表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/104

チュートリアル2(1-1 演習)

「司令官、演習に参加するメンバーを選んでいただけますか?」


トワが言うが、ワタルは首を横に振った。


「『おまかせ』できない?」

「わかりました、最初は私で選択しますね」


パーティ編成はお任せ設定がほとんどのゲームで存在する。その活用はチュートリアルで説明されることも多いので今回はそれに乗っかった形だ。


「使用武器についてもこちらで決めてもよろしいですか?」

「頼むよ」


このゲームではパーティ選定からの武器選定があるらしい。しかし武器はガチャから出てこなかったのだが……


「さあ、戦闘しましょう!」


クエスト1-1、もしくはチュートリアルクエスト。まず負けることがない最初の戦闘だ。


「バトルはターン制ですが全てオートで進行します。司令官は皆さんにスキル使用の指示を行うことができます」


つまり戦闘時にタップでスキルを発動できるとかそういった奴のようだ。うまくシステムが現実に落とし込まれている。

ワタルは模擬戦闘用の機械人形と戦う彼女たちをじっと見つめた。そうするとリディにのみ赤い光がオーラのように立ち上っているのがわかる。


「リディ!」


思わず叫ぶとリディは持っている短剣をグッと握り、叫んだ。


「トルネードエッジ!」


トルネードエッジは両手に握った短剣を体の高速回転に合わせて相手を切り刻む技だ。人間業ではないがそれを可能にするのがクリムゾンクリスタルの力である。

リディの技によって機械人形は沈黙した。


「そうね、私は戦うためにここに居るのだから……」


勝利時に何か喋るのもよくある話である。


「見事な指揮でしたね司令官!」


トワが褒めるがチュートリアルなので負けるわけがない。ワタルは苦笑する。


「今後の為にも部隊の皆さんにもっと強くなってもらう必要がありますね」


育成チュートリアルだ、と察した。


「水晶隊の皆さんはクリムゾンクリスタル適性者です。そのため紅結晶やその欠片の力を取り込むことでパワーアップが可能です!」


そこでトワは赤い欠片を取り出す。紅結晶に近いが輝きが少し鈍いし、かなり小さい。


「この赤片があれば皆さん自身の力や使用武器の強化が可能です。赤片は『ウルフ』が落とす他、イベントでも入手が可能です」


メタるな。


トワが赤片をリディに渡す。リディのレベルが上がったのだろう赤い光が彼女に吸収された。


「赤片の力を一定まで取り込んだ場合、それ以上の効果を見込めないという研究結果があります。その限界以上に皆さんに強くなってもらう為には何らかの対応が必要になるかもしれません。現在解析中ですので結果については随時報告しますね」


つまりレベルキャップ開放が存在するという事だろう。限界突破というやつだ。


「また、武器を強化することでアビリティが発芽したり連携が密になることもあるようです。戦闘前の使用武器の選定から注意してくださいね」

「ああ」

「詳しくは資料にまとめてありますのでまた読んで貰えると嬉しいです。勿論事前に私に聞いてもらっても大丈夫ですよ」


ヘルプリファレンスも用意があるということで一応はきちんとしたゲームであることが伺える。昔知人に紹介されたゲームは何がなにやら良くわからなかったものだ。

苦い思い出に顔を渋くしていると、最後にトワがこう言った。


「それと、クリムゾンクリスタルの適性者同士は相互干渉によって力を増す事ができるようです。司令官も隊員の皆さんと向き合って信頼を密にすることで、更なる力を皆さんに与える事ができると思いますよ」


ひょっとしてこれは「好感度イベント」という奴だろうか。

(聞いた事があるぞ)

先ほどの「知人」は変な男で、さまざまなゲームをプレイしていた。その中で一つ聞いたことがある。

特定のプラットフォームでそのゲームをすると、アダルティなイベントを鑑賞する事ができる、と。

渉流は普通の少年である。つまりそういった事に興味津々な年頃でもあった。父の隠しているアダルティなものを見つけようとしたが今のご時勢スマホにinされている事が多く見つける事ができていない。そして罪の意識がある為嘘を付く事も憚られた。具体的には年齢を偽ってその知人の見ているアダルティなイベントを見ようとする事ができなかった。


しかし、しかしである。今は渉流ではなくワタル司令官なのである。

これはひょっとするのではないか? 期待してしまう少年なのだ。

いつの間にやら目の前にはリディがいる。そしてワタルの手の中には可愛くラッピングされたクッキーの袋。


「さっきはありがとう、お礼」


台詞は思い浮かばずとも出てきた。クッキーをリディに渡す。


「ふ、ふん。ちょっとは認めてあげる」


ツンデレは一瞬で落ちる。ワタルの期待を他所にリディは話し始めた。


「私の家は貧しかった。だから勉強して勉強して、このオオミカド国の学校に入ったの。そこでも勉強して勉強して、そうしていたら『ウルフ』の奴らが現れた。国境は閉鎖されて帰れなくなっちゃった」


あれ、これはひょっとすると、とワタルは思った。


「親とは電話でしかやりとりできなくてちょっと寂しい。でも、あなたならこの戦いを終わらせてくれるかもしれないって、そう信じてあげる」


リディはワタルの手を握り、少し自分に向けて引いた。バランスを崩したワタルの頬に一瞬だけリディの唇が触れる。


「よろしくね、司令官。じゃ、また」


顔を真っ赤にしたリディが司令室を出て行った。一般イベントだった! アダルティなイベントは先にあるかどうかは保留になってしまった。いや、これで終わりではないと信じたい。至極健全な思考だ。


「あらあら、リディさんったらすっかり司令官のことがお気に入りのようですね」


トワの声に我に返る。いやトワがいるのにほっぺにチューは強者過ぎるだろリディ。全然気にしないトワもトワだ。

つまりは彼女は心底「ナビキャラ」なのだろう。これから先の生活を一部始終見られる可能性もある。


(あれ?)

そこで気づいた。この夢はいつ覚めるのか、と。

(今感触あったよな?)

気になってワタルは頬を抓る。痛いぞ。


「つまりこれは」


現実か? そんな馬鹿な。


「司令官、本日はお疲れ様でした」


気が付けば夕方だ。これほど長い夢もあるだろうか。あると思いたい。


「明日からもよろしくお願いしますね」


トワが笑った。とてもいい笑顔だった。


「あ、そうそう。本部から支給が来ていますよ」


笑顔のまま、トワが物品を並べていく。紅結晶、赤片、たぶんお金、特殊なケースに入った紅結晶。このケースのやつはレアリティ確定のガチャチケだろう。チュートリアル突破の報酬と思われる。


「それとこれもです。明日は別のものが支給されるようですよ」


赤片を少しだけ。こっちはログインボーナスだろう。まあ居るだけで貰えるのも有難いと言えば有難い。頂くことにした。


「あのさ」

「はい」

「ショップって、ある?」


ありますよ、の回答があったのでショップに来た。購買部のような形で鎮座している。


「あら司令官、いらっしゃい」


迎えてくれたのはトワよりも少し年齢が高そうな女性だ。ご丁寧に名札をつけている。アキノという名前らしい。物腰と名前からどことなく人妻っぽい。

ショップの種類をチェックする。そう、ここにはアレがあるはずだ。


「紅結晶ショップ、これだ」


こういうゲームにはガチャを回すための石が販売されている。どうしたらこの石を入手できるのかを確認しておきたかった。


「あーこれは研究所から流されている紅結晶だよ。なんだか予算確保のためにここで司令官や隊員のみんなが必要なら売ってあげてって言われてる」


ワタルの腰を指差し、アキノは言った。


「流石に売る場合は司令官のポケットマネーになっちゃうけどね。端末内で残高が確認できるよ」


言われて腰に下げられている端末を取り出す。トワもそれ教えてくれよと思わなくもない。スマホとほぼ同じなので操作は問題なかった。ワタルは自分の持つ「ポイント」残高を確認したが、


「440円……」

「1個だけなら出せるよ。必要かい?」

「いえ、大丈夫です」


おそらく1個ではガチャを回す事すらできないだろう。アキノに礼を言ってワタルは購買部を離れた。


気になることがあった。440円の残高。

見覚えがある。渉流のストアアカウントに残っているポイントがだいたいそれくらいだった。ちょっと前に月間パス960円が買えないと嘆いた事が記憶に残っているからだ。


「やばいな。本当にゲームの世界に来てしまったかもしれない」


自分が非日常にやって来たという高揚感を胸に、ワタルは司令官室へ戻っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ