16幕:人形使いは王女を家まで送る 中
そのご婦人は入室されるとすぐに魂の抜けた王女殿下に静かに頭を垂れた。
その眼差しはとても柔らかい。
「殿下、ご無事で何よりです」
「ん。ばぁやも無事で何より」
「はい、彼のおかげでございます」
彼女は僕にもお辞儀をされたんだ。
僕も思わず立ち上がり返礼した。
今日は何だか昔の幼少時代に舞い戻ったような気がするんだ。
貴族の末っ子時代はちょっと複雑な感じだけどね。
魂が再び舞い降りたパトはだらけきった姿勢で口にする。
「ん。ばぁやいつも通りでいい」
「はい、かしこまりました、、、あらいけない久しぶりだから年をとったのかしら、、、目尻に、、、ばぁやは、、、ばぁやは、、、、心配しましたよーーーっ!!!」(ギュッと)
「ん。この似た、、、者、、、夫、、、婦、、、、」(がくっ)
「ばぁやの胸がそんなに恋しかったなんて!?ばぁやは感激で涙が止まりませんわっ!!」
「ん、、、ばぁや、、、」(ぐふっ)
「ほんとそっくりね、、、」(グリンティア)
「某たちにはお似合いに見えるぞ」(ホットル)
「まさにその通り」(コルドル)
「まぁ可愛いあなたたちにそんなこと言われるなんて、、、嬉しいわ」(ギシッ)
「ん、、、、ばぁや、、、天国が、、、み、、、え、、、」
「あらあらいけないわ。殿下、ばぁやの胸の中で寝るなんていつまでも子供なんですから」
「いや、力強すぎて気絶しただけですよね」(シュガール)
気絶したパトを抱きかかえたままそのご婦人は改めて深く頭を下げられた。
平民に応対するには絶対にありえない彼女の心遣いに僕は心底当惑したんだ。
僕にはなぜ彼女が生きているのかの理由が把握できていなかったからね。
「あなたさまに殿下を助けていただいた上に、私まで、、、感謝しきれません」
そして彼女と一緒に老紳士も同じく頭を下げられたんだ。
「シュガールさま、、、彼女は私の妻でございます。私も妻もパト殿下の側使えであるからこそいざという時は覚悟ができておりました。あなたさまの命がけのご慈悲に感謝を、、、」
「僕は依頼を受けて殿下を守ったまでです。森での出来事も偶然でした。それにしても一体どうして、、、」
僕の不思議そうな顔を見てご婦人はにっこりと笑みを浮かべた。
抱えたパトを老紳士に預けると彼女は両手で僕の手に携えたんだ。
「これは人形化、、、、」
「たぶんあなた様のお力、、、私はあの時あの瞬間、意識が途切れる前にあなたさまの力で助けられたのでしょう。シュガール様このお力を大切になさいませ。こうしてもう一度殿下の声を聞くことができたのも、あなた様のお力が、あなたさまのお気持ちがあってこそでございます。シュガール様に、そしてご友人たちに深い感謝を、、、」
その後、僕たちは一晩だけこの大豪邸にお世話になることにした。
見たことがないほどの大きなお風呂で身体を清め、食べたことがないほどの豪華な食事を味わい団欒し、そして豪勢な部屋で二度と着ることがないだろう衣装に着替えを済ませ静かに床に伏せた。
初めて味わう天国のような柔らかさの中で僕たちは1日を終えたんだ。
そうそう命を狙われたというパト殿下と王室の確執の件、あの未知のバケモノの件、そして白づくめの騎士団の件など分からないことだらけだけど、、、聞かないことにした。
だって僕には関係ないしね。
聞いてしまえば巻き込まれると思うんだ。
僕がやりたいことは強くなって有名な冒険者になって僕を捨てた家族を見返すことなんだ。
家族の誰よりも僕は幸せになるんだ。
だから決してどこぞの身内のグダグダに巻き込まれるつもりはない。
それに冒険者ギルドのクエスト、、、指名依頼は彼女を王都まで安全に連れて行くこと。
これで僕はランクがアップするだろうし報酬も手に入れることができる。
その報酬を使えば生活も楽になるし装備品も良い品に更新することができる。
そして何より念願だったパトを第三者に押し付けることができるんだ。
こんなに嬉しいことはない。
これから僕の本当の冒険が始まるんだ。
その日は久しぶりに愉快な夢を見た。
Sランクの冒険者となった僕は隣に緑髪の美少女を侍らせ笑顔で笑っていたんだ。
近くにはホットルやコルドルたちがいて皆がわいわいと騒いで賑やかな中でね。
そしてなぜか赤茶色の女の子が首輪を持ち出してきて僕の首に抱きついてくるんだけど、、、
そして僕は朝遅くに、ふと目覚めた。
だけど久しぶりの夢心地な雰囲気は今まで味わったことがないものだった。
だからもっと味わうべく僕はもう一度目を閉じることにしたんだ。
腕に抱きかかえた赤茶色の髪の人形を抱き枕にして、、、
ばぁやMk-2(๑• ̀д•́ ):殿下ーっ!!(ギュッ!!)
パト( ゜Д゜):ん、、、ここが、、、あの世、、、ぐふっ!!
恐れ入りますが、、、、ぬいぐるみたちの活躍に期待したい方、パトの変わらなさっぷりを期待したい方、もしよろしければ評価やブックマーク等いただけると嬉しいです。




