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E1-3 サメ祭り

「これはサメ映画好きなスタッフがいるな」


砂浜に蔓延るサメを見た一言目がこれだ。

地面を泳いでいるサメがいる。海から砲台のように飛んでくるサメがいる。

どちらかと言えばネジが飛んだ方のサメ映画だが、雰囲気はそんな感じ。


「ねえねえ、『ウルフ』なのにサメなの?」


もっともな事をヨーコが聞く。ちなみに水着だ。イベント会話らしい。


「『ウルフ』の生態系はここのところまったく不明であるとしか言えません。水晶隊発足前はオオカミのようなタイプがほとんどでしたが、それだけという訳でもなかったんですよ」

「ふーん」


設定的にもなんでもありのようだ。まあヘルプにも元からそんな感じだったし未知の生態系という設定にしておけば何でもできると思っているんじゃないだろうか。


「来ます!」

「戦闘態勢!」


敵配置からウェーブはやはり3まで。ただし1ウェーブに4体サメがいる場合もありそうなので油断はできない。

水着リディと制服ヨーコが先制攻撃。その後にヒメが続く。十二単なので目立つというか暑そうだ。最初のクエストだからか危なげなくクリアできる。やはり超近接の2名はダメージを食らうがここは慣れるしかない。


「終わったー! 司令官、泳ぎに行こう!」


サトコのクリアボイスはなんというかヨーコと似ている。この二人は本当に似た者同士という感じか。


「次!」


このままクエストを消化していく。海岸線でのサメはほぼ掃討できた。収集イベントだからまたサメはどこかから生えてくるだろう。


「次は?」

「あっちですね」


海岸線から外れて小道に続いているようだ。この誘導は、鮮血姫の下へ向かう感じだろうか。


「あ、司令官、このままだと先に進めません」


トワが止めた。水着リディとサトコが編成不可になるエリアだからだ。

編成しなおす。リディは元バージョンに戻してサトコはジュンナと交代。


「そういえばヒメ暑そうだけど」

「とっても暑いよー」


十二単で真夏の太陽の下なので熱が籠もっているようだ。スキン機能はないだろうかと確認すると、存在していた。


「あ」


しかし、ヒメはSSRしか所持していないためそもそも交代できるスキンがなかった。


「ごめん、暑いと思うけどこのまま頼む」

「いいけど、ちゃんと終わったらサービスしてよねー」


(これは流石にシナリオ上の会話じゃないよなあ)


ヒメの刀技は暑そうなのを除けば非常に華やかだ。シュッと動いたかと思えばサメが両断されていりする。返り血を受ける事もない。なんというか高貴な剣術だ。そんなものがあるのかは知らないが。


*****


「サメは食用になるけど、サメウルフは食べられるのかなあ」


戦闘(ウェーブ間ではないのでおそらくクエストとクエストの間だ)の会話でそんな話題が上がった。言ったのはマーブルだ。


「サメって食べられるの!?」


大食漢のヨーコも知らなかったらしい。カレー限定の疑惑が高まった。


「食べられるよ。ただちゃんと処理しないと臭くなったりするから流通はしてないんじゃないかなー」

「ヒメちゃんってだいたい何でも食べたことあるよね」

「献上品とかいっぱい来るからねー」


本当に姫なのかもしれない。姫がサメを食べるのかはともかく。


「一般的な『ウルフ』に関してなら毒はないけど食用に値しないという資料がありますよ」


現在唯一の水着姿であるトワが言った。


「え、誰か食べたの?」

「記録があります。どうも肉質が駄目のようですね。通常では硬すぎるし煮込んだり蒸したりしてやわらかくしようとするとボロボロになるそうです。味は淡白と記されていますけど他の部分と照合する限り美味しくはないようです」

「ふーん」


日本人は何でも食べると言われる事があるが、オオヤマト国も類似の民族性をやはり持っているらしい。


「手間がかかっても美味しいならいいですけど、手間がかかって普通以下だとどうしても食用にはなりませんね」

「食べてパワーアップとかあればいいのにね」

「漫画じゃんそれ」


(ゲームの世界なんだよなー)

女子トークと言い辛い話を横で流しながら、ワタルは今後の事を考えていた。具体的にはガチャのことだ。

最大効率を考えるのであれば1日1SSRを引き続ければいい。このイベントでも紅結晶が手に入るから数ヶ月かけてかなりの部隊強化が可能だ。

しかし、理性では抗えない魅力が二人の限定水着にはあった。半分、いやそれ以上はワタルの男性的部分に訴えているし、戦力的な意味でも魅力的だ。

かといって4倍かかるし確定でもないガチャに紅結晶を回すのはちょっと……の繰り返しだ。

少し多めに紅結晶が手に入れば10連だけはしていいんじゃないかな。意思が弱い。


「司令官、見えましたよ! あれが占拠されたロッジです!」


いつの間にかロッジに向かうことになっていたらしい。イベント会話くらい入れてくれてもいいんじゃないかそれ。元からトワが言っていたのはわかるんだけど。

ロッジへの道にはやはりサメ。多少ターンがかかるようになってきた。最後のウェーブに突入すると、一際大きく色の違うサメが現れる。


「なるほど中ボスか」


鮮血姫はイベント戦闘だったので、ボスクラスは初めてと考えていいだろう。戦闘にあまりプレイヤーの介入要素のないクリクリだが、ボス戦闘がいかほどのものかはよく見たほうが良さそうだ。


いつも通りリディとヨーコが先行する。若干だが彼女らの負う怪我にも目が慣れてきた。本当に少し、だけど。

ヨーコがガツンとサメの横っ腹を殴りつける。今までにないギィィィィン! という音が響く。


「硬いよ!」

「それなら!」


リディが体勢低く飛び込み、ヨーコが殴った更に下、サメの下腹部にナイフを立てる。下腹部が見えているのはサメが空を泳いでいるからだ。原理は不明。ギャグイベである。


「はあっ!」


ナイフが何かを削り取る音がするも、血は流れない。鱗をいくつか削ったくらいだろう。

残り3人の攻撃も効果的なダメージが通ったとは言いづらい。銃弾でさえ貫通しない鱗ってなんだよも思うが、そういう相手が『ウルフ』という存在なのだ。


相手のターンだ。サメは口を大きく開いた。ほぼ目の前にいるのはヒメだ。


「こっち!?」


刀を水平にし、すぐに避けられるようにヒメが構える。通常は距離が敵から見て最短、つまり超近接の2名にしか攻撃ができないはずなのだが明らかに近接のヒメをターゲットにしている。

サメの目がピカッと光る。何かの演出だろうと思ったその瞬間。

ビームが出た。


「うわあ!」


姫らしからぬ悲鳴でヒメがビームを避ける。直撃しなかったものの美しい十二単の一部は焼き焦げてなくなっている。


「司令官! 大型サメは体内にビーム精製袋を有しているようです!」

「見ればわかるよ!」


トワの相変わらず事務的に入ってくる説明を流しワタルは考える。レベルが低すぎるのか? でも道中そこまで明らかな戦力差を感じることはなかった。何かがある?

しかしあれだとまるでサメというよりも戦車や戦艦の類だ。ビームて。


「いや……」


むしろ戦車や戦艦なのか?


こちらのターンの攻撃が始まる。3ウェーブ目でもあるのでスキルの初期発動までの時間は過ぎており、全員スキル発動可能の印である燐光を放っている。同様に司令官スキルも。

(こいつが戦艦だとするなら、対抗はビームしかない!)


「マーブル!」

「いいの? いっちゃう?」

「いい! 俺に続いて撃ってくれ!」


力を収束。狙うは腹。


「いっけえええええええ!」


閃光砲の光がサメを貫く。そこに加えてマーブルが高らかにスキル名を叫ぶ。魔法使いは魔法を使う!


「ハピネス・メモリー・ショーーーット!」


放たれた矢が金色の奇跡を描き、ワタルの作り出した白の道を上書きしていく。確かにそれは矢と言うよりも光線と呼ぶべき代物だ。


光が消えた際、二重の光線に貫かれたサメはその腹部を大きく欠損していた。ご丁寧にバチバチッと中でスパークするような音が聞こえる。


「やった!」


疑問系にしなかったのはフラグになると困るからではなく確信があったからだ。そう、こういう時はほとんどお約束で、


ドゥーン


爆発するのだ。


「ビーム精製袋に引火したようです。対象、沈黙しました」

「ふー」


イベント戦闘なのだろうか? いやだがここに入れる必要はないだろう。ギミック戦闘と言ったところだろうか。

マーブルは魔法少女なので魔法的な技だろうと見たが正しかったようだ。銃のジュンナだとスキルは「連続射撃」だったのでそこまでのエフェクトはない。

光線属性が設定されているスキルでなければ貫通できないとかそういったものだろう。最悪司令官スキルで倒せるので有情ではあるか。

多少、イベントのバランスが変な気もするが、メインストーリーでも出ているギミックなのかもしれないのでワタルはなるべく今回の状況は覚えておこう誓った。

決して水着のトワを覚えておくためではない。いつでも着てくれるはずなのだから。

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