1-9 初勝利と深まる謎(戦闘なし)
「人型の『ウルフ』ですか」
諸々の後片付けが終わり、司令官室に戻ってきた。そこで今回の事に関しての話をしている。
「『ウルフ』というのはオオカミに似た生態を持っていることから名づけられたと聞いていますが、あちら側にも人がいるんですね」
(鮮血姫も『ウルフ』って名乗ってたけどなあ)
シナリオの都合だろう、たぶん。
「『ウルフ』が何をもって侵略を行っているかはわかりませんが、水晶隊の発足と共に人型が現れたというのが気になります」
「あたしは研究所が襲われたってのが気になるなー」
ヨーコの発言にワタルも頷く。そもそもクリムゾンクリスタルの研究というもの自体がよくわからないのだが、これは内容を聞いても理解できないだろう。
「それにしてもさー」
ヨーコが更に言う。
「紅玉ってのはウケるよね」
「そうね」
リディも同意する。
「『ウルフ』は異世界から来たとする説が有力ですから、あちらには林檎がないんじゃないですか?」
「不毛の地とかだとちょっと可哀想だね、それでも侵略はないけどさ」
おそらく開発が面白いと思って入れた会話だろうがワタルもまったくその通りだと思う。
紅玉は林檎の種類の一つだ。小売りで良く見かけるのはジョナゴールドとかふじなので知らない人もいると思われる。
なのでこの会話は滑っている可能性もある。ライターがちょっと心配になるワタルだ。
(しかし、これが「設定された会話」じゃない可能性もある)
実験室でのリディとの会話。あれは完全に設定された会話なのだろうか。
ワタルが単純なので想定されていた内容である可能性は確かにある。だが、あの言葉がリディ本人から出たものだと信じたい。
どういうシナリオになっているか知らないが、全員がハッピーになるように尽力するのみだ。
「『ウルフ』が研究所を狙ったのがクリムゾンクリスタルに関係するのは明白です」
「鮮血姫はやばいもんね。でもクリムゾンクリスタルから力を引き出したら勝てるのかな」
「司令官を見た感じだと十分可能性はあると思う」
「ですね。皆さんの訓練にも反映できるように連携しますね!」
無駄のない会話によって、システムが一つアンロックされた。スキルツリーだ。
例えばリディの短剣スキル「トルネードエッジ」には派生系の「クロスエッジ」があるし、剣スキルも育てることで「ジャグリングエッジ」も覚える、という形だ。
どうもクリクリは通常技で戦うというよりもスキルによる一撃必殺が好きらしい。結構ピーキーなバランスな気がする。
会話も終わったところでリディとヨーコは部屋を退出した。次のシナリオに出番があるかはわからないが、戦闘では手伝ってもらう事になるし今後も仲良くしたいところだ。好感度イベントはシナリオも関係しないだろうし。
「そういえば、あの時どうやって連絡したんだ?」
「ああ、この端末電話機能以外にもトランシーバー機能があるんです」
「なるほど」
腰に下げている端末はスマホみたいだがスマホではない。いや電話機能があるからスマホではあるのだが。多機能スマホと呼ぶのも変だし端末で良いんじゃないかと思う。
*****
近未来日本(オオヤマト国だが)、異世界からの侵略者のケモミミ、部隊全員女の子。
クリクリは紛うことなき「企画されたゲーム臭」が強い。
そしてサービス開始前だったはずだ。もはや記憶に埋もれかけているがCMでは近日サービス開始になっていた。
つまり、ゲームの状況次第では穴を突ける可能性だってあるし、バランスブレーカーが残っている可能性もある。
それを見つけるべきだ。誰も傷つかない事は無理でも全員がハッピーは目指せるはずなのだから。何が何でも強くなれ。
経験値稼ぎマップというのはないようだ。いや、まだアンロックされていないだけかもしれない。なぜなら序章をクリアしただけなのだから。
次の章に進むには、またトワに話しかけて話題を進めればいいだろう。だがその前にできる事はやっておきたい。
各メンバーのステータスに関しては編成画面で可視化されている。実はステータス画面には戦闘関係以外の個人情報が記載されているブロックがあるのだが、ワタルはまだ気がついていない。なぜなら入り方がわかりにくいからだ。スリーサイズが載っていることを知ったらトワの見ていないところでこっそりとねっとりと見るだろうきっと。男の子なので。
赤片を使用してレベルを上げようと思ったが、少し手を止める。
「トワ、紅結晶ってどれだけある?」
「52個です」
クエスト報酬でいくつか増えたようだ。
「前に貰った特殊なやつは?」
「これですか?」
箱に入った紅結晶を目の前に出してくれる。色が少し金色っぽい。
ガチャ演出を思い出す。SRの際には白っぽい光だった。これ、SSR確定か。
多くのゲームでの確定ガチャは本質的に2種類ある。「ラインナップ固定ガチャ」と「ラインナップ変動ガチャ」だ。つまり後者は新キャラが増えれば増えるほどラインナップが増える。エリクサー症候群の場合こちらのチケットは保存される事が多い。逆に前者はいつ引いても同じなのでさっさと使うに限る。
ヘルプを確認してみたが、クリクリの確定ガチャは前者のようだ。よって今使っても問題ない。
「どうやって使うんだろ?」
「普通に取り出して機械にセットすれば大丈夫ですよ」
なるほどとケースから紅結晶を取り出してガチャ機械にセットしそのまま起動する。光が金色に溢れ、表示されたのは初めて見る顔だった。
「ヒメだよー。司令官はヒメの王子様になってくれる?」
ヒメ、と名乗る子は十二単? のような出で立ちだった。SSRの特殊衣装だと思われる。
「ヒメ?」
「うん」
「どこの?」
「オオヤマト国だよ」
嘘やん。
「司令官、ヒメさんは経歴不詳の方です。ただ、クリムゾンクリスタル適正はかなり強く、水晶隊の一員として参加していただいてます」
謎の女性だった。見た目は14かそこらくらいで本当にオオヤマト国にお姫様がいるかを知らないワタルとしては何とも反応しづらい。
とりあえずヒメには退出してもらって、ステータスを確認。
武器特性は刀、槍、弓、銃。十二単を着ているだけある。ステータスもSRリディよりも高いしこれは主力になってもらうしかないだろう。
と考えたところでお腹が鳴った。もう夕食時だ。激動の一日だった。
「晩ご飯にされますか?」
「そうだな、今日の業務は終わりにするか」
「わかりました」
ささっと部屋を片付けるトワ。その片隅に、先ほど使用した確定チケットの箱があった。
(あれ、これ消えてないんだ)
電撃が走るとはこの事かもしれない。ワタルはその箱を引き寄せ、ポケットに仕舞う。
「ちょっとショップに行って来る。そのまま食堂に行くわ」
「はい、わかりました。では食堂でお待ちしていますね」
トワの声を聞きながら司令官室を出る。心臓の鼓動がとてつもなく早かった。
箱を取り出し、紅結晶をセットする。うん、見た目は先ほどとまったく同じだ。
紅結晶は本来4つなければ召還に使用できないがこの箱に入っていたのは1つだけだし今セットできたのも1つだけだ。さて、どうなるだろうか。
少し見ていたが先ほどのような金色の光は漏れていない。時間を置いてみようと思いワタルはそのままショップへと向かった。
「司令官、今日は何をお求めだい?」
「イェンで買える物って何?」
「ここからここまでかな」
アキノが示したのは、ラインナップの端のほうにある商品だった。
クッキー、書物、ピアス、ぬいぐるみ。好感度アイテムっぽい。
なるほど、クリムゾンクリスタルに関係しない形のものはイェンで入手できるようになっているみたいだ。
他にも実用系のアイテムはあったが、せっかく活躍してくれたヨーコ達と新加入のヒメ用に少しだけ買った。
「司令官室にお届けするかい?」
「ありがとう、頼むよ」
夕食を食べ、風呂に入り、少し復習をして寝る。
後の動きはそれだけだった。夕食はハンバーグ定食を食べた、美味しかった。
トワは食べずにスムージーを飲んでいただけだ。キャラ付けを間違えている気がしなくもない。