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28幕:人形使いは探偵になる 上

 薄暗く照らす魔石灯が小刻みに震えている。

 数秒に一回はぷつんとは消え、また点灯を繰り返していた。


 地下深くにあるはずの別の世界。

 それなのに地上に準じた明るさを持つ死霊都市。


 僕たちの前でその異界の住人たちがまるで人間のように和気藹々と振舞っているんだ。


「流石は先生です。やればできる方だったんですね」

「ふふふ、、、よしたまえキャンデくん」

「これで上手くいけばツケもチャラになりますよ先生」

「そうだろうそうだろうキャンデくん。もっと褒めてくれたまえ」

「やっぱり先生は先生です。世界で一番の探偵さんです」

「キャンデくん、君もまたその世界で一番の探偵の美少女助手なのだよ」

「えへへっ美少女って、、、先生ったらお上手なんですから」

「ぐはっキャンデくん、ナイフは突き刺すものじゃない、、、のだが、、、、ぐはっ」


 二人の世界に入ったアンデッドペアを前に僕たちは頭を抱えたんだ。

 そして僕とグリンティアが間を置いていつものようにアイコンタクトして口を開こうとした途端、鈍い擦れた音ともに宿屋中央の枯れた材木でできた扉が大きく開かれた。


「すまねぇ先生はいるかい?」


 勢いよく現れたのは昨日に別れた骸骨の衛兵だった。素顔がないとはいえ昨日世話になった兄弟の顔を忘れるわけがない。きっと生前はダンディな渋目の顔をした紳士だったに違いないからね。


「おいおい、、、なんてこった?兄弟にまたここで会えるなんて、、、それに骨格美少女のお嬢さんと、、、、先生と骨なし娘か。っと先生、悪いが都市の至る所で謎の事件が多発しているんだ。力を貸して欲しい」


 その表情は昨日と変わらず無機質なままだった。だがその異様な雰囲気からはかなり慌てている様子が見て取れる。何があったんだろうか。


「ほぉ?ちょうどいいところだ。悩める君たちに私の力を見せてあげるとしようか。先ほどの件もそれから決断すればいいだろう」

「もぉーっ先生ったらタダ働きはいけませんよ」

「おいおい?骨なし娘は安心しな。無事解決したらあんたに先生へのお礼の分を手渡しするからよ」(骸骨衛兵)

「お願いしますよ。先生ったらここ数十年分のツケが貯まってるんですから」(キャンデ)

「数十年だって!?」(シュガール)

「流石にそれは酷いわね」(グリンティア)

「すまない、キャンデくんそれは利子込みの価格かね?」(トメール)

「えへへ先生ったら安心してください。ちゃんと無利子無担保ですよ」(キャンデ)

「そうか、、、すまない。これらが終わったらきっとそのツケを全額返すと約束しよう」(トメール)

「はい先生。私が全額立て替えてた分、よろしくお願いしますね」(キャンデ)


「「まさかのポケットマネー!?」」(シュガール、グリンティア)


 僕は天真爛漫な笑顔と透けた体を持つ美少女になぜか変な雰囲気を感じ取ったんだ。

 何だろうか。この違和感は、、、


 まるでパトと出会った時のような、、、

 まるで何処かの国の王女と出会ったときのような、、、

 まるで下町の飯屋の息子の存在を知った時のような、、、


 そして僕たちはスケルトンの衛兵さんの案内の元、事件現場へとやってきた。

 宿から10分くらいの距離、ちょうど大通りから脇道に入り少し外れた広場だ。

 枯れた木材でできたオブジェ、乾いた石のベンチ、枯れた木材の成れの果てに括り付けられた魔石灯の暗いランプ。女子供がここで遊ぶにはかなり勇気がいる場所だ。


 日中のはずとはいえ、ここは迷宮地下深くに突如、繋がった六世界の一つ《黒之世界》。お日様の光なんかあるはずがない。こんなところにいたらきっと僕なんかグリンティアの手を離したくなくなると思うんだ。周辺を一望しても顔色が悪い人たちばかりだしね。中には顔色すら伺えないものもたくさんなんだけどさ。そもそも顔色を判断するための頭がない方々もかなりの数だ。


 そんな方々の姿形すらはっきりと肉眼でわかるくらいの明るさなのは辺り一面に淡く輝く光苔や光石といったものが散乱していて周囲を見渡すには問題ないからだ。


 そのはずだった。


 僕は現実を疑ったんだ。

 はっきりと見えることで逆に現実を非現実の世界に変えるなんてありえない。

 これじゃまるでバラバラ殺人事件じゃないか、ってね。


「むごいわね、、、」(グリンティア)

「うわっ、、、」(シュガール)

「これは、、、シュールですね」(キャンデ)


 広場中に散乱したスケルトン、いやスカルたちの肢体がバラバラとなった事件現場を。

 大小様々な骨がバラバラとなり散乱した現場を。

 薄暗い光が灯ったスカルたちの眼腔が一斉にこちらを向いている現場を。


「おいおい!?そんな渋い顔をするな兄弟、、、こんな珍現象はたまに起きるんだよ。ただ今回は誰かの腹いせか、もしくは恣意的に行われたものかもしれないらしい。皆に確認を取ってみたところ少なくとも昨夜遅くに犯行が行われたみたいだ。先生も聞いてくれ」


「それでどうしたというのかね?」


「偶然にも記憶が残っているスケルトンに聞いたところ何があったのかは大まかに把握できた」


「ほう?」


 勿体ぶるかのように骸骨衛兵は腕を大きく開きながら静かに口にしたんだ。

 まるでどうしようもないと言わんばかりの顔を見せながら、、、


「なんでも昨夜未明にお腹を空かせた幼女ゾンビにご飯を奢った後、指切りをせがまれて、、、」


「それで?」


「気づけばバラバラになっていたらしい」


「「・・・・」」


「おいおい酷い顔をしてるな兄弟。それから確か口癖が、、、『ん。骨の癖に生意気』とかだったか、『ん。骨は地面に埋めるべき』だったか?どうも記憶も曖昧でよく分からん証言なんだがな。もしかしたら人魂のイタズラなんて言う奴もいる始末さ」


 僕は隣にいるグリンティアにそっと視線を向けたんだ。

 きっと彼女なら伝えなくても分かってくれる。

 だから彼女もまた僕のアイコンタクトに静かな頷きですぐに返してくれた。


 もう言わなくても分かるよね?


 そうさ。


 僕たちはこのまま他人のフリをすることにしたんだ。





シュガール&グリンティア:( ゜Д゜( ゜Д゜) !?

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