後編
協力してやった国の王様に会うと、さっそく頼み事をされた。
「敵の砦には、東西南北の出入り口がある。兵を分散させてそれぞれの出入り口から攻めるよりも、一番守りの薄い出入り口に兵を集中させた方が良いと思う。そこで、どの出入り口が一番守りが薄いのか、そなたに調べてもらいたい」
どうやら本格的にスパイ活動に従事することになったみたいだな。
ここはやはりスマホを駆使して、王様の頼みに応えてやろう。
「それを調べるために必要なことがある。王様には未婚の娘はいるのか?」
「娘は全部で三人。上の二人は同盟国の王に嫁がせているが、末の娘は未婚だ」
「では、その末の娘を敵国の王に嫁がせるんだ。そして敵国とは和睦する……が、これは偽の和睦だ。砦の情報は、嫁いだ王女に聞き出させよう。ベッドの上でなら敵の王も油断するだろうから、初夜の時に上手く聞き出させる。そして翌日、王女の侍女に着替えを持たせて敵国へと行かせる。『我が国には、初夜の翌日に新しい服に着替える風習がある』とか言ってな」
「そんな風習は、我が国には無いぞ」
「実際には無くてもいい。その時だけ偽の風習を作ってくれれば、王様の望みは叶うだろう」
王様は俺の作戦を取り上げてくれた。
次は王女の番だ。初めて見るスマホを触らせて、録音の操作を教え込む。
そのスマホを持たせて敵国の王へと嫁がせる。
後は王女が教えた通りにやってくれるのを期待するだけだ。
王女が嫁いだ翌日、敵国に行かせた侍女が帰ってきた。
手にした王女の着替えを受け取ると、そいつにくるまれたスマホを取り出す。
「あっ、しまった……バッテリーが切れてる!」
しかし慌てない。ソーラー充電式だから、太陽の光を当てればバッテリーは蘇る。
充電を終えてスマホの電源を入れる。昨日の夜の時間に、録音データが一つ増えているぞ。
『王様、私の父は同盟国であり婿である王様のために、兵を貸してくれるそうです。ぜひ砦の守りを固めるのに役立たせてください』
『そうか、そうか。では、一番守りの薄い南側に配置させよう』
王女は俺が教えた通りに聞き出してくれたみたいだ。
スマホから再生された会話の内容を元に、王様はさっそく砦の南側に向けて兵を差し向けた。
敵国は砦に向かってくる軍勢を、てっきり守りを固めるために貸し出された兵力だと思い込み油断したようだ。
砦はあっさりと陥落し、敵の王は降伏して領土を明け渡してきた。
俺は王様から絶大な信頼を寄せられ、欲しいものは何でも願い通りに与えてもらえるまでになった。
こうして俺は、スマホ一つで敵国の情報を巧みに入手する最強スパイとなり、その報酬で幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。