16.5幕:人形使いは追加の依頼を受ける
結局、僕たちはそれからしばらく滞在することになった。
目の前で追加の依頼、そして報酬の額面をチラつかされては仕方ないからね。
その依頼とはギルドを挟まない僕個人への指名依頼だった。
一応、冒険者ギルドには報告するつもりだけど間に入ってもらうつもりはないんだ。
だって報酬が破格すぎるしね。だから仲介料を取られるなんてありえない。それにこれは実績としてカウントされる。そして何より僕がそれなりの実力を持った冒険者だということの証にもなるんだ。
グリンティアはかなり懐疑的な感じで見守っていたんだけど、僕は現実思考だ。
この先の冒険には確実にお金がいる。
今回の報酬も含め、次回の報酬まで加えると仲間たちの強化が何段階も進むし、そうなれば僕はもっとランクを上げられるだろうし確実に強くなれる。
それに今回、引き受けた理由はほかにある。
まず一つは僕専用の装備が手に入ることだ。
元凄腕の冒険者で王国でも有名人だと耳に挟んだ『じいや』さんが用意してくれるというんだから楽しみで仕方ない。
そしてもう一つも願ってもないことだった。
それは屋敷の従者の方々が僕たちに稽古をつけてくれるらしいんだ。
僕もグリンティアにも引き篭もりにも専属の家庭教師がね。
もちろんホットルやコルドルたちにもだ。
無料で稽古をつけてくれる上に装備品をいただけるばかりか追加の報酬まで手に入る。
こんなに素晴らしいことはないからね。
だから頂けるものは頂いてから元の冒険者稼業に戻る予定にしたんだ。
パトをじいやに押し付けた上、1ヶ月の稽古とパトのお守りは二の次でいいという破格の依頼である。
お店を放置したままでいいのかって?
下町(王都前の町のこと)のお店の方はすでに専属の相棒たちを手配している。それにあそこには下馬のオーナーが全てを管理しているので僕はお店に顔を出さなくていいはずなんだ。今もきっと馬となってお店中を這いずり回っているはずだからね。
今まで指名してくれた人たちには王都にいる間に旅に出ることとお店を贔屓してくれることを伝えるべく挨拶に行く予定ではあるんだけどね。
ともかくあっちの件は相棒とオーナーたちにお願いして心配はいらない。
それよりもこれからのことを考えなくちゃいけない。
翌日からそれぞれが専属の家庭教師の元で訓練が始まった。
僕たちは間違っていたんだ。
1ヶ月の訓練が簡単で割りの良い依頼だと勘違いしていたことを。
地獄だった。
体術や剣技、防衛術、護身術、魔術などなど多くのことを頭にも体にも無理やり覚えさせられたんだ。それだけじゃない道端に生えている薬草から食材、魔物の群生地から対処法、防諜術に暗殺者への暗殺のやり方から要人警護、ハニートラップに騎士の心得?に至るまで実践だ。
毒キノコだろうが毒草だろうがその場で食べさせられ、魔物の巣に放り込まれては命からがら逃げ出し、王国に捕縛されている暗殺者との死闘をやらされては何度も殺されそうになり、綺麗なお姉さんたちの甘い囁きに囲まれては何度も死ぬ目に合わされて、、、
中にはゲリラ戦のやり方や一人で行うお城の落とし方なんてレクチャーされたし、敵の大将の寝返らせ方なんてものもあった。
籠絡術か、、、こっそりグリンティアに使ってみようと思うけど、それ以外はどう考えても必要そうにないものをとにかく手上がり次第に叩き込まれたんだ。
当然、それだけじゃない。
休む暇もなく寝る暇もなくただひたすら暗記させられ記憶させられ体現できるまで実践させられ僕たちは一睡もせずやり続けた。
僕もグリンティアも瞳から輝きが消えていたと思うんだ。
お城に呼ばれていたことなんてすでに記憶になかったし昨日食べたものなんて何も思い出せない。巻き込まれた先輩たちは顔が変わってしまったし、引き篭もりに至ってはすでに壊れているんだ。
彼は今も屋敷の幼女メイドたちに無理やり外の世界に連れ出され嵐のようなお願いの数を浴びせ続けられている。お兄ちゃんのカッコいい暗殺のやり方見たいなぁ、、、ってさっきも彼女たちに騙されながら暗殺術を叩き込まれていたし。昨日はお兄ちゃんが無双するところ見たいなぁって100体以上の魔物を相手に大乱闘していたんだ。
その前はお兄ちゃんの良いところが知りたいなぁって毒薬を飲んでいたっけ。
きっかけはお兄ちゃんと一緒に外でお散歩したいなぁの一言だったと思う。
計算し尽くされた幼女たちの黒い罠は彼を二度と檻の中へと逃すことがないような恐ろしいものだった。
そんな彼もついに己の殻を部屋に閉ざされていた硬い扉をぶち開け今では屋敷を何百週も走り回っている。
------お袋さん彼は立派になりましたよ、、、
あの魔物たち全てどこから仕入れてきだんだろうって疑問が湧くんだけど、、、
そして今では幼女メイドたちから可愛らしい声援がかかると凄い笑顔になって人外の動きをするようになっていたからね。
------人は変われるんだね。
僕はそう思ったんだ。
あとあのポジションが羨ましいともね。
一方で僕たちは他にも従者さんたちと使役した魔物や使い魔たちに囲まれてひたすら生き残る実践も繰り替えしやらされた。
ボコボコにされて怪我しては回復ポーションを飲まされて、、、繰り返し。
魔力が尽きてはマナポーションを飲まされ、、、繰り返し。
手遅れにならないうちに回復魔術を掛けられ、、、繰り返し。
少しでもできるようになれば魔術師たちに何かの魔術を描けられて邪魔をされ、、、
気力が尽きては幼女メイドたちに背中を踏みつけられて元気にさせられ、、、
心が折れては綺麗なお姉さんたちに言葉攻めにされて心を踊らされ、、、
休みなしで徹底的に何度も何度も。
回数?
そんなの覚えてるわけがないんだ。
それにどう考えても僕には買えそうにないほどの高価なものばかりだしお金を出せないほどの医療行為だし地獄だし天国だし、、、とにかく全てがおかしいんだ。
終いには毎日、格上の化物との死闘が待っている。
元王国最強精鋭部隊の長にして最恐の男。
前王の懐刀にして、その右腕。
かつて帝国との戦で数々の武勲を打ち立て、王国史上最強と言わしめた武人。
そして今は第3王女に仕えし壮麗なる紳士。
まさか『じいや』さんがそんな肩書きの男だったなんてね。
そして僕たちはみっちりとトレーニングの日々を明け暮れたんだ。
でもこれって冷静に考えればパワーレベリングだよね。
ホットル、コルドルたち(๑• ̀д•́ (๑• ̀д•́ )✧:まだだまだ終わらんよ!!!
一緒に遊ぶ幼女メイドたち(๑• ̀д•́ (๑• ̀д•́ )๑• ̀д•́ )♫:わーい
ロリコン疑惑の男(・`ω・):尊い、、、




