27幕:人形使いは死人と交渉する 上
すみません、体調不良で、、、体が回復しなくて、、、
僕たちは思っていた以上に面の皮が厚い性格をしていたらしいんだ。
そりゃ生きているから仕方はないと思うんだけどね。
でも何でかって?
そんなこと決まっているじゃないか。
今も死人が住むこの大都市の中で僕たちだけが生者として堂々としているんだからね。
一応、フレッシュゾンビとかいう生者と変わらないような謎のアンデッドのフリをしているんだけど、、、でも今でもそうさ。ちなみに僕はフレッシュゾンビなんて言葉生まれて初めて聞いたんだけどね。
だから後日、一応はギルドの資料室で調べる予定なんだ、、、
ついつい現状にうだつが上がらない僕はため息をつきながら周囲を見渡した。
隣のテーブルには何らかのアンデッドがドス黒いジョッキを片手に喉を唸らせているし、奥の方では真っ赤な何かにむしゃぶりついている奴もいる。あれは、、、、有名なヴァンパイアとかいうのじゃないかと思うんだ。真っ赤に熟れたトメトのような物に噛り付いているんだけど美女の生き血の代わりななんだろうか?それから奥のマスターは首なしのアンデッドだしどこから食事するんだろうか。給仕の子はフリフのメイド服を綺麗に着飾った骨っ娘だけど、あの鎖骨辺りにむしゃぶりつきたいような感じがする。
そうさ。完全にアウェイ。僕たち以外は皆、アンデッドばかり。
でも彼らの存在には負けじと中央のテーブルに陣取ることにしたんだ。
それに女神様の運にも見放されることはなかったみたいだしね。
女神様ありがとうございます。
【うんうん、言葉だけじゃなくて後で現物かゲンナマかお供え物でも頂けると、、、】(どこぞの現実な思考をしている女神様)
だから僕たちは死人の都市にあるゴーストかレイスだかが運営する門番おすすめのこの宿を紹介してもらうと、すぐさま今後のことを話し合ったんだ。
そして僕たちは大まかなことを決断。
1つ、絶対に問題を起こさないこと。戦闘をしないこと。特に相手を成仏させないこと。
2つ、生者だとバレないこと。バレた場合は、理由を正直に話して同情を誘うこと。もしくは交渉すること。
3つ、パトを治療するための薬、薬草、特効薬などの情報、現物取得を最優先。
4つ、とにかく大人しくすること。
何だか子供に言い聞かせる内容があるんだけど、これは仕方ない。
うちのパーティには好き勝手する人物がいるわけだしね。
誰とは言わないんだけど、僕は当人達に厳守するように伝えたわけだけど、、、、守ってくれるよね?
とにかくまずは僕たちは情報を集めることにしたんだ。
手始めに僕とグリンティアは宿付帯の居酒屋で、陽キャの先輩たちは観光しながら都市各地を、ケモミも裏町の何処かで情報収集するってドヤ顔を浮かべてたんだけど、、、、皆大人しくしてるよね。
テーブルに並べられた見慣れない飲み物や料理を口に運びながら周囲の話し声に耳を向ける。
見た目が悪すぎる割に味はしっかりしたもので意外にも美味しかったんだ。ほんと見た目は最悪だけどね。
ただ僕は間違っていたんだ。
この場にいるのは皆が死人となったアンデッドばかり。奥のヴァンパイアはともかく、、、誰も話さないんだ。誰一人ね。
時間を掛けて食べ終えた僕とグリンティアは顔色を変えずにそのまま部屋に舞い戻った。
微妙な空気のせいで彼女との会話も続かない。
そして中々に心地いいベッドにうちの小さな魔王を人形屋敷のベッドから宿屋のベッドに寝かせた時だったんだ。
「ごめんくださいお客さん」
「「!?」」
一人の美少女が壁越しに声をかけてきたんだ。
透ける体を壁から覗かせてね。
「君、語りかけるならドア越しだと思うんだよね。壁越しなんて夢がないじゃないか」
「ちょっちょっとシュガール!?」
「えへへ、、、そうでしたっ。お客さんすみません、、、皆さん誰も気にしない方ばかりだったからつい忘れちゃってて。前に会話できたのなんてかれこれ10数年ぶりだし。宿の案内をしなきゃと思って、ついつい」
「そりゃそうだよね。アンデッドばっかりだから仕方ないよね」
カチューシャで彩ったセミロングの髪に軽く胸元を覗かせるような襟元が開いたブラウスと膝上のミニスカート。そして白くてダボダボのエプロンを身につけた彼女は一目見た感じだと自分たちと同じくらいの年頃みたいだ。一目見てグリンティアにも負けないくらいエロ可愛いと思ったことなんて僕は一度もないんだ。決してないんだ。
ただ彼女が半透明の透けた体を半身だけ突き出している姿勢が、状態が、位置と角度が、とにかく大問題なんだ。だって僕の視線の目の前に適度に大きな肉欲に注がれるモノが堂々としているわけで、、、、
「、、、シュガールどこ見てるの?」(不気味なオーラを佇むグリンティア)
すごい剣幕をしたグリンティアの突き刺さるような視線はご褒美だ。
そして偶然覗かせたゴースト美少女が覗かせる適度に開いた胸元もまたご褒美なんだ。もう少し角度が良ければもっと奥が覗けるような、、、
「ご、ごめん、、、だって目の前に可愛い子が胸元覗かせてたら、、、ビックリするじゃないかっ」
「もぉーっお客さんったら正直すぎますよ。死んでもエッチなのは男性の性ですよね。こんな可愛い彼女さんがいるのに」
「・・・・っ!?そんなこと、、、ないわ」
「またまたぁっリビングデッドにも負けない可愛い女の子が自慢ですかって」
「もぉーっあなただって可愛いのに」
「えへへ、、、褒めてもらって嬉しいです。でも私ゴーストだから体が残っている死人が羨ましいんですよね」
自虐ネタを披露しつつも嫌そうには見えない彼女の愛嬌のある顔からは心に秘めた表情までは読み取ることはできないんだ。彼女がなぜゴーストとしてここに存在しているかなんて僕には分からないし知ろうとも思わないしね。
僕がそんなことを考えていると美少女ゴーストがふと口にした。
「これは、、、ゾンビ病ですね」
彼女の視線の先にはベッドに佇む一人の女の子に向けられていたんだ。
やばい。どうしよう、、、バレちゃったかも?
そして僕の心の中にうっすらとした虚無感が花開いたんだ。
素直に喜ぶゴースト娘(*´ω`*):えへへ、、、
交易都市『ターメイヤ』:サテルボナの入口にある交易都市。
砂漠の国:かつての砂漠の大国。今では迷宮を押し付けられた国として有名
砂漠の大牢獄:世界五大迷宮の一つであり凶悪犯への刑の執行場。死者の牢獄。
黒之世界:6つある世界の一つ。
死霊都市ブラクニカ:黒之世界の入口にある都市。死人が住む都市。




