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16幕:人形使いは王女を家まで送る 上

 



 全てが壮大だった。

 こんな光景は生まれて一度も見たことがない。

 騎士が住まうという屋敷から城下町に連なる貴族街に至るまで全てのスケールが違う。

 まさに選ばれた者だけがこの地に住めるのだということを実感するほどの規格外のありようだ。

 僕が住んでいた小さな貴族の屋敷なんてここだと一番外側の住居にすら及ばない。

 さすがは北大陸の覇者、そしてその中心だ。


 王都入口の白の巨大な城壁を潜り抜け白い色で統一された屋敷の数々は僕が一生かかっても住むことはないほどの立派すぎるものばかりだった。

 一つ一つが大きな庭付きのお屋敷ばかり。

 そんなものが幾重にも計画されたように王城までの通り沿いに配置されている。

 ただし通りの果てに見えるのは王城じゃないところみたいだ。

 真っ直ぐに王城に行けないのは防衛のためだろう。


 その区域を抜けさらに何重もの城壁の大門をくぐり抜けると白色の輝く王城がさらに奥にそびえ立っていた。その中心地らしい王城の周囲には王族だけが住めるという屋敷?御伝?、、、いや一回り小さなお城が僕たちを出迎えたんだ。


 この日、視線に入ったものの中で一番立派なお城と呼んでもいいほどの屋敷の前に僕たちの馬車は足を止めたんだ。

 頑丈そうな扉に簡単には侵入できなさそうな分厚く大きな白石の璧。

 そして間も無く人一人では開けられなさそうなほどの両開扉が開かれた。


「「「「「「お帰りなさいませパトレシア王女殿下」」」」」」


 門から屋敷の入口まで赤い絨毯が敷かれその両脇には等間隔で使用人たちが一斉に頭を下げている。これはまた壮大な光景だった。

 その使用人たちの最前列にいた壮年の老紳士がゆっくりと近づいてきた。

 彼はそのまま足を地につけ頭を下げゆっくりと語り出した。


「殿下、、、ご無事で何よりでございます」

「あなたもね。皆も表を上げよ、、、」


 パトの一言で使用人たちが一斉に頭を上げ姿勢を正す。

 一糸乱れぬ所作、そして統率された動きから彼らが並々ならぬ教育を受けていることが把握できた。

 元貴族の僕でもこんな機敏な行動は取れないだろう。

 普段から要人を相手にしているからこその努力の賜物なのだろう。


「じい、、、あなたには申し訳ないことをしたわね」

「お辞めください殿下。あれも私も覚悟して実行したまででございます」

「おかげで私は無事に帰ってこれた」

「本望でしょう。さぁお手を、、、」


 そのまま彼に案内されパトは屋敷まで連れて行かれた。

 そして僕たちも他の使用人に遅れて招かれたんだ。

 応接間かどうかは分からないけど大きな部屋に僕たちは案内され、、、そしてしばらく待たされた。


 僕の隣ではグリンティアも落ち着かないようで僕の方をちらりちらりと視線を向けてくるし僕も同じようなもので部屋中に視線を張り巡らせた。見るもの全てが一級品のものばかり。こんなところで下手なことなんてできやしない。

 隣の先輩方は今だにカチカチに固まっている。

 いつものチャラけた感じがなければないで何故か寂しい限りなんだ。

 ちょーっ凄過ぎるんですけど、、、そんなことすら呟けないほどの状況なんだ。


 全てが異次元の世界。

 僕は元貴族の末っ子だし、グリンティアは仕事で何度もこの王都に出入りしてるとはいえ相手は王女殿下が住まうお屋敷。

 何か失礼があってはいけない。

 いくら顔なじみのちびっことはいえ幼女の皮を被った悪魔とはいえ彼女は僕たちとは住む世界が違うんだ。僕たちの少しの行為が命取りになるのかもしれないんだ。

 先輩方が固まったままで良かったよ。


 だからこそ僕たちは張り詰めた糸のように緊張感を纏いながら時間を過ごした。

 そしてどのくらい経っただろうか。


 老紳士の一声とともに王女殿下がご入室された。

 白いドレス、そして煌びやかな宝石のティアラを身につけた彼女は本物の王女さまのようだ。

 人形屋敷から、ロリ王女本物キタコレ!!と声が響くが僕はその声をシャットアウトすることにした。余計な一言はこの場では命取りになるしね。


 そのまま彼の案内のもとパト殿下が軽く会釈されると老紳士は立ち上がりポンポンと手を叩き扉が閉められ、、、いつものパトに戻った。


「ん。じい、、、だるい疲れた。もう今日は寝たい」

「はぁーっ、、、じいは、、、じいは、、、心配しましたぞーーっ!!!殿下ご無事で何よりですぞーーーっ!!!!!」

「ん、、、じい力強す、ぎ、、、」(がくっ)


 今まで見ることがなかったパトの正装姿は彼女が本当の王女様だということを語るには十分だった。この広大な屋敷から務める使用人たちまで見るもの全てが新世界。

 僕にとっては菅がれられないほどの異世界。

 どうしても違和感が拭えないんだ。


 泣きじゃくるじいやの抱擁で元に戻ったパトが天国に召されかけているんだけど、僕たちは見守るしかない。

 どうすればいいのか分からない僕は顔が引きつるだけなんだ。


「いかんあまりの嬉しさにパト様が昇天なされた、、、じいがまさかそこまで思われていたとは。このじい感服いたしましたぞ!!!!」

「、、、ん。じい、、、天国が、、、見える」

「じいの胸の中が天国ですと!?このじい涙で前が見えませぬぞーーーっ!!!」

「いやそれ抱きしめすぎですよね」


 思わずお僕の突っ込みに老紳士ははっとして落ち着きを取り戻したようだ。


「これは失敬。このじい嬉しさの余り些か力を入れすぎたようで、、、」

「ん、、、奴隷ないす、、、ふぉろー、、、」(がくっ)

「パト様、、、疲労ゆえに寝てしまわれたか。王女といえまだ幼子これまでの心労に疲労。じいは心中お察しいたしますぞ」

「、、、、」(パト)

「いやトドメさしただけじゃ、、、」

「、、、」


 しかし知らぬ存ぜぬの彼は気にもとめず僕たちに語りかけた。


「皆様この度は我が主人に変わりお礼を申し上げます。殿下の命を救っていただきこのじい頭が上がりませぬ」

「お顔をお上げください。あの化物を倒せたのもすべては偶然です。それにこれまでの旅路も含め王女殿下におかれましては私たち平素の暮らしはさぞや御苦労されたことと思われます。ごゆっくり静養くださいますように」

「なんとご丁寧に。冒険者とはお聞きしておりましたが、失礼ですがもしやあなた様は貴族の出なのではございませんか?」

「元ですが、、、」

「そうでございますか」


 その一言で大体のことは分かるだろう。

 僕のように家を追い出される元貴族の人間なんてどこにでもある話なんだ。

 それは僕の住んでいた国でもこの王国でも変わらないはずだ。

 そんなことよりも僕は先に終わらせなければいけないことがある。


「それでこれで依頼は終わりということでよろしいでしょうか?私どもは町に戻りしばらくは復興の手伝いをする予定ですので何かございましたらご連絡ください。連絡先はパト殿下にお聞きになれば分かるかと思います」


 ここはちびっこではなく王女殿下の縄張り。そして今話をする相手はたぶんそれなりの身分の方であり間違いなく政治闘争にやり慣れているだろう人生豊富な人間。

 僕は腹芸は得意ではないし先手を打たれても困る。

 こういう時は何に巻き込まれるか分からないんだ。

 だから僕は相手に選択肢を与えないようにしたんだ。


 だけど彼はこう口にした。


「もし宜しければ今日1日でもご宿泊お願いできませんでしょうか?」

「えっ!?」

「あなた様にお礼を申し上げたいという人間がおります」


 そう彼が口にすると一人の壮麗なご婦人が入室されたんだ。


「ええぇぇえっ!?」


 僕は思わず声を上げたんだ。

 だって目の前にはあの時に死んだ女性が、、、

 あの森でパトを庇って死んだ壮年のご婦人が僕の前に姿を現したんだ。




●登場人物

じい、老紳士:パト専属の従者。パトを溺愛中。

従者たち:パトの屋敷の従者たち。かなりの実力者ばかりの模様。


ホットルとコルドルたちを見た使用人一同(๑• ̀д•́ (๑• ̀д•́ )๑• ̀д•́ ):ぬいぐるみが動いてる!?か、可愛い!!




恐れ入りますが、、、、シュガールたちの活躍に期待したい方、パトのドSっぷりに期待したい方、もしよろしければ評価やブックマーク等いただけると嬉しいです。





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