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24幕:人形使いは町に立てこもる

 


「熱は、容体はどうだい?」


 僕の問いに新たしく仲間入りした小さなケモミミの美少女がそっと口を開いた。


「シューくん、容体は今はまだ安定してますよぉ。でもこれ以上続けば危ないかもですぅ」

「・・・・」


 その眼差しはとても弱々しく視線をはっきりと合わせようとはしない。つまり神官である彼女にも僕にも残された手段が乏しいことを物語っているんだ。


 僕たちは砂漠の国(サテルボナ)の入口にある交易都市『メータイヤ』を訪れていたんだ。

 あの逃げ出した場所から一番近くて大きな都市だ。

 実際、馬車を飛ばして數十分でたどり着くことができたしね。


 ただし現実は違うんだ。


 僕たちはこの町に誘導されたんだ。

 見渡す限りのゴーレムたちの群れによってね。


 《人形使い》という未知の能力を持った今の僕なら判る。

 あのゴーレムたちの大部分は実に統率された動きだった。

 何者かの意図が見え隠れていたし、きっと僕だけに分かるようにワザと露呈させたんじゃ?と僕は確信しているんだけど、現状では全く判断が付かない。


 何せ情報が全く足りないしね。


 何者かに追い立てられるようにこの町に避難した僕たちは治療院を見つけて駆け込んだんだ。

 その町のお医者さまの判断の結果、パトは砂漠の国特有の風土病に罹ったことが判明した。

 ただタイミングが悪いことに少し前まで異常に風土病が大流行し医薬品がほとんど尽きかけていたんだそうだ。その上、ちょうどこの町はゴーレムたちの手により周囲を等間隔で封鎖されており内外に身動きが取れなくなった。


 つまり薬品が手に入らない今の状況はパトにとって本当に死活問題なんだ。


 それに困るのは当然、僕たちだけじゃない。この町は砂漠の国の玄関として南部同盟から王国まで続く非常に大切な交易ルートの要所だ。ここがゴーレムたちに抑えられている現状は、非常にまずい事態なんだ。それにこの町への内外への移動がさらに制限されている今、人々の生死が現実として押し迫っている。このままでは水や食料、医薬品などなど生活必需品が尽きることは時間の問題なんだけど。


 現在、町では非常事態宣言が出されており、非常に慌ただしい。

 行政府から全ての住民へと勧告が出されており僕たちも勝手な行動は慎んでいる状況なんだ。だから僕たちは、何度か外へ脱出する方法を探ってはいるんだけど、その都度、ゴーレムたちに邪魔をされ身動きが取れなかったんだ。もちろん、許可を強引に取ってね。


 それにもう一つ大きな問題があるんだ。


 僕たちの懐事情は決して良いわけじゃない。

 カジノで稼いだ金も結局は他の遊戯に水のように消えちゃったしね。それに元々余裕があるわけでもなかったんだ。僕とグリンティアの二人ならどうにか暮らしている金額でも先輩方や家の穀潰し、それから先輩たち、それに馬車用のトカゲ型の魔物リブルたちの分まで含めると、、、、僕は首を括る事態も考えられるんだけど。何?本当は稼いだお金は隠してるんだろうって?


 それは僕の口からは語れないんだ。


 だから僕が言いたいのはお金が必要なんだ。そうさ金欠なんだ。

 それと色々と物入りなわけさ。誰かが最後に大博打をやったおかげで大損を扱いたからね。

 誰とは言わないんだけど、誰とはね。きっと女神様もそんなことはしないと思うんだ。


「ん。最後の大勝負、、、、ぐはっ」


【えっ!?最後の大勝負こそ賭博の醍醐味ですよ】(とある女神)


 ただお金があっても無くても、そもそも食料から日用品に到るまで物資不足さは深刻なのは間違いないんだ。そのうちの最重要項目が医薬品なんだけど。


 このままでいいんじゃないかと思っていたんだ。

 パトが彼女が熱を出したまま寝かせたまま逃げ出したらってね。

 彼女の安否については神のみぞしるということでさ。


「ん。奴隷は顎で使われるべき!!」


「ん。奴隷の癖に生意気っ!!」


 可愛らしい幼女の顔から発する言葉は天から降り注ぐ狂気の一撃ばかり。

 僕はその鋭利な口撃を巧みに躱しながら生き抜いてきた。


 あの時、もしもあの時、猫を被った彼女に僕が目をつけられなかったら僕はきっと、、、、


 素晴らしい人生を送っていたと思うんだ。

 僕はきっとSクラスの冒険者になって良い女に囲まれて美味しいご馳走とお酒を飲んで、、、


 ただその場合、僕はグリンティアに出会えていただろうか?


 先輩たちのようなチャラけた生き方を知ることができただろうか?


 幼女に背中を踏まれる楽しみを知ることができただろうか?


 いけない。

 僕は思った以上に混乱しているらしいんだ。冷静に考えたらパトのことを可愛がっている王国最恐たる男とその女房さんが血眼になって地平線まで追いかけてくるかもしれないんだ。当然、僕はお尋ね者になってるはずだよね。


 ん。冗談じゃない。


 その日、パトが静かに寝静まった頃、僕たちは今後について話し合った。

 ぐちゃぐちゃな考えをまとめるには時間が必要だったんだ。

 結局、夜遅くになっちゃったんだけどね。


 僕にグリンティア、それから先輩たちとホットルやコルドル。あと引き篭もりは人形屋敷から外へ耳を傾けてるだろう。ちなみに他の仲間たちは情報を集めに町中に散らばっている。

 それとアムリア神聖国の女神様を守護する役を持つ《六審官》の一人、ケモミミの美少女、ケモミだ。神より神託を受けた彼女が僕たちの旅に同行することになったのはつい先日だけど。

 そんな幼くも見目麗しい彼女から語られた真実は残酷だった。


「シューくんこのままなら1週間以内に殿下はダメになりますぅ」

「元々ダメだと思うんだけど?」

「「「シュガールちゃんちょーどいひーっ!!!」」」

「はぁ、、、シュガールの言うことに納得だけど、今は別問題。ケモミちゃん、それならどうしたらいいの?ちびっ子はいけ好かないけど、でもこんなことで死ぬなんて馬鹿らしいわ。いくらダメだっていっても、それとこれとは話が違うわ。彼女にも生きる権利がある」

「グリンティア、、、、そうだよね。ケモミ、僕はパトを助けたいんだ。僕たちに取れる方法があるんだよね?いや君は知っているんだよね?」


 僕の質問に彼女は小さく上下に頷いたんだ。

 そして静かに切り返した。


「残された手はどれも非現実的な方法でギャンブル要素が高いものばかりですぅ。ゴーレムたちを蹴散らして突破する?町中の人たちに頭を下げてあるか分からないものを手に入れる?それともお金の重みで買い叩く?どれもその場しのぎなんですぅ。不測の事態が起きた瞬間終わりなんですよぉ。だから今この町の置かれた状況だと一時的に良くなっても遅かれ早かれ行き着く先が一緒なんですよねぇ。パトちゃんも自分たちの他の問題も、確実なやり方で解決できる方法が一つだけありますよぉ」


「それは?」


 ニヤリと僅かに一瞬だけ見えたような気がしたんだ。


「砂漠の大牢獄。つまりこの国が誇るダンジョンを利用するんですよぉ」


 世界五大迷宮の一つ《砂漠の大牢獄》

 またの名を《死者の牢獄》


 彼女が浮かべる険相を前にして僕は拳を強く握りしめたんだ。


賭博場でのホットル、コルドル(๑• ̀д•́ (๑• ̀д•́ )✧キリッ!!:我らの戦績は大勝ぞ!!



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