27幕:人形使いは死人と交渉する 中
「じゃぁーん、そしてこの方がこの都市で大変有名で、そして我が宿屋の穀潰しじゃなかった、、、人呼んで『トメーヤ16世様』です」
透き通った体で全身を傾けながら彼女は奥の席に今だに佇んでいる人物にスポットを当てたんだ。昨日、あの真っ赤に熟したトメトに噛り付いていたヴァンパイア?と疑った男だ。
まさにその人物が今回のゾンビ病の鍵となる方らしいんだけど。
枯れた木材で彩った店内の中に唯一鮮やかに映えたあの果実をナイフとフォークを使い静かに咀嚼する所作はまるで貴族のような優雅な佇まい。元貴族の僕はともかく一目見ただけで彼の高貴さと気品さが只者じゃないことを看破したんだ。
でも昨日はトメトに直接齧り付いてたよね?
「もぐもぐもぐもぐ、、、、」
「あれれ、、、トメーヤ様?」
「美味かった、、、、、」
そしてその場で静かに事切れたんだ。
本当にこの人、いやこのアンデッドで大丈夫なんだろうか?
僕は無性に遣る瀬無さを感じたんだ。
壁越しに現れた少女にパトを見られた晩、結局、その日は遅い時間ということもあり僕たちは多くの疑問を残したまま横になったんだ。もちろんパトはまた人形屋敷の中のベッドに寝かせて、今もホットルとコルドルにお世話を頼んでるんだけどね。本当は彼女にゾンビ病のこと、この町のこと、この《黒之世界》とこの都市ブラクニカのこと、何で迷宮の深部にこの世界が繋がっているのかなんて多くの疑問を聞きたかったんだけど。
「お客さんの問題を解決できる人を明日紹介しますから今日はお二人でごゆっくりお過ごしください」
この娘、見た目が可愛い上に抱えるモノが大きくて、、とにかく見た目のギャップがすごいおかげで僕は色々と惑わされるんだ。童顔の幽霊巨乳美少女だなんて、、、絶対に盛りすぎだと思う。だからそんな子がニコニコしながら無自覚に至近距離で語りかけるもんだから僕の視線は余計に、、、無防備の胸元に!?
「ちょっといいかしら、、、シュガール?後でじっくりと話しがあるんだけど?」
「グリンティアさん?」
「じゃあお客さんおやすみなさい。ちゃんと今日は彼女さんをリードして、、、むふふ」
ドス黒いオーラと突如壁に消えた喪失感を背後に感じながらその晩、僕は誓ったんだ。
今日はこのまま大人しく彼女の重責に押し潰されて過ごそうってね。
そして翌日、紹介されたのが、まさかあの人物だなんて夢にも思わないじゃないか。
突っ伏した彼の真横でふわふわと浮きながらにっこりと笑みを浮かべつつ彼女は小さな何かを取り出して、、、突き刺した!?
「もぉーっ仕方ないですね。トメーヤ先生、朝ですよ。ちゃんと仕事してくださいね」
「ぐほっ!!キャンデくん痛いじゃないか、、、私がヴァンパイアじゃなかったら即死だよ」
「えへへ、、、そうでしたっ。先生にはこっちの銀のナイフがいいんでしたね」
「ちょっとキャンデくん、待ちたまえ!!それは流石に洒落にならん。いやちょっと待ちたまえ!!」
「先生ったら早くしないとスプラッタになっちゃいますよ」
「いやちょっと待ってくれ!!キャンデくん!!仕事、仕事しますから!!あれを持ってきてくれたまえ!!」
「もぉーっ最初からそうしてくれればいいんですよ」
目の前で起きた光景に僕たちは全くついていけないんだ。
それなりの貴族だと思われる人物が宿屋の看板娘にいいようにされている様は何というかどこの世界でも変わらない光景なんだということも。ゴーストの方がヴァンパイアを良いように扱っていることも。世界が変わってもどこの世界でも日常は変わらないということなんだろうか。僕も昨日はグリンティアの凍えるような冷たい視線に刺され続けたしね。
僕が変なことを思い出していた頃、血まみれになったこの上位種がハンチング帽に喫煙パイプを咥えながら静かに口を開いた。
「やぁこんにちは。異世界の客人たち」
「先生、今は朝ですよ」
「キャンデくん、少しは格好つけさせてくれたまえ、、、仕切り直しだ。ではこう言ったらわかりやすいかな?」
瞬時に、スプラッタ状態から回復した彼の表情が変わった。
乾ききった世界の中で異質な者同士。
今なら分かる。
彼が放つ気が魔力がその体から放たれる圧倒的なまでの存在感を。
ただならぬ人物が僕たちを正面から見ていることに。
「ここに何をしにきた生者たちよ」
その一言で僕たちの秘め事はすでに露呈していたんだということを思い知らされたんだ。
無自覚なふわふわゴースト娘(*´ω`*):お客さんの隣室は誰もいませんのでお気遣いなく。




