やま
面白くは無いです。
ただ泣く。
とりあえず泣いている。
なぜ泣いているのか、そんなのは正直何でも良かったのかもしれない。
母親が死んだ。
人生で1番辛い体験であろう。
あまりにも悲しいと涙はでないとよく耳にするがそれは嘘だ。
なんで泣いているのか、悲しいか、悲しくないかも分からない。
とりあえず泣いている。そんな感じだ。
受け入れられないのだ。
母は私にとって特別だった。マザコンという言葉があるが広い意味では、私はそうなのかもしれない。
成人をし、世帯を持ち、妻ができ、子供が生まれ、仕事に育児と忙しない生活を送っている。
しかし母は私の心の中ではとても大きな存在だった。
いなくなってしまった。ただ不安で、何も手につかない。
葬式の準備をしないと行けないが体の力が抜けてしまって、
冷たく動かなくなった母の前から一切動くことが出来なかった。
私の実家は山の中にあった。
ひいじいちゃんのそもまた親から続く自分で5代120年の歴史を持つ大きな家。
この家を守ることを小さい頃から約束されている。
厳しく厳格なおじいちゃん。しつけが行き過ぎているように感じられる父。
そんな世界で唯一味方をしてくれていたのが母だった。
母のおかげで優しさを知り、愛を知った。
「お母さん……早いよ」
冷たい体をゆする。今にも起きそうな顔は微動だにもせず、ただ焼かれるのを待つばかりだ。
葬儀屋が到着し式の形式や規模、花の色や量、火葬場の日程の話など多くのことを決めた。
ほとんど記憶はなく、葬儀屋の言葉に頷くばかりだったと思う。
葬式が始まる
母に線香をあげにくる人々の列が途切れないよう祈る。
途切れたらもう本当にお別れだからだ。
坊主が何を言っているか分からないが何故か泣けた。
願いは叶わず列は途切れ、棺は釘打ちされ窓を締められる。
フォーーと音をたて霊柩車は火葬場に向かう
手を合わせ送ったあと、バスに乗り込み後に続く。
黒いふちにリボンのついた遺影は一緒に行った水族館の写真だった。
もう一度見つめ、強く抱きしめる。
こんな姿をみて子供はどう思うだろう。嫁は幻滅するだろうか。
しかし、人の目などどうでも良かった。生きてるうちにこうしてあげればよかった。
後悔は尽きない。
まだ恩返しもできていない。孫の成長もしっかり見せれていない。嫁におふくろの味を伝えてもらっていない。
しておけば良かったことは詰まることなく永遠と思い浮かんだ。
山を越え火葬場に向かう。
霊柩車から繋がる車の列はつらつらと進んでいく。
これから1人旅をする母を送るために
この悲しみの山は越えられるのか、私にはわからなかった