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魔法少女タツミと怪人の告げ口

 廃墟の町の一角で、敵を捉えた。まだ見えない。だけど、わかるんだ。敵がいる。敵、と呼んでいる存在がだ。


 感じるんだ。


 見えたとき、予感は確信なった。


 狩りだ。


 パワーローダーのグランドホイールが唸る。


 追うのは、敵だ。


「魔法少女め! いいかげん諦めろー!」


 複眼の顔、ゼンマイのように丸まって折りたたまれた口は蝶と同じだ。虫型で、人型の敵。


 敵だ!


 背中の冷却器を展開、重光子自由レーザーの磁気加速砲身を伸ばした。画像処理AIが敵の生体防御膜を計測し、レーザーの波長を調定。照射。


「ッ!」


 蝶型の敵が翅でかんいっぱつでかわす。超高温に熱せられた大気が渦をまいた。鋭い、小石を投げつけるような、短いレーザーが数十同時に飛んだ。背後の石ころが、一瞬で蒸発して、エネルギーを外にむかって噴出、弾けた。


 小柄な、両のてのひらをあわせたくらいしかない敵が熱風にあおられて落ちる。


 とどめだ。


 踏み潰す。


 パワーローダーは、俺がやろうと、動こうとするように足をあげた。


「待て待て待て! 『同じヒト』だろぉ!?」


 そう、蝶型が叫んだ。


 踏み潰した、わけではない。足の裏のシミになるまえに、止まった。同じヒト? どういうことだろう、と。


「どういうこと? お前、人間なの?」

「人間? 怪人と呼んでくれ! 人間は嫌い……」


 三本指マニュピレータが、パワーローダーからとびだした。蝶型の頭にみごとあたって、指が頭をがっしりつかみ、ギリギリとしめあげていく。遠からず、頭がはじけそうだ。


「ヒトだ! 人間じゃないが、私たちはヒトなのよー! ちょっ、これやめなさい、イタタッ!」


 解放した。


「死ぬかと思っちゃったわよ!」


 続きを聞きたくなった。


「魔法少女なんて亜人のクセに! パワーだけはすさまじいわね! そう作られているから当然だけど!!」

「……?」

「間抜けな顔してんじゃないわよ!」


 マニュピレータでしめあげた。


 頭蓋骨が悲鳴だ。


「あだだだっ!?」


 肌が、魔法少女の近づきを感じとる! 俺はとっさにこの敵を死角へ隠した。


「タツミー、無事?」

「大丈夫です、キョウカちゃん!」

「うん! 上々、上々。魔法少女には慣れてきたみたいね!」


 パワーローダーに貼られた、頭蓋骨をかじる熊。ツキノワ組のキョウカは、両手を組みながらなんどもうなずいてくれた。


 心配させていたらしい。


 めんぼくない。


「掃討戦は終わったよ。しばらくは平和、平和。現地解散だから、てきとうに帰ろ」

「はい! でも、もう少ししてから……」

「う〜ん……協調は大切だよ?」

「すみません……」


 至極真っ当!


「でもいいや。早くファンタズマゴリアに帰ってきてね」

「あっ、はい!」

「お先にねー」


 パワーローダーの大きな手を振って、キョウカちゃんを見送った。彼女の背中には、同じツキノワ組の友達も続いた。


「さて……」


 敵は冷や汗を流している、ように見えた。おはなしの時間だ。




 ファンタズマゴリアの家で、ベッドの上で、なにをするわけでもなくあおむけだ。目もつむっている。ちょっと考えごとだ。


『敵だよ』


 山田に敵の正体を訊いた。メールの返信だ。とても単純な答え、それ以上でも、それ以下でもない。


 ぽふっ。


 魔法少女になってから嬉しいことの一つ、柔らかいベッドに身を投げる。ベッドは、俺の軽い体重を一身に受け止めた。


 魔法少女。


 敵。


 考えようとして、不自然に避けてきたワードだ。魔法少女になろうとしている。敵と戦うことに疑いをもたないようにしている。単なる現実逃避なだけ?


 流されて考える機会がなかった。よく考えるんだ。パワーローダーを着た魔法少女は、普通じゃない。それ以前に、三〇歳の童貞を魔法少女に変える技術とはなんだ?


 考えるんだ、タツミ。


 それは、おかしいんだ。


「……う〜! 気分を変えよう!」


 モヤモヤとした、現実への不信感が解決せずにとぐろを巻いて気分が悪い!


 窓を開けた!


 熱気が侵入した!


 夏だからね!


 特別に暑いとは、まだ感じない。風が吹いている。吹きこんでいる。カーテンが揺れた。見えないものを形にして、風をふちどっている。


 魔法少女は、良い人間ばかりだ。


 口が悪かったり、態度が悪かったり、性格が悪かったり……色々あるが、本当に悪い奴らはいない。今までとは違う。世の中の大半は、良い人間をよそおう悪人だ。ここはちがうきがする。


 違う。


 違うのだ。


 だからこそ、何が、良い人間の魔法少女を死地へ誘っているのか、見極めたい。心からそう思った。体には悪いと思うけれど。


 ハルコちゃん。カノヨちゃん。キョウカちゃん。変な三人のともだち。特にしんせつなつながり。変わった、出会わなかったはずの出会い。


 おかしなはなし。


 まあ、いいけど。


 戦いにおどろくほど拒否感がない。敵を敵tpしておきながら、敵と戦う道を迷わない。思考操作でも受けているのだろうか? 好戦的すぎる。それはほかの魔法少女も同じだ。ばらばらなようで、ある一点では平均化されている。


 戦いの意思だ。


 奇妙なことも多い。


 幼女のこの肉体は……人類の人体を超える能力を持っている。あくまでも主観だが、ただの人間とは思えない。魔法少女だからと、逃避するようなものではないのだ。


 反射能力、聴力、動体視力、すぐに気がつけるだけでも、明らかな違和感を覚えるだけの高い水準だ。


 謎は、多い。


 そしてその多くを、俺は知ることもないだろうと確信している。


 俺は、男だ。


 だから魔法少女ではない!


 断言できるほど、無関心では、いられないらしい。残念だ。敵と戦うしかないから。魔法少女であることを、捨てることは、魔法少女たちを捨てること。それができるほど、知らない俺はもういなくなった。


「やってやるぞー!!」


 俺は叫んだ。


 窓の外の、世界にむかってだ。


 全てにむけてだ。


 宣言をした。


 インターホンの予備鈴が鳴る。下の階と上の階、両隣と対面の部屋の魔法少女たちがたってた。騒音のくじょう。でもだけれど、それいじょうに心配された。とつぜん大声で叫んだからだ。


 なやみがあるなら、相談して。


 そう、いわれたんだ。




 ときがながれるのは早いもので、魔法少女になってからそれなりの月日と季節がすぎていく。


 夏のセミは声をひそめてしんでいき、紅葉は散って雪が白くけしょうをする季節。暑さから寒さへ、冷たいものから温かいものが恋しい季節が肌を冷やしていた。


 積もった雪の上を、パワーローダーの大きな足跡が踏む。


 魔法少女にも慣れた。


 ツキノワ組から、ほかにもアゲハ組、ジガ組、カニクイ組、シロナガス組……色々な組を転々して、たくさんの魔法少女の友達ができた。


 俺の人生では、間違いなくいちばん重い比重になったのは、この魔法少女の時期だろう。疑うことはできない。


「タツミ!」


 名前を呼ばれる。


 名前。


 でも、俺には特別な魔法のように唱えられている、そんな気がするんだ。タツミ、と、呼ばれると答えたいと思えた。タツミと呼ばれたとき、期待されている。どんな期待かは万別だけれど、でも、俺を呼んでるんだ。


 俺を、だ。


「タツミ!」

「いってぇぇぇっ!?」


 あっ、本当に呼ばれてた。


 キョウカちゃんが拳骨を作っているし、ハルコちゃんが苦笑だ。


 がっこうの宿題をやっているんだった。忘れてた。英語はわからない。あと、プログラミングの授業がまったくプログラミング関係ない謎科目で逆によくわからないんだった。


 幼女で小学生におしえてもらっているさいちゅうだ。


 最近、一つ、わかったんだ。


 俺は魔法少女と妙に仲良くできている。おなじせたけでどうせいだからだと、子供だからなどと、深く考えないのが浅慮すぎた。


 はじめから、俺がファンタズマゴリアにはいっても、誰も拒否感をもたない。新人、知らない人間、大なり小なり警戒するのにだ。


 それがない。


 そうだ。


 わかるからだ。


 魔法少女は、心の機微をおしはかれる。


 ばくぜんとだけれど、揺らぎ程度は、精度高くに。あっ、怒っている、嬉しいのを隠している。察する力と言えばそれまでだけど、目の前にいなくても、わかる、わかるのだ。


 触れている、だから、魔法少女は高いつながりのようなものをもっている、ということに気がついた。


 なっとくだ。


 初対面から、誰もが普通に話してくれた。


 保証があったから。


 逆に、敵の心も察知できる。かならず見つけられる。隠れていても、息をころしていても、だからこそ、正面からなぐりあう。


 学んだことは多かった。


 学校と同じ。


 だけど、と俺は考えるんだ。


 大人は、学んだことから行動しないと、と。


「タツミ〜?」


 話を聞いていなくて、また、頭をはたかれた。


 小さな手、柔らかい手、やっぱりそれは、おさないものなのだと、理解していた。

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