26幕:人形使いは死人の町を訪れる 下
僕たちは目の前に広がる光景を疑ったんだ。
だって交易都市『メータイヤ』なんて及ばないほどの巨大な都市が迷宮地下深くに根を這っているなんて信じられないじゃないか。
岩や石、砂を利用してできたレンガや石造りの建屋群。それも見渡す限り視界中全てに広がっているんだ。大きな扉の前から覗き見ただけでも相当な広さがあるのは間違いない。
全てを視界に収めるには少々、明るさも立ち位置も悪い。
それでも現実は衝撃的だったんだ。
僕たちがあまりの非現実的な光景に目を疑っていると、どこからともなく衛兵が声を掛けてきた。もちろん彼は生身の人間じゃない。
「おい!?テメェら入るならさっさと入りやがれ!!ん?見かけねぇ顔だな、、、あーお前ら新入りか!?その肉付きだと真新しいな、、、爺さんの実験体フレッシュゾンビって奴か?それともグールか?ヴァンパイアとかじゃなさそうだし、しかしえげつねぇなぁそのまま迷宮に飲み込まれちまいやがったな。それとそっちのぬいぐるみ供は、、、ポルターガイスト?人魂?んにしても全く最近の住民は無駄に色気付いてなっちゃいねぇ」
「ははは、、、勘弁。アンデッドになって間もないんだ。少しくらいは許してほしい」
「そうか、、、おい、、、待てよ。てめぇーらまさか、、、」
ギクリとしたんだ。
もしこの場で自分たちが生者なんて言わなくても分かる秘匿情報を露呈したら、、、そう思うだけで僕は心臓が飛び出るかと思ったんだけど。
「そっちのネェちゃんたちは中々いい骨付きしてるな。中々の骨格美人にちげぇねぇ。こっちはフレッシュゾンビなんかより将来有望なスカル美少女だろ?いわゆる骨格美っつーのかよ。やっぱり鎖骨のなめらかしさ、大腿部の丸みや太さなんんか唆られるねぇ、、、首元の丸みもたまらねぇしその指の滑らかさはきっと素晴らしいに違いねぇ。唆られるぜぇ俺もあと400年若けりゃなお嬢さんに婚約を申し込んでただろうさ」
「ほぉう?君中々目が鋭いじゃないか、、、彼女の隠れた魅力に気づくなんて中々のスケルトンに違いない。きっと君の目は死ぬ前から中々のものを映し出していたようだ」
「おいおい?そりゃ門番勤めて500年だからな。ここで俺の美意識に勝るものを持つ死人なんていねぇ。ましてやスケルトンの中じゃ一番の古株さ。それにお前さんそっちのとっぽい姉ちゃんたちも中々のモノを隠していらっしゃるようだからな。俺の目は誤魔化されねぇ」
「やはり君は中々にできる御仁だったらしい。先輩たちの隠し持つ双丘の柔らかさは」
「はぁ、、、この二人は何を言ってるんだか、、、ごめんなさいねえっと、、、」
「何かな?骨格美少女のお嬢さん?」
「骨格美少女って、、、衛兵さん爺様って?私あまり生前の記憶に乏しくて、、、気づいたらほぼ生きたままのような死人だったんですからビックリでしょう?」
「あぁそれは仕方ない骨格美少女さん、、、アンデッドに至るには数ある方法あれど、生前の記憶を持ったままの奴が多少いても少なくはないさ。そこで話の鍵は爺さんだ。爺さんは大昔に魔術研究で大成を成し遂げた方でな俺たちがここで死人として生者のように生活できているのもその爺さん、いや博士のおかげなんだ」
そのままグリンティアは根掘り葉掘り衛兵から情報を聞き出していく。
死人のふりをしようが、こういった情報収集に掛けては彼女の右に出る者はいないんだ。彼女の巧みな口先と話術、持ち前の明るさと誠実な性格、そして他者との距離の垣根を飛び越えても許される器量と愛嬌の良さ。
「もぉーっそれじゃあ皆さんには秘密にしといてくださいね。死人になったばっかりでどうも上手くいかないんですから」
「安心しな骨格美のお嬢さん、、、、それじゃあそっちも気をつけて滞在しなよ兄弟!!」
「あぁ!!ありがとう兄弟!!」
分かり合うのに国境はない。
生者だろうと死者だろうと僕たちの前には関係ないんだ。
死者と生者。
本来は相反する二人なのにも関わらず僕たちは理解し合えるんだ。
彼女のグリンティアの持つ鎖骨や大腿骨、指の骨が特有にすばらしいってことでね。
向けられた骨だけの硬い拳に自分の硬い拳を打つけ返したんだ。
心が通じ合う者たちへ言葉なんていらないんだ。
ガシッ。ボキッ!!
「おいおい?まさか、、、俺の手に骨にヒビが入ったんじゃねぇか?」
「骨にヒビが入るほどの感動に違いない、、、少し前に手に入れたこいつがある。これで治せばいいさ兄弟」
あまりの感動に若干いつもとテンションが違う僕は懐から接着剤のチューブを取り出したんだ。
これはパトがよく扱っている接着剤なんだけどね。
「ん。くっ付ければ問題ない」
ヒビ?彼女なら実際にそんなこと言うだろうし、そんなもの半強制的に引っ付ければ解決なんだ。だって軽く打つけただけでヒビが入るなんて環境劣化もいいところだと思うんだ。
「そうだな。改めて、、、《黒之世界》の一つ、、、、死霊都市ブラクニカへようこそ」
複雑なグリンティア(´・ω・`):骨格美少女、、、
主張するシュガール(๑• ̀д•́ )✧:彼女の鎖骨は、、、、




