20幕:人形使いはバトルロイヤルに参加する 中
大人の倍以上はあろうかという巨躯にも関わらずその俊敏さが落ちることはない。
その圧倒的なほどの機動力は他のホーンワーウルフたちよりも群を抜いている。
額に生えた黒光りのツノ、口元から見える白く鋭い牙、剛腕な四肢の先に生えた太い爪はどれもこれもが傷だらけであり、奴がこの群のボス、最強たる証なんだろう。その上、奴は獣類の弱点たる尾ですら武器として扱うんだ。各々の武器を巧みに操り、その中に生じる一瞬の隙すらも自慢の尾を放つことにより隙を最小限度に抑えている。爪や牙なんかは見らなくても分かるが、あの打ち付けられる尾の一撃は冒険者が扱うどんな鞭よりも痛烈で強烈だ。それに思っていた以上にリーチもある。
まるで竜種なんかを相手にしてるかの気分だ。
もちろん僕はドラゴンなんか相手にしたことはない。
でも御伽話なんかじゃ決まって強力な尻尾の一撃をってフレーズは付き物だし、だからそんなことが頭に過ったんだ。
おかげで僕は奴の自慢の隠し手も難なく躱すことができた。
残像が生じるほどの高速移動からの爪による斬撃と並みの騎士には放つことができないだろう鋭いツノの刺突から虚を衝く鋼の尾の一撃。また同じ攻撃かと思えば、跳躍から前脚の殴打、そして着地し吹き飛ばした砂を纏いながらの死角からの全力の体当たり。
僕は奴の緩急をつけた攻撃を巧みに避けながらも全ての攻撃を間一髪で捌いていた。
奴が纏う魔力がその動きを強化しているし、掠っただけでも致命傷を貰いかねないほどの体格差だ。そんな肢体から繰り出される武器も時折混ぜてくるツノからの強力な呪文も対峙したら足が震えるほどのものだろう。
だけど当たらなければ意味がない。
強力な雷の呪文も予備動作さへ分かれば対処は簡単だ。
時間差なしの一撃でも今の僕には届かない。
飛来した雷の塊を僕はとっさに生み出した砂人形を盾にすることで防いだ。その際に後ろに大きく飛びながらその余波を喰らわないようにする。
強力な一撃だからこそ土人形が粉砕されることも生じる衝撃も計算済みだ。ここの砂は導電性は高くない。だから雷の威力を逃しきれず爆ぜてしまうが、距離を取れば問題ないわけだ。
そして遠距離に関しては奴には雷の呪文が扱えるが魔術も魔法も扱えない僕には攻撃手段がない。だけどその奴の自慢のツノから繰り出される呪文は僕には届かない。従って距離を置いてしまえば一旦仕切り直しになる。
互いに相手を制するには接近するしかなく、どちらも相手を一撃で屠ることができる術を持つ。
息を整えた僕が奴に向け剣を構えるとピタリと奴の動きが止まったんだ。
まるでこちらを観察するかのように周囲を眺めつつ一定の距離を取る。
奴は頭がいい。
こちらを値踏みしながら倒す算段を構築しているんだろう。
だけどそれではすでに遅いんだ。
僕の方はとっくに奴を倒す手が浮かんでいる。
後は奴を出し抜くだけだ。
「久々に手に汗握る激闘。さぁクライマックスだ!!この死闘を制するのは一体どちらか!?」
場内に沸き起こる歓声に耳を傾けながら僕は観客席を見た。
そして中央にあるVIP席を観察する。
あの位置から正面に掲げられた色付けされた赤と白のコインの数でどちらにレートが傾いているかを一目で判断できるんだ。さらに近くの個室ではあの獣耳をした巫女と神になる宣言をしたうちの魔王が舞台を見届けている。
【ん。手筈通り】
【はぁ仕方ない。わかったよ】
うちの小さな女神様と視線が交差した。
そして神の一言が下されたんだ。
【ん。このカジノは私のもの】
【いや、、、、この裏カジノは国営だから無理だよね!?】
【ん。問題ない】
【いや問題だらけでしょ!!ちっしまった!?】
一瞬の隙を感じ取った奴が肉薄した。
物凄い速さで近づきつつ直前で制動する。
その際に何かをしたのかもしれない。前腕か尾による振り払いか、なぎ払いか?
その結果、引き起こされた暴風と巻き上げられた砂だけが僕に殺到したんだ。
僕は視界を保てず奴の動きを把握できなかった。
そしてそんな状況で奴は突如、姿を消したんだ。
「くそっ!!目潰しかっ、、、あいつどこに!?」
あの巨体で姿を消すなんてありえない。
だけどあの状況から取れる選択肢なんて上か下しかありえない。
だから僕は後ろにバックステップしつつ上から下へと視線を泳がせた。
上には魔石灯以外に遮るものはない。
つまりあいつはあの場に深くしゃがみ込んでこちらを狙っているはずなんだ。
!?
その時、チリッと何かが爆ぜるような音がした。
それは奴がホーンワーウルフが呪文を唱える時の所作、前段階だ。
ただし、、、それは視線の下からではなく自身の真下から。
しまった!?
僕は炸裂した爆風に足元から勢いよく空に叩き上げられ宙を彷徨ったんだ。
ホットル、コルドル(๑• ̀д•́ (๑• ̀д•́ )✧:えぇいコインが貯まりすぎるわ!!




