58小節目
「おにいたん、おにいたん、しっかりして!!」
あと少しで地面に足が着く距離で落ちたから、頭を打つことは避けられた。
木の周りが落ち葉で埋めつくされていたことで、クッション代わりになったことも
幸いした。
しかし、一刻の猶予も辞さない状況であることは、ルルカ自身が身にしみて分かっていた。
去年、おんなじ体験をして、おばばにこれでもかと、こっぴどく叱られたのだ。
「あっ、そうだ!アレつかおお!」
その時、不意に思い出した。あの体験の後、おばばが持たせてくれた魔法の薬!
首にかけた小袋の中から、その魔法の粉を取り出す。
ハルフォードの口をがぱっとこじ開け、その粉をサラサラと流し込み、
水筒から水を口に含むと、直接水を送り込む。
"セイナルギンレイノチカラヨ、スベテヲジョウカセン"
「意味なんてどうでもいいから。とにかく覚えちまいな‼」
何百回と言わされ覚えさせられた難しい魔法の言の葉。
それを心の中で何回も何回も繰り返す。
そのうち体が暖かくなってきて、胸の中心でなにかが溢れ出ていった。
その時は目を閉じていたから、なにが起こっていたのかさえわからなかった。
もし、その光景をだれかが見ていたら、驚いたことだろう!
ルルカから溢れ出した銀鈴の光がハルフォードの身体に吸い込まれて消えていく。
それはまるで、精霊伝説の挿絵にある、ヒトの世界の礎となった月の精霊が夢魔に染められた大地を浄化する姿と瓜二つであることに…
ルルカが銀鈴の祝福をハルフォードに言祝いだ瞬間であった。




