Episode#0-2 もみじの手記(1)
拝啓、この世界の何処かにいるせんせいへ
貴方が居なくなって三年が経ちました。今まで決断を躊躇していましたが、やっと決意が固まり、せんせいが紹介書を書いてくれた学園へ向かってみることにしました。
わたしは今、電車に乗っています。昔せんせいと一緒に乗った電車と違って、シートはフカフカだし、車内も暖かくて快適です。そういえば、せんせいはあの時、慣れないお話を沢山して硬いシートにお尻が痛くなるのをごまかしてくれましたよね。難しい錬金術の本にも載っていないような高度なお話で正直理解出来なかったけど、せんせいが一生懸命話しているのは伝わってきてとても嬉しかったのを覚えています。
能力のせいで突然現れた病気と戦い続けて六年、ふと見上げた時にすぐそばにいたのはいつだってせんせいで、本当に心強かったです。
十二歳の誕生日の時にくれた帽子も、十三の時にくれた羽ペンも、今でも大事に持っています。学園にも持っていくつもりです。
ここからは、せんせいへのお小言になります。
せんせい、ちゃんとご飯は食べていますか。ちゃんとベッドで寝ていますか。たまには他の人とも話をしていますか。
せんせいはすぐに無理をするから、わたしは心配です。
いつか、本当にいつか、わたしがせんせいのような錬金術師になれたなら、わたしは必ず、せんせいを探し出します。
もし、わたしの決意が固まったら、わたしはこの手記を海に流します。その時にせんせいが見つかっていなかったなら、そこからわたしは旅に出ます。せんせいを探す、長い長い旅に。どれだけかかっても、たとえせんせいがあの時と違う姿に変わり果てていたとしても。わたしは必ず、せんせいを見つけ出します。
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カタン、と少女はペンを置く。小さな紺色のリボンが付いた麦わら帽子を被った兎族の少女は、そのまま思いを馳せるように車窓から見える景色を眺め、溜息を吐く。
「はぁ……せんせい、また会える…よね」