貴方もお前もそこにいる!
「ちょっと派手じゃない?」
「似合ってるよー!」
俺は、ジャージの上下だ。アリゲーターキャップのキャラクターがワンポイントだからオシャレである。オシャレだろ?
それはともかく。
ハルコちゃん!
キョウカちゃん!
カノヨちゃん!
三人はオシャレなかっこうだ。外出、お外いきのきあいをいれてもらった。外に行くからだ。
あとついでのファンタズマゴリアの諸々のれんちゅうもいっしょだ。モブれんちゅうといったら、大抗議を受けた。そのほか大勢だが、なんどもいっしょに生き抜いた大切な仲間だ。
全員でひとり。
騒がしいれんちゅうだから寂しいもできない。
「しみったれた、ファンタズマゴリアのまわりとはわけがちがうぞ!」
廃墟しかないような街から、ちゃんとしたデパートで買い物の約束をしている。楽しみ!ということはみんなが同じ思い。だけれど、どんな服を着るかまでは無頓着だ。
パワーローダーは駄目です。
魔法少女しかいないファンタズマゴリアの寮生活は、いびつな教育になっている気がするんだ。
普通の女の子はパワーローダーで敵をボコさない。
復唱してほしいものである。
「……おへそが……」
ハルコちゃんが、あらわなお腹を隠しながら、ついでに真っ赤な顔も隠しながらあらわれた。
セクシーに決めている。
お腹が見えているのだ。
お腹を隠すほど、服の長さはない。
ついでに、ズボンもなんだかあやしい。ジャンプしたらお尻が見えてしまいそうだ。
過激だ。
「いや、それは俺じゃないよ。誰ー、ハルコちゃんの服のへそだしコーディはー?」
「あっ、それわたしだよ」
「最近のはやりらしいんだー」
「おとなー!」
おへそはだめ!
ファンタズマゴリアの女の子は、派手を好むらしい。
どこかの誰かは、ほぼ水着みたいなので出歩こうとしている。阻止した。ファンタズマゴリアの沽券にかかわるじたいだ。
そんなこんなで、町にでた。本物の町、シティだ。山田の運転するバスで、たくさんの魔法少女が送られている。道中はにぎやかだった。
山田……正直、よくわからない生物だが、問題はないらしい。不思議だ。
「いってらっしゃい」
山田のその言葉に、まぶしい、「いってきまーす」の魔法少女の返事が、耳にざんきょうする。
「息抜きに町に行ってこい、かー」
「山田て時々というか、いつもだけど、考えてることわかんねーな」
「おやすみだと思えばいいんだよ」
「出動以外は休んでるけど」
「それ待機だから休み違う……」
町だ。
きゃっきゃっ騒いでる魔法少女はいつものことだけど、魔法少女じゃない人もたくさんいる……ように少なくとも見える。
バスから降りてきたおれたち……おれも含むのか……魔法少女の集団にギョッとしているのがわかった。珍獣を見るように、いつもと違うものを見つけて、興味をもっている。
子供の、大きな集団だからだろう。
見ているのは大人が多い。
昼間、仕事の時間だからかスーツ姿がよく目にはいった。疲れた顔が、うらめしい、まぶしい、いりまじった目線をよこした。
のんきなガキ。
そんな心が、透けて感じた。
おかしな話だ。
ファンタズマゴリアの魔法少女は、敵と戦っている。パワーローダーを着て、炎と鉄の塊のなか、命を削って燃やしている。
だけど、子供だ。
子供ということで、全てが『子供相応』というフィルターにかかるようだ。
あるいは、知らないのかも。
「……」
「……」
「……」
まあ……周囲の目は置いといて、ショッピングにはしゃいでいた数分前。いや、数十分だろうか? 俺以外の三人、ハルコちゃん、キョウカちゃん、カノヨちゃんはベンチの上だ。
うつむくように下を向いている。
疲れたのだ。
「まだまだ、これからだと言うのに」
ちょっと呆れちゃった。
まったく。
俺は両手に今日の戦利品を積んでいる。俺が買ったものもあるが、三人の買い物の全てもここにある。
大して重くないからいいけれども。
たくさん買った。
おとな買いできる子供とは素晴らしい!
まあいい。
小休憩だ。
よく見なくても、あちこちのベンチや柱には、幼女がバテていた。
ファンタズマゴリアでの顔なじみ。
魔法少女だ。
体力が無いわけではないのだけれど……精神的に、だろう。
魔法少女は都会と相性が悪いのだろうか。
「疲れた……」
ハルコちゃんがしぼりだす声。
本音だろう。
「はい! ハルコちゃんが買った、ARメガネ」
「うい、ありがとー、タツミちゃん」
ハルコちゃんは、ARメガネを買った。ちょっと高い買い物だけれど、魔法少女だ。なにがって、メガネには、ほうきにまたがる魔女と星のシルエットが印刷してある。
魔法少女だろ?
「それ、なにができるの?」とキョウカちゃんがきいた。
「見えている世界を変えられるんですよ」
「ふーん」
「かけてみます?」
「あっ! したいかも!」
ハルコちゃんの誘いにこたえたのは、カノヨちゃんだ。
キョウカちゃんは、気になって伸ばした手を、そっと戻した。
お互いの心を察せられるからこそ、妙に引っ込みが良い。魔法少女の悪い癖だ。だから、と俺が言えるものはなかったけど。
「キョウカちゃん」
「なに、タツミ」
「この後は、お昼だけどなにを食べようか」
「外食?」
「食べ歩きってのもあるよ」
「う〜ん」
キョウカちゃんは悩んでいる。
「たこ焼き……」
「たこ焼き?」
「うん。食べたい」
ちょっと以外だ。
たこ焼き。
悪いことじゃない。
「途中でたこ焼き屋があったね。そこで買おうか。トッピングのバリエーションも色々あったから、好みで注文しよう」
ところで、「たこ焼き好きなの?」と訊いてみた。
「わからない。ただ、食べたことがない」
「興味が湧いたわけだ」
「そんなところ」
そういえば昔、たこ焼きパーティをしたことがある。タコをケチったものだった。あれは、一人だったな。そのうち、誰かを誘って……。
ハッとした。
そのうちとは、いつのことを考えた?
体を返すとき、俺はいないのだ。
いないのに、決めるものではない。
「注目ー。お昼はたこ焼きだから」
「タツミが買ってきてくれるのー?」
「残念、各自で注文してもらいます。トッピングの好みもあるしね」
「エビマヨとホタテ、ネギカツオとマヨネーズ増しでお願い」
「その要請は却下します、カノヨちゃん」
たこ焼きの味を忘れることはないだろう。
初めての友達。
初めての買い食い。
初めての共有。
楽しかった。
だからこそ、残念だった。
「おぉ!」
おもちゃ屋さん前では、いつの時代も子供でおおにぎわい……なのだろうけれど、ひどく違和感がある。
女の子の強い圧力で、やんちゃそうな男の子もびびっていた。勇者もいたけど
「ママー!」
いや、かわいそうすぎる……。
魔法少女は、中身は三〇歳童貞。
しかも大人の男だ。
敵と戦うし、パワーローダーもあやつる。遺伝子レベルで同学年とは別種の存在なのだ。だけど、中身は純粋……? かはともかくとして、子供と思ってはいなくても子供のようになっている。子供は対等、少年はきたえあげられた魔法少女幼女軍団にミンチされた。
ひどい状態ではないけど、囲まれて、脅された。
女性きょうふしょうになっちゃうよ……。
子分を連れて、泣きながら逃げていく男の子が哀れでならなかった。今日のことを忘れられればよいのだけど。
そこまで魔法少女が意地になっているのは、ゲームの試遊、オモチャの試遊、箱しか見られないオモチャたちを手にして遊べるものに夢中になっている。
素直すぎるくらい素直。
でも、たこ焼きを買い食いしているような子は、汚れた手では絶対に触らない。自分のこと以外も考えている。普通の子供よりは、ずっと高い感覚だ。
やはり、中身のちがいなのかな。
合金製の合体ロボット。
勇ましい武者が千切っては投げるゲーム。
ブロック状の知育オモチャでなにか作っている。
楽しそうに遊ぶ子供がいた。
俺は、その中にはいない。
子供ではないという心があるからだ。
「お前ー、それはないだろ。レーザーかよ」
「そうだよ。合成光子の重光子、質量をもった光で光束の60%まで減速した光のビーム。この距離じゃ外さない」
「ずるい!」
「よって、君のプラズマ被覆の低抵抗貫通のロケットよりも速く当たる」
魔法少女……。
敵と戦うからだろうか?
やっぱり、魔法少女だからといっても、ちょっとおかしすぎる。いや、子供とはこういうものなのかな。
子供は宇宙人だーとも聞くし。
大人からは理解しがたい存在なのだろう。
あるいは、忘れてしまったもの、そのものか。
「……」
あっ、人形で遊んでるの、ファンタズマゴリアで俺に、チキノサウルスを貸してくれた子だ。
なぜかあのときのチキノサウルスは、まだ俺の部屋の中にある。
借りパクではない。
「怪人だ」
敵役に怪人があらわれた。
魔法少女のてのなかで操られる、ゴツゴツとしたソフトビニールの人形。
怪人はいちども勝たない。
勝たせない。
それは、怪人役でもてっていだ。
魔法少女は、みんな個性的。
だけど、大勢であることを最善にする。
漫画ならモブ。
最強のモブ。
彼女らは、きっと、ひどく冷静なのだろう。
「タツミー! そのイカをください。タコマヨあげるから」
「リョウコちゃん、このたこ焼き半分かじってるし、なんなら、なかのタコさんがいないんだけど」
「そこはほら、間接キス代?だとおもってさ」
「言っててきもちわるくない?」
「……そうだね」
「まあ、あげるけれども。ケチじゃないから」
「わぁ! ありがと、タツミ!」
怪人と戦えるだろうか?
人形遊びの怪人は、次々となぎ倒された。
敵も同じだ。
だけど、人間かはともかく、それはやっぱり『ヒト』ではあるのだろう。
俺は、そんなことを考えた。