく。辺りをきょろきょろと見回しているところを見ると、どうやら別の女の子を物色しはじめたみたい。懲りないわねぇ。
「すぐに助けられなくて、ごめんね!」
私はマリーに駆け寄る。
青白い顔で、マリーはふるふると首を横に振り、細い肩を震わせていた。怖かったよね。本当にごめんね。
両手に巻きつけられた縄を丁寧に解いてくれているのは、さっき男を投げ飛ばした黒仮面の青年。マリーを助けてくれた恩人だ。
「どなたか存じませんが、私の大事な親友を助けていただき、ありがとうございます!」
「……え、っと、もしかして気付いてない?」
「はい?」
お礼を言った直後、青年は何故か、とても驚いた表情で私を見た。
「僕だよ。カルナディアさん」
「そ、その声はまさかっ——アルフレド様!?」
「正解。ふふっ……ドレスじゃないなら、気付かなかったのかな」
えええぇっっーー!!?
思わず心の中で絶叫してしまう。
だって……私の知るアルフレド様は、天使みたいに可愛くて可憐で、ドレスがとっても似合う男の子だ。なのに今目の前にいるのは、仕草まで洗練された紳士みたいで。
「男の姿の僕はどうかな? 女の子でいるほうが、やっぱり似合ってる?」
「どっちの姿も素敵だと思いますっ!!」
即答すれば、隣にいたレイフォルド様がものすごい勢いで頷いて「どんなアルも天使だ」と、握り拳をつくっている。同意します!
「兄様まで……ありがとう。……んと、はい、これでぜんぶ解けたよ。手首が赤くなってるね。痛くない? 待ってて、今ハンカチ冷やしてくるね」
はじめて会ったマリーのことを心配してくれるアルフレド様は、本当に優しい性格をしているんだろう。さっそく懐から綺麗に折り畳まれたハンカチを取りだしている。
「カルナー! わたくしのせいで、怖い思いをさせてごめんなさいっ!」
「謝らないで、マリーのせいじゃないよ。私こそすぐに助けてあげられなくてごめんね」
涙を浮かべているマリーを、ぎゅっと抱きしめる。改めて無事で良かったと思う。
マリーの肩越しに、ハンカチを濡らしに行こうとしたアルフレド様が、弾かれたように振り向いたのが見えた。
「カルナディアさん、いま……マリーって言った? マリーって、もしかしてあのマリー様なのっ!?」
し、しまった……。
『女魔術師・ミスリルライラ』の素性不明の作者は『マリー』という人物で、しかもマリーは私の親友だって話してしまっている。どうにか取り繕おうとしたけれど、もう遅い。
「ごめん、マリー。バレちゃった……」
「平気ですわ。黙らせる手段はいくらでもありますもの。それよりも、アルフレド様とお呼びしていましたわね? お名前が、あの手紙の方と同じですが、もしかして……」
「うん、その手紙の人だよ」
「まぁっ、なんて偶然」
私だって吃驚している。
まさかこんな所で、レイフォルド様とアルフレド様に会うなんて……。
「兄様! 兄様のことだから、僕が具合悪くなった時のために、どこか部屋をおさえてるよね!?」
「無論だ。アルを連れてくるんだ。前もって、この屋敷の一等高級な部屋を押さえてあるが?」
「じゃあすぐに案内して! マリー様の手当てをしなきゃっ」
「わかった」
「僕……今夜は男装をしてて良かったと思う。だってドレスを着てたら、戦えなかったから」
それからはレイフォルド様の後ろに続いて歩く。
廊下では何人もの男女とすれ違った。暇を持て余した富裕層の一夜限りの戯れ……、仮面をつけ素性を隠しているから、なんとも怪しい背徳感がある。
まさかレイフォルド様とアルフレド様も? 正直言って、二人のそんな姿はあまり想像できない。
「そういえば、仮面を付けてたのに、よく私だって分かりましたね」
ふと疑問だったことをレイフォルド様に聞く。
「きみのドレスが、アルのあげたものだったからだ」
「そっか、なるほど」
「ああ、だから気付けた。それより、カルナディア嬢は何故こんなパーティーに?」
「マリーの取材で」
「取材?」
「はい、オークションを見たかったらしいです」
「そうか、理由は分かったが、次から出席する際は気を付けたほうがいい。色んな人がいるから」
「はい。助けて頂いてありがとうございます。なにかお礼をしなきゃですね」
と言っても、お金がかかるモノは無理ですけどね、と私は苦笑いする。
「お礼なら、ーーハンカチが良い」
「ハンカチって、この間のような?」
「ああ、近々、発掘調査にいくことになったんだ」
「発掘調査……」
なんでも新たな古代遺跡が発見されたらしい。貴重な魔道具なども眠っているらしく、魔術研究所の所長であるレイフォルド様が、現場で発掘の指揮をとることになったという。
「触っただけで呪いが発動するような危険な魔道具も、遺跡のなかにあるだろう。きみの刺繍したハンカチを持っていれば回避できる」
「そういうことなら、私、たくさんハンカチを作りますね! 任せてください!」
それなら得意分野だもの。
出発前に渡せるよう、さっそく帰ったら作業をはじめなきゃ。腕がなるわねぇ。
やってきたのは、見るからに高価そうな調度品でかためられたロイヤルスイートルーム。居室と寝室が一緒になったような、豪華な作りだ。
「マリー様は、こちらに座ってくださいね!」
さっきからアルフレド様は、甲斐甲斐しくマリーのお世話をしている。マリーは尽くされるがままになっているけど、嫌がってはないみたい。
「カルナディア嬢も休むといい。飲み物の種類も色々あるし、もし何か食べたいなら、軽食も頼めるようだが?」
「あ、私、自分でやりますよ」
テーブルの上には、お酒や果実水などの入った水差しが幾つも並んでいる。軽食は無いけれど、飲み物の他にも、カットされ大皿に盛り付けられた果物や、一口で食べられる焼き菓子などがあった。見ているだけでも楽しくなる。
「とりあえず喉が渇いたから……」
目に入ったのは氷が浮かんだ琥珀色の飲み物。冷たい紅茶だ。
さっそくグラスに注いで、お行儀は悪いけど、立ったままゴクゴクと飲み干す。冷たくておいしぃ〜!
「カルナディアさんて、お酒飲めないんじゃ、」
「っ! ……いけませんわっ、カルナー!」
ふぁ……れ……。
頭がくらりと、酩酊感?
ああ、でもフワフワして、なんだか気持ちぃ。
私、このまま、寝れ……。
「カルナディア嬢、危ないっ!!」
声がした。
背中に温かな感触。
そして目の前にはレイフォルド様が……三人いた。何故か全員ボヤけてるけどね。分身の術?
僅かに眉間を寄せ、真剣な眼差しのレイフォルド様三人に見つめられると、どうしたってドキドキしてしまう。
ああ、やっぱりカッコイイなぁ、レイフォルド様……。
しかもまた一人増えて、四人になった。
これは、アレみたいねぇ。
マリーが読んでた恋愛小説で、女主人公ひとりに対して、複数の美男子が愛を告げるというアレ……。
「……ぎゃく、はー……れむ?」
そのまま、背中にくっついてる温かい感触に、私は身を任せた。
お読み頂きまして、ありがとうございます!
次回は、アルフレド様視点を入れる予定です。
よろしくお願いします!




