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23幕:人形使いは再び旅に出る 上

「ん。木材のくせに生意気」


 ご機嫌斜めの小さな魔王様は心底お怒りなんだ。


 目の前に立ちはだかる枯れ木のような何かの群れ。

 数にして数十身体ほどが僕たちの前に、いやリプルの馬車の正面に立ちはだかっていた。

 まるで僕たちに訪れるはずの未来を通せんぼするかのようにね。


 堕ちた樹木の精霊と言われるトレントは初心者向けに有名な魔物なんだ。

 初心者時代の僕でも簡単に倒せるくらいなほどだ。

 でも舐めちゃいけない。

 あいつらはとても数が多い上に多種多様で種族が多い。

 幻術や魔術を使う奴だっているし、種族によっては寄生したり吸血したり吸収しようとしたりしてくる奴だっている。まさに植物種を代表する魔物なんだ。


「ん。焚き火の燃料のくせに生意気」


 ただし目の前にいるのは只の普通のトレント。

 それも荒地ばかりのこの土地で栄養分不足なのか強度不足そうな奴ばかり。

 さしずめデザートトレントといったところだろうか。

 どう見ても数が多いだけの雑魚の集まりだ。

 倒しても焚き火くらいにしか使い道はなさそうだしね。


 仕方ない。できるなら無視したいところなんだけど。

 でも彼らが立ちはだかるなら僕が相手に、、、


「ん。指切りげんまん無視したら材木の幹ぶち折~れるっ指きった!!」

「「「「・・・・」」」」


 久しぶりに聞いたウチの女王様の長いセリフ。

 いつも通りの平坦な声だけど心底うざそうな感じだ。

 最近は、、、「ん、飯」「ん。おやつ」「ん。だるい」「ん。椅子」

 なんて短いセリフばかりだったんだけどね。


 ほんとどこのオヤジだよ!!


 僕が想い女の前で格好つけようと画策していたところ、、、すぐに目の前で異変が生じた。

 突如として雑魚(トレント)たちは身体中央からバキバキに避けてしまったんだ。

 魔術というよりこれはもはや呪いとか呪禁、呪言じゃないんだろうか。

 久々に見る彼女の得体の知れない何か。


 そんな一動を見たグリンティアの目が何か残念そうな感じを漂わせている。


「うわぁ一方的に材木扱いってかわいそ、、、お子様やり過ぎじゃない?」

「ん。立ちふさがる者は全て、、、」

「君はセリフくらい最後まで言おうよ!!」

「ん。だる、、、」


 僕とグリンティアの鋭いツッコミにすら反応が好ましくない。

 何故かって?

 僕たちは今、神聖国から遥かに東。

 砂漠のサテルボナの入口を訪れているんだ。


 まだ入口に入ったばかりなのにとにかく暑い。

 流石に荒地が目立ってきたとはいえ周囲にはまだまだ緑緑しそうな植物は多い。

 とはいえ日差しの強さは、王国や神聖国の比じゃなかったんだ。

 地面から照り返す熱線、空から降り注ぐ熱線、そしてうちの女王様からジト目で直視される視線で僕たちは大火傷しそうだ。

 引きこもりは《人形屋敷(ドールハウス)》の部屋から一歩たりとも出てこないし、先輩たちは馬車の荷台の後ろから顔を見せようともしない。唯一顔を出したのがウチの王女さまだけなんだけどご覧の有様さ。前髪が額にべっそりと引っ付いて顔は赤くなり、、、まるで病人みたいだ。


 でも僕とグリンティアは前の席で仲良くラプルを操っているんだけどね。


 それでも僕たちは負けじと突き進んだ。

 目指すは砂漠のサテルボナの地下ダンジョン。

 ここに目的のブツがあるだろうということがわかっているからさ。


 かつて国々を滅ぼし世界を滅亡の危機にまで貶めたという《災厄》と呼ばれる魔物。

 そして《魔喰い》とも呼ばれた何かはその体を分断され世界各地に封印されたという。


 言い伝えだと神聖国、そして大陸西方の連邦国が特に有名だったんだけど、他の候補として上がったのが大陸北方の大国である帝国、同じく西方の大国である皇国、そして隣国の魔境である砂漠の国にあると噂されていたんだ。だから僕たちは一番近い候補であるサテルボナを訪れたわけさ。もちろん他の世界にも存在するらしんだけど、それは後回し。


 ちなみに女神様の有り難い格言だと、、、昔のことは忘れました、てへっ。

 流石にギャル語やチャラ語は飽きられたのか、また違う話し方だったんだけどね。

 雰囲気がだいぶ若い感じがする女神様なんだけど齢数千年あったりするんだろうか。


【ありませんよ!!】(ぷんぷんっ!!)


 ???


 でも僕はこう思うんだ。

 美少女の女神様はなんて最高なんだ。

 ロリっぽい女神様は本当に素晴らしいんだってね。


【そんなに褒めなくても、、、てへへっ】


 え?姿を見てないくせにだって?


 僕の心にはそう見えたんだ。

 もちろん僕の隣にも最高の女神様がいるんだけどね。

 さっきから彼女のジト目が妙に突き刺さっているからか、とても心地いいんだ。


【シュガールが別の女のこと考えてる気がする、、、、】(ジト目グリンティア)


【ほんとですよ!!ぷんっぷんっ!!】(ぷんすかっ!!)


 さて僕がその神秘さに囚われの身になっている時だった。

 荷台の後方から声が張り上がった。


「シューくん、後ろからゴーレムたちが追ってきてますよぉ」


 新たな仲間の張り詰めた声にこのパーティのリーダーたる僕が支持を出す番に違いない。

 彼女の健気なケモミミが逆立ちピョコピョコ動きながらその緊迫さを伝えてくれていた。

 もふもふの尻尾もまたピーンと一直線に空を向いている。


 さてといつもは迷惑ばかり掛けられてたけど、こんな時くらい恩を返して欲しい頃なんだ。だから今すぐに彼女を紹介する暇もない。


 だから僕はすぐに大声で指示出ししたんだ。


「パト!!」


「ん。もう無理、、、、」


「えっ?」


 どさりと音がした。

 僕が振り向くと同時に何か鈍い音がしたんだ。


 それはうちの小さな魔王様が荷台の端から地面に崩れ落ちた音だったんだ。




女神様(๑• ̀д•́ )✧キリッ!!:じゅ、十代の乙女です!!


リプル:トカゲ型の魔物。人に懐きやすい。馬車の引き手として人と共存。

トレント:堕ちた木の精霊と言われる魔物。種類が豊富。



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