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16幕:人形使いは王女を家まで送る 下

また前日の更新忘れました、、、

 

 とある隠れ部屋の一室に2人の影があった。

 すでに屋敷の者たちは寝静まった頃だろうか。

 通路を跳ねる靴底の音は何もしない。

 また窓から漏れ出す光はなく、逆に屋敷構内を照らす魔石灯の光と各廊下に浮かべる魔石灯の光が混ざり合い静寂を物語っていた。

 何かが動く気配は当然のごとく見られず、また他者の魔力による干渉も見当たらない。


 そんなわかりきったことを確認し終えると壮年の紳士と小さな主人は互いの意見を交換した。


「なるほど、やはりそうでございましたか、、、」

「ん。姉君の差し金」

「ならば間違いなく動いたのは北と東でございましょう。いかがなさいますか?」

「ん。2、3日考える」

「ならば平素通り情報収拾に努めましょう」

「ん。任せる」

「例の段取りが終わり次第、姉殿下との面会がございますがいかほどに?」

「ん。予定通り」

「御意に」

「それからこちらが詳細になります」


 壮年の紳士は傍から資料を手渡した。

 その資料を手に取りパラパラと目を通していく。

 その所作を三度行うと彼女はその束を黒いカゴに放り投げた。

 途端にちらちらと赤い光が舞いカゴの中身は全て消えさってしまったのだが対峙した紳士が驚きを顔に出すことはない。


「ん。全部把握した」

「かしこまりました」


 主人の明晰っぷりは相変わらずである。


「特に帝国の『暗部』、皇国の『花鳥』と東国の『風月』の動きが活発化しておりますな。どうやら何かを探し出そうとしている動きがあります。逆に『公国』や『同盟』の動きが静かすぎますな。それら各国との協力関係にあるかはわかりませんが、『例の組織』が今回は姉君と接触したと考えるべきでしょう。それと例の件ですが、、、」

「ん。じい続けて」

「今回のあのバケモノは恐らく、、、かつて『災厄』の一部でございますな」

「ん?災厄?」

「かつてこの北大陸にあった魔導大国を一夜にして滅ぼしたというバケモノでございます。殿下の愛読書である『英雄物語』の『魔喰』といえば把握できますかな」

「ん。無限の英雄」

「そうでございます。かの御仁とその仲間たちが再封印した奴が本体でして、世界中にそのほか多数が封印されております。近くで有名なところですと東の神聖国ですな、あの首都の地下に厳重に封印されてるのでございます」

「それにしても数年前の兄殿下の失踪直後から各組織の動きが活発化、今回ついにその尻尾を見せた。タイミングが良すぎますな、、、このじいやの早計かもしれませぬが、兄殿下はこの事態をご存知だったのかもしれませ」


 数年前、兄殿下こと王国第一王子はこの国から消え去った。

 当時、大事件として世界中で捜索されたのだがついに見つかることはなかったという。


 その第一王子は王国内外の美女たちを虜にし、学者たちと語り合うほどの頭脳を持ち、王国騎士団の団長たちと張り合えるるほどの腕があった。

 そんな彼を誰しもが待ち望み次期国王にと期待を掲げていた。

 国中の人たちから好まれ望まれる尊き血筋の御方。

 前国王から最もその血の力を受け継いだ男として王国中が湧いたのである。


 しかし当時まだ小さかったパトにとってそんなことは関係ない。

 元奴隷の妾の血を引いた彼女にとって王国での待遇は決して良いとは言えなかった。

 そんな彼女を優しく匿い続けたのがかの兄殿下なのだ。

 腹違いの兄は彼女を心から愛してくれたのだ。


 いつも笑顔で優しく抱きしめてくれたり拙い彼女の話を聞いてくれたり絵本を読んでくれたりとそんな優しく微笑んでくれた兄をパトは思い出した。


 そんな兄が消えた?


 ありえないとパトは考えている。


 誰かに拉致された?殺された?

 そんなことは絶対にない。

 では何をやっているのか?

 分からない。

 パトには分からない。

 でもこれだけは確信している。


 絶対に兄上は生きていると。


 かの失踪事件、そして前王のご逝去により今、王国は危機に瀕している。

 もしどちらかが存じていれば国内で他国の患者が暗躍するなど決してありえなかったはずだ。もしくは完全にその動向を把握し手のひらの上で操っていたはずであり、『王国崩壊の危機』などと呼ばせなかったはずだ。


 現状、王国は中央を除いた東西南北の地と貴族たちを纏め上げる『4大公爵』のおかげで何とか纏っている。

 そして今回、そのうちの二つがはっきりと政敵だということが判明した。

 一方の西は静観しており現状では動きは分からない。

 そして残された南もいつまでパト陣営に加わり続けるかは分からない。


 現状、まだ小さな彼女には味方がほとんどいないのである。


 また王国直轄地である中央はまた彼女の姉たちが実権を支配しており彼女が入る余地はない。しかも姉の力は4大公爵よりもはるかに強い。

 各陣営が姉を支持しているかは把握できないが、そのうち一つでも傾けば間違いなく次期国王は姉にとって変わられるだろう。


「ん。このままでは王国は分裂する」

「殿下、王国だけでは終わりませぬ。間違いなく戦争になります。この隙を帝国が指を咥えて見ているだけはありえませぬ」

「、、、」

「やはり立つつもりはありませぬか、、、」

「ん。私の考えは変わらない」


 小さな拳を握りしめパトは改めて決意する。

 そんな彼女を一瞥し、その表情は普段よりもさらに険しくなったと老紳士は感じた。


「ん。私が兄上を次期国王にする。姉上には譲らない」

「畏まりました」

「ん。じい1ヶ月後に旅に出る」

「行き先は、、、帝国か皇国でしょうか?いや無粋でございますな」

「ん。それでじいとばぁやにお願いがある」


 いつもとは違う主人の声に老紳士は何かを悟ったのだろう。

 その声は寂しいようで、そして悲しかった。


「ん、、、もしもの時は私を切り捨てるべき」

「殿下、、、、それはお気持ちだけで十分でございます。私どもの両手はあなたとともに、、、」

「ん。じい、、、ありがとう」

「、、、」

「ん?じい?」

「それにしても、、、じいは、、、このじいは、、、そんなに大事にされてじいはっ嬉しゅうございますぞぉっ!!!!!」

「ん!?、、、、じい、、、力、、つよす、、」(がくっ)


 思わず大粒の涙を流しながら強く抱きしめる老紳士の腕の中で彼女は静かになった。


 そんな姿に老紳士はかつての小さかった兄殿下を思い出した。

 彼とよく似た雰囲気を持つ主人の頭を優しく撫でながらこのまま彼女を休ませることにした。

 数日後には姉殿下との直接対峙の日。

 彼女は血族の中でも王家の闇を最も引き継ぐ者である。

 その手が血まみになったところで気にも留めない。

 その全身が返り血だらけになったとしても浮かべる笑顔は平素と変わらない。


 彼女の気分次第で殿下はいつでも闇に葬られるほどの力を持つのである。

 だからこそ今後、殿下が水面会で動けば動くほど、その命を常に狙われ続けることだろう。


 これは茨の道なんて軽いものではない、完全なる死者の道である。

 彼女を待ち受けるのは地獄よりも恐ろしいものだ。


 それでもせめて今だけは、、、


 壮年の紳士は、そのまま寝室まで抱きかかえたのだった。

感涙したじいや(๑• ̀д•́ ):殿下っ!!殿下ーっ!!(ギュッ!!)

パト( ゜Д゜):ん、、、また、、、あの世、、、見え、ぐふっ!!



恐れ入りますが、、、、パトの闇を知ってしまった方、シュガールのロリコンっぷりに期待したい方、もしよろしければ評価やブックマーク等いただけると嬉しいです。

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