7小節目
ライガードが赤の領主の館に着いたのは、 それから3日後のことだった。
到着した時はちょうど、 夕暮れ時でまだ日が沈みきる前だった。
館の方から剣の稽古をしている音が聞こえてきた。
「まだまだ脇が甘いぞ! もう一度かかってこい」
「やああああー!!」
カキイイイイン。
領主とヘタレ坊主が剣の稽古に励んでいる。
眺めていると、3本に1本はヘタレ坊主の攻撃が決まり始めていた。
“無敵の進撃王”と言う異名を持つだけあって、 歳はとってもとてもタフな
御老人なのだ。
ふと手を止め、大声でこちらの方を見て怒鳴られた。
「いい加減物陰から出てこい! 風の長よ。
コイスルオトメみたいにこそっと覗くのがお前の趣味か?」
観念して二人の前に姿を現した長は、ふかぶかと騎士の礼をとる。
「御大、ご無沙汰しております。お取り込み中大変申し訳ありませんが
ヘタレ坊主をしばらくお貸し願えないでしょうか?」
ふん、と鼻を鳴らし、領主様はそっけなく答えた。
「そろそろ来る頃だろうと思っていたぞ、風の長よ!
積もる話もあるじゃろうが、まずは飯にしよう。
ハール、 お前も着替えてこい」
ぺこっとお辞儀をして、青年は駆け出して行った。
後ろ姿を見送りながら、長は呟いた。
「とりあえず元気そうですね」
「あれでもまだましな方だ。ここに来た時は抜け殻状態だったからのお。
とりあえず飯だ飯飯! お前も一緒についてこい」
そう言って御大はすたすたと館の方へ戻っていた。
後をついていきながら夫人の料理の腕の良さを思い出し
期待に胸を膨らます。
突然くるっと御大が振り返り
「妻は旅行に行っておる。今日の飯は騎士団のまかない料理だ」
ドンガラガッシャン。
哀れ! 風の長の期待は、チリと成り果てたのであった。