Episode#1 初めまして
カラカラと、石畳の上を小さな車輪が走る。
やがてその音は装飾を施された鉄の門の前で止まる。音の正体である車輪の付いた鞄を持ち、麦わら帽子を被った兎族の少女は目の前にそびえ立つ巨大な学舎を見上げる。
「ここ、が……」
「誰だお前は!」
突然現れた少女に門衛は不信感を顕にして立ち塞がる……が。
「えっ、と……あの、これ……」
「ん?……おや、もみじさんでしたか。お待ちください、すぐ学園長にお取り次ぎします」
彼女がワンピースのポケットから一枚の書類を出した途端に態度を変え、もみじを中に通す。
門の横、石の柱に付いている金色のプレートには確かに『セルビアント国際魔術・錬金術学園』と掘り込まれていた。
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「もみじさん、お待ちしてたんですよ〜!それで、三年間もうちに来られなかったのには何か事情でも?」
学園長室にて、もみじは赤いソファーに腰掛けて紅茶を飲んでいた。学園長の問いかけに対し、飲んでいた紅茶のカップを音もなくソーサーに戻し、口を開く。
「せんせいが……居なくなってしまって。三年間探していたんですけど……見つからなくて…それで、一度諦めることにしたんです……ここを卒業したら、もしかしたら…ひょっこり現れるんじゃないかなっ、て……」
学園長は頷きながら話を聞いていたが、もみじが話し終えたと見て口を開く。
「そうですか……では、教室へ向かいましょう。荷物は寮に持って行かせるのでそこに置いておいてください。それと、あなたの部屋は知識の塔三階の五号室です。後で鍵をお渡ししますね」
そう言うと立ち上がり、もみじを教室へと誘う。
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「今日転入生来るってよ」
「え、ホント?どんな子だろう?」
「はいはい、みなさん、静かに。席に着いてくださいね」
ガヤガヤと騒がしかった教室が学園長の一言で水を打ったように静まる。
「みなさんが話していた通り、今日からの転入生を紹介します。もみじさん、いらっしゃい」
学園長は、生徒達に話しかけつつもみじを呼ぶ。もみじは足音も立てずに教室に入ると、ペコリと頭を下げる。
「朝宮、もみじと言います……えっと…魔法と体を使うことは苦手だけど…錬金術と頭を使うのは得意です……よろしくおねがいします」
辿々しい口調で挨拶を終えると、割れんばかりの拍手が起こる。同時に生徒達が口々に歓迎の言葉を放つ。
「よろしくね」
「よろしく、もみじさん」
こうして、朝宮もみじの学園生活がスタートしたのだった。