27幕:人形使いは死人と交渉する 下
「先生ちゃんと仕事してください」
ふわふわと宙を漂う美少女ゴーストの一言は圧倒的な存在感の持ち主をいとも簡単に下郎へと追いやったんだ。
なぜだろうか。
美少女ゴーストっ娘に少しも逆らうことができない彼を見て無性に親近感が湧いてしまうんだ。まるで誰かを見ているような感覚。それに渋目の紳士なオジ様に見えるアンデッドの上位種でもこんな無様な焦った顔を見せるのかってね。
まるでお尻に敷かれた誰かのような、、、、誰のことだろうね。
ハンチング帽に木製の喫煙パイプを吹かせながらトメーヤ16世は焦るようにシュガールたちからふわふと浮かぶ少女へと目を走らせた。その焦燥した顔からは彼が先ほどまでまっ赤なトメトにうつつを抜かしていた上位種には見えない。
「キャンデくん、だから仕事をしようと!?」
「もぉーっ先生?うちにどのくらいのツケが貯まってるるのか把握されてますか?」
「もちろんだとも。だからこうして仕事を」
「先生?」
「ま、待ちたまえキャンデくん!!話せば分かる!!話せば分かるはずだ!!その銀のナイフを仕舞いたまえ」
「もぉーっ分かりましたよ。先生、ちゃんと今回は仕事してくださいね」
「流石はキャンデくん、頼れるできる美少女助手だ」
「えへへっ、、、美少女だなんて。褒めてもツケは無くなりませんからね」
「ぐはっ!?キャンデくん、、、手持ちのナイフが胸を何度も抉ってるんだが、、、」
血まみれのヴァンパイアが身なりを整え、そして改めて僕たちに視線を向けた。
その眼光は痛々しくも鋭かった、、、はずだった。
でも今はその鋭さが何故だか丸みを帯びたような変な風に感じられるんだ。
何故かものすごく親近感が湧くしね。
「さてお互いに聞きたいことは山ほどあるだろう。だが先に私が君たちのことを当ててみせようか」
何だって?そんなことが出来るなんて、、、まるで、、、
僕の問いかけに静かに人差し指を掲げながら上下に頷く美少女ゴーストっこ。
彼はそのまま静かに語り始めた。
「そうだな。君たちはある問題に悩まされて此処に運悪く辿り着いた。その問題とはずばり外の世界で起きていることだろう。つまり、、、、」
「君たちはここに『とある何か』を探しに偶然迷い込んだというのが正解だろう」
「「!?」」
「驚かなくていい。生者が外の世界の者がここに辿り着くことなど本来はありえないことだ。だが君たちはこの《黒之世界》まで辿り着いた。つまり君たちの中に死人か、それに準ずる者が存在するということだ」
「どうして僕たちが生者だなんて、、、」
「魔力反応が違うのだ。生者と死者ではそもそも身から放つ魔力の性質やベクトルが違う。だから分かる者には分かるんだ。君たちが生きている人間であり、アンデッドではないということがね」
「スカルや他のアンデッドたちはわからなかったのに」
「お嬢さん間違いを正そう。《黒之世界》の住人たちと外の世界の死人たちは全く違う存在なのだよ。ここにいる者たちは生きた死人たちであり《黒之世界》で生きている住人たちだ。一方で外の世界に救う死人たちはただの魔物だよ」
「じゃあ衛兵さんたちも気づいてたんだ、、、」
「いや、彼らは基本抜けているからね。気づいていなかっただろう。だが挨拶を交わす者たちをお嬢さんは無下にするかね?」
「そっか、、、衛兵さんたちは本当にいい人たちだったのね。あとただの残念な骨フェチだった、、、」
「もぉーっそれって絶対お客さんが美少女さんだからですよ。私なんか『骨なし娘』だなんて馬鹿にされるんですから」
「確かにグリンティアは骨格美少女に違いない。僕なら鎖骨から頸にかけてのラインをもっと味わいところだね」
「こらっ、シュガールは変なことは言わないで」
「もぉーっお客さんったら熱くて汗かきそうですよ」
ゴホンゴホン。
故意な合図に僕たちは視線を彼に戻した。
そうさ、まだ話は終わっちゃいないんだ。
「さてここ最近、外の魔物たちであるアンデッドたちが激減したという報告が一月前にあった。さてその魔物たちだが外の迷宮に巣食うアンデッドたちは古くから存在している者もいる。中には何百何千と現世に止まった魔物たちもいるだろう。ではその魔物たちは一体どこに消えてしまったのか、、、、そして先日までここには大変に有名な死人の研究家が滞在されていた」
「いったいどこに消えたのかしら?それにその方って確か『博士』って呼ばれている人のことね」(グリンティア)
「今のところはわからないだろう、だがいくつかの目星はつくはずだ。ちなみにその方はすでにここにはいない、、、だが今までのことを踏まえてみても色々と心当たりはあるのではないか?違うかね?」
「「・・・・」」
「先生勿体ぶってないで教えてください」
「知りたいかねキャンデくん?」
「はい!!先生!!」
「なら任せたまえ、、、私トメール16世がこの世の真実を解きあかそう。真実とは闇の中にこそ秘めているものだ」
「だが無意味!!私の前では真実ですらひれ伏すだろう!!」
そして帽子を直しパイプを咥え直したトメールは真っ白な輪っかの煙を吐き出した。
「お客さん来ましたよ。今のが《名探偵》トメーヤ先生の決め台詞です」
わくわくしている少女を隣に携えながら紳士は少しだけ笑みを浮かべた。
そして僕たちを試すように投げかけたんだ。
「さてここから先は有料だが、、、、どうするかね?外の世界のお二人よ」
目を輝かせるゴースト娘(๑• ̀д•́ )✧:流石は先生です!!




