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18幕:人形使いは逃亡する 下

 

 僕たちは人目を避け事前に用意していたラプルの小型馬車に乗り換え王都を後にした。

 この地に来て数ヶ月。

 何処に何があるかは把握していたし逃亡計画を実行するだけの時間は十分だった。

 馬車、食料、路銀などは当たり前。

 逃走ルートの確保とダミーの情報を事前に構築、その後の潜伏先と。

 伊達にこの数ヶ月、王国のエリートたちから叩き込まれて来たわけじゃない。


 星の明かりだけを頼りに漆黒の道を走り続ける。

 道中、魔物も危険な盗賊なども見当たらずラプルたちは駆け抜けた。


 もちろん動いてきたのは僕だけじゃない。

 下町に忍ばせていた大量の人形たちも当然僕の布石として暗躍していたんだ。


 彼らの全員とまでは言わないけど中心の相棒たちは下町の外、人目につかないところで落ち合う予定である。残してきた人形たちはそのままお店で今後も働くことが決まっているんだ。

 彼らにはお店で稼いでもらいながら情報網を構築してもらう予定だからね。

 何の情報網なんて言わなくても理解できるとは思うけど、、、、もちろんパトや王国の手から逃れるためだ。


 パトだけじゃない。

 彼女の姉であるあの王代理も危険人物なんだ。

 あの美麗麗しいお姿とあの冷たく見下す瞳はまるで人を人として見ていなかった。

 そうつまり彼女はパトと同じ側の人間なんだ。

 今後、かなりの確率で彼女にも巻き込まれるかもしれない気がする。

 そうなったら、、、僕は犬として女王代理の足を舐め見上げて揉みながら駄犬として忠誠を誓ってしまうだろう。召使いや奴隷として彼女の冷酷な視線に常に晒され続けるんだ。汚職まみれの貴族として彼女の奴隷として僕は一生こき使われ続けるんだ。貴族年金塗れにされて僕は汚れた金貨のお風呂で毎日、女王陛下の足をどのように揉み続けるかだけを考える日々に落ちてしまうんだ。

 もしくはあの綺麗な肢体で背中をこれでもかと打ち付けられるかもしれない。


 ん?意外にそれもありかもしれない、、、


 いやとにかく僕は手に入れた自由を満喫してグリンティアと幸せな時間を過ごす。



 お互いにフードを被り誰にも分からないように顔を隠しながら僕たちは馬車を進めた。

 幌付きの荷台は所狭しとダミー用の積荷が置いてある。

 狭いながらも雨風も凌げるし商人や旅人を装うには中々都合がいい。


 明け方までに数々の関所を抜け『東の公爵』領地へと入った。

 それからさらに数日をかけて僕たちはついに最後の国境沿いの関所へと訪れた。


 そこから進路を北に向ければ『神聖国』を中心とした『同盟国家群』。

 さらに北へと走らせば『帝国』へと続つくこととなる。途中ルートによれば『公国』を通り抜けるかもしれない。あそこは大国同士に挟まれた緩衝地帯らしいから今はまだ安全なルートの一つだおるか。


 一方でそのまま東に突き進めれば、ほかの同盟国家の一部の国々からさらに北大陸東の大国、『皇国』へと抜けることになる。その代わりルートによっては砂漠越え、海越え、山脈越えなどなど大変なルートだと記憶している。

 この数ヶ月の特訓で地理や世界情勢もばっちりさ。


 冒険者の身分証明証である『ペンダント』をグリンティアとともに衛兵に掲げた時だった。

 衛兵たちはまるで何事もないかのように僕たちを通らせようとする。


 おかしい、、、何かがおかしい。

 この時、僕は何か嫌な予感がしたんだ。

 何だろうかこの胸騒ぎは、、、。


 冒険者といえど国境に入るには簡易な取り調べがあったりするのが普通だ。

 僕たちもパトを送り届けるために入国しようとした時は少しだけ時間がかかった。

 これはまるで自分たちが通ることが事前に知らされているような、、、


 僕はグリンティアに視線を送った。

 彼女も同じようですでに怪訝な表情を浮かべながら身構えている。

 その所作は第三者には誰にも分からないほどではあるが。


 だけどそのまま何事もなく僕たちは関所を通過できたんだ。

 なのに僕の心は晴れないままだ。

 落ち着け落ち着くんだ僕。

 隣には大切な彼女がいるんだ。


 御者席の隣に座る彼女の洗練された手に偶然触れるように装いながら僕は今後のことを口にした。


「グリンティア、、、このまま予定通り神聖国ルートにしよう」

「そうね、、、これで私たちも自由ね」

「これからは色々なことが体験できるさ」

「そうよね。まずは、、、冒険者ランク上げながら色々なものを見てみたい」

「僕たちならできるさ。山のように大きなドラゴンだって空に浮かぶ島々だって大海原を駆け巡る船だって体験できるんだ。それに話題の空を渡る船だってあるんだから空だって旅できる。それに世界には想像もつかない話や伝説があるんだって、もしかしたらこんな大きな宝石だって見つかるかもさ」


 僕は両手を掲げてできるだけ大きな円を描いた。

 絵本の中で出てくるような物語にはこんな大きな財宝の話もあるんだ。

 そんな僕を見て彼女は眩しいほどの笑顔を向けてくれたんだ。


「www、シュガールったら。私あの下町以外にはほとんど出かけたことがないの。あそこは鳥かごだった。出ようと思えば簡単に出られたのに私は踏み出す勇気がなかった。でもその一歩を背中を優しく押してくれたのはシュガール、、、あなたのおかげよ。ほんと、、、楽しみ」

「グリンティア、、、そうだね、僕もさ」

「ん。私も」


 ?????


「「えっ!?」」


 恐る恐る振り向いた時そこには少し不機嫌な表情を浮かべる魔王の姿が見えたんだ。

 そんな彼女はいつものように素っ気ない感じで口にした。


「ん?そろそろお腹が空いたころ。奴隷ご飯食べたい」

「なんでパトが」

「どうしてちびっ子が」

「ここにいるんだよー!?」

「ここにいるのよー!?」


 僕たちが絶叫する側で諸悪の権化が食べるものを催促していたんだ。



小さな魔王(´・ω・):ん。馬車の中が甘過ぎて胸焼けしそう。



恐れ入りますが、、、、シュガールとグリンティアの恋の行方が気になる方、パトのマイペースにほっこりされたい方、もしよろしければ評価やブックマーク等いただけると嬉しいです。




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