26幕:人形使いは死人の町を訪れる 上
外界は今頃、星たちが眠りにつき、光や火の精霊たちが活躍している頃だろうか。
僕たちの体内時計だとすでに針の歩みも動きも鈍くなって感覚がわからないんだ。
迷宮探索以降、緊張感が絶え間なく僕たちを襲っていたしね。
ただし彼女以外はね。
三度、静寂が訪れた迷宮の中で一際彼女だけが激しく滾っていたんだ。
荒々しく猛々しく燃え盛る炎のように。
ん?誰かって?
そんなこと言わなくても分かるんじゃないだろうか?
銀色の獲物をびゅんびゅんと唸らせながら舌なめずりをする僕の想い人のことさ。
その頬はうっすらと赤く染まり、はぁはぁと息遣いもまだ荒い。
その度に唸る鞭の音速を超えた音が彼女の心を映し出しているかのように踊り出すんだ。
「あぁ~シュガール、、、もっと踊りたい、もっともっと踊らせたい、、、、あぁ~我慢できないわぁ♪」
興奮尽きない彼女の眼差しも言葉遣いにも僕の心は鷲掴みになり非常に唆られるんだ。
でもここは迷宮真っ只中の最前線。
いつ死人たちに襲われるかは分からない。
だから僕は彼女を正気に戻そうとして、、、
「グリンティアゆっくりと息を吸うんだ。そして少しずつ息を」
「ビシッ!!!」
「「「「!?」」」」
僕が何かを言う度に、いや僕たちが何かする度に彼女の鞭が激しく唸るんだ。
結果、僕の背中や全身はあっという間に鞭跡でいっぱいだ。
彼女の愛は何て荒く激しいんだろうか。
女神様、ありがとうございます。
【いえいえ、どういたしまして】(顔を赤らめるどこぞの女神様)
僕たちのパーティの中で単体最大火力を持つのは、どんな種類の大呪文を操るコルドルでもなく、人形化を駆使した一撃を持つ僕でも、凄まじい剣戟を放つホットルでもなく、実は一見細腕で非力な美少女だった。そんな彼女と鞭術の相性はどうやら最高最悪の組み合わせだったようで、、、、彼女の新しい扉を開いてしまったらしいんだ。
特にあの技は、激しい舞と鞭の動き、それにシビアな魔力操作と相まって彼女の意識もさらなる高みに登るそうだ、、、、結果、彼女は一時的に非常に飢えた女王様になるんだ。あとうちの本物の王女様よりも王族らしいんだけどね。
つまり高揚し目覚めた女王様はしばらく消えることはなく大活躍するわけなんだ。
だけど、、、
ちなみに扉を開けるキッカケとなった婆やさん、爺やさんもグリンティアのその鞭裁き、魔力操作には黙って真顔で唸るほどだったんだよね。
女王様?そんなこと目を瞑ってなかったことにされたんだ。
ちなみにこんな彼女を見たパトは引き顔で押し黙って、、、以後、現実逃避するようになったんだ。言葉を発そうとする度に、鞭を地面に打ち付けられては震えるパトを見下ろし嬉しそうに見定める素顔を見て、、、本能的に逆らってはいけないことを理解したらしい。
獲物を狩る前の舌なめずりしながら見下ろす姿はまさに至高なる狩人の女王。
どうやらパトが逆らえなくなる第三のお目付役の誕生の瞬間だったんだ。
「ん。召つ、」
「ビシッ!!!」
「ん。ごは、、、」
「バシッ!!!」
「ん、、、」
「ドシッ!!!」
「、、、、、」
震える子鹿のようになったパトを獲物のように見定める女王様と唸る白銀の鞭。
その豹変っぷりに真顔で恐怖する先輩たちは全く微塵にも近寄ろうとはしないしね。
僕もこの姿を見たときは心の底から何かが湧き立つ気分に苛まれたんだけどね。
この感情をなんて表現したらいいのか分からない。
だけど僕は心の底から彼女を受け入れたいと思うんだ。
バックれないのかって?
冗談じゃない。
あぁ本当になんて素晴らしい才能を見せるんだろうか。
あぁ流石は僕の愛しいグリンティア。
あぁ僕だけの女神様、その愛を受け止めたい。
王族にも負けない女王様っぷりの女神様は最高なんだ。
【ぷんっぷんっ!!シュガールくんは本物を忘れてると思います!!】(激オコな女神様)
「ん?何かが聞こえたような、、、それにしても君、流石にそれは太すぎるよね?」
視界の隅にいたチビのスカルわんこが奴の足の一部を引きずりながら咥えてきたんだけど、、、このチビ意外に力持ちなんだ。彼が咥えているのは、たぶんさっきグリンティアが倒した親分スカルの砂に隠れていた足の裏の一部だと思われるんだけどね。
そこで僕は気づいた。
こいつどこに持って行こうとしてるんだってね。
だから覚醒した彼女に唇を重ね、女王様化を強制的に解いてから彼の跡を追ったんだ。
そして十分後、僕たちは驚愕したんだ。
大迷宮の底でとんでもない規模の死者の町が広がっていたことにね。
目覚めた女王様( *´д`*):なんて気持ちいいのかしら、、、
目撃した仲間たち(;゜Д゜(;゜Д゜(;゜Д゜):アワアワアワ、、、
すでに目覚めていた人物(*'д`* ):ハァハァ、、、女王様~




