5小節目
「それで本人たちは納得したのか?」
「ええ、特にルルカさんは王都で美味しいものが食べられるってすごく乗り気よ!」
風の長が頭を抱え込んで地面にしゃがんでつぶやいた。
「なんで食べ物に執着するんだろう…
やっぱり俺の育て方が間違ってたんだなあ」
一人反省のドツボにはまった兄を上から残念そうに眺めつつ
賢い妹巫女は言葉をついだ。
「兄様は何も間違ってはいませんわ!
生きることは、まず食べること。それが基本ですもの。
それに、ルルカさんの場合、祝福のお裾分けをするために
エネルギーが必要だったのですもの。
広範囲の祝福への反動で生命エネルギーが一時的に低下したから
眠ることで体力を回復したのでしょう?
月の精霊の力を継ぐものの宿命とはいえ、それは」
「もう言うな!十分理解していることだ…」
はあとため息をつき、風の長は空を向いて言い放った。
「結局何もしてやれねえ! 情けねえ親父だな〜」
「兄様…」
あの二人をそれぞれ育てると決めた時から、 覚悟はできていたはずなのに
二人の背負った宿命の重さに比べれば、自分たちの苦労などたいしたことではない。
それはいつも自覚していたことだった。
「ところで王都への付き人は誰になったんだ?」
「私の分殿の巫女のミスカと護衛騎士のナギ。
そして王宮での世話係として
マルーカ様が行ってくださることになったわ」
「では、俺は御大に報告してこよう」
そして、ふたりはそれぞれの使命を果たすため、あゆみ出していった。