8幕:人形使いは引きこもりを相談される 下
部屋の中から聞こえてくるのは幼女と変態の仲睦まじい会話だった。
この場に事情を知る人たちがいればきっと誰もが素晴らしい兄妹愛に涙を流したことだろう。
それだけの雰囲気がドア越しに感じられたんだ。
彼の母親なんかは隣で涙をながしっぱなしだった。
彼の対人恐怖症が幼女に対して克服された瞬間だったしね。
ただ正直、ほとんど犯罪スレスレだと思うけど。
だけど僕は違う。
この時の僕の胸は締め付けられそうなほど苦しんでいたんだ。
なぜなのか。
それは考えるまでもない。
この時の光景はどう考えても僕がつい先日彼女にしてやられたことと同じだったからだ。
「お兄ちゃん、パトのお願い全部叶えて欲しいなぁ」
「んんん、お兄ちゃんに任せるですぞ~」
「お兄ちゃん大好きー」
「うぉぉぉおぉぉーお兄ちゃんも大好きですぞー」
「パトのお人形さんになってほしいなぁ」
「いいですぞー何でも叶えてあげますぞー」
「じゃお兄ちゃん指切りげんまん」
「いいですぞ~幼女最高ですぞ~」
「「指切りげんまん嘘ついたら、、、」」
「針千本のーます」
「人形の首叩っ斬る」
「「指切った!!」」
「!?」
そして悪魔の契約が結ばれてしまった。
なぜ僕が邪魔立てできなかったからって?
邪魔をするなって言われて逆らえなかったんだ。
不思議な力が僕を押さえ込んで何もできなかった。
何せ僕も彼女に首輪を嵌められたモノだからね。
「お兄ちゃんいっぱいいっぱーいお人形が欲しいの。できれば等身大の騎士のお人形がたくさん。お兄ちゃんみたいな強くて逞しくて格好がいいやつ。あと魔術師とかシーフとかもいっぱい!!」
「うぉぉおお任せるですぞー」
「やったーお兄ちゃん大好きー。お人形も全部ちょうだい」
「いいですぞーーっ!!幼女萌えーーーっ!!」
「お兄ちゃんパトのお願い全部聞いてねー約束だよ、大好きー♩」
「うぉぉぉおおっ!!天使萌えーーっ!!!!」
「あとはぬいぐるみも欲しいなぁ♩」
「全部お兄ちゃんが用意してあげますぞー!!!」
これで対人恐怖症克服のきっかけにでもなって欲しいところなんだが。
これ以上、僕は深く考えないことにしたんだ。
実際、それでも部屋から出てこない以上はあんまり解決にはいたってないしね。
キシリと痛む胸を押さえながら僕たちは飯屋を後にした。
お礼にたくさんのお礼を携えてね。
もちろん飯屋に飾られている人形たちは全て僕の息が掛かった人形へと進化している。
僕が召喚すればいつでも呼び出せるわけだ。
これで僕は百人力だ。
宿に戻った僕はパトが寝入った隙を付いてこっそりと能力を解放した。
【人形屋敷】
僕の魔力に反応して小さな4階建ての屋敷が目の前に出現する。
これはいわば僕の人形たち専用の館である。
この館に近づけば何と体が小さくなり中で過ごすことができるんだ。
お風呂も入れるし食事もできる。
それは人形以外にも人間である僕にも利用できる安息の地。
誰にも知られてはいけない僕の安全地帯。
僕だけの楽園である。
この能力を身につけたのは数日前。
ふと気づいたんだ。
僕の能力は人形に関することに集約している。
魔力はあるが魔術や魔法はほぼ使えない。
ノリで唱えたりするが実際は能力によるものだ、、、と思っている。
だから僕はそのヒントを気づいた時からいつも探している。
それが先日のことだったんだ。
チャラ男たちとの旅の途中、お店で売られている人形とお家セットを見たことがきっかけだった。
見たとおりに試してみたら簡単にできたんだ。
だから今日手に入れた新しい相棒たちをこの中に迎え入れるんだ。
きっとホットルとコルドルが気を利かせて新しい仲間たちを歓迎してくれるはず。
ちゃんと連絡も入れてあるしね。
早速小さな二人が手を振りながら出迎えてくれている。
僕はニコニコしながら彼らに合図すると新しい仲間たちをその場へ送り出したんだ。
ここの屋敷もそのうち大切な相棒たちでいっぱいになるのかな。
きっとそこは人形たちにも楽園になるんだ。
僕がそんな物思いにふけっている時いつもの平坦な声が静かに囁かれた。
「ん。下部の住むところが決まった」
僕は青い顔をしたまま恐る恐る後ろを振り向いた。
そこには天使の顔をした悪魔がベッドの中から目だけを覗かせていたんだ。
人形屋敷の主人ホットルとコルドル(๑• ̀д•́ )(๑• ̀д•́ )✧:我らが館!!
●登場人物
シュガール:本編の主人公。元貴族の人形使い。薄幸体質の少年。
パト:赤茶色の髪がトレードマークの幼女。演技と猫を被ることは得意。
引き篭もり:飯屋の倅の自宅警備員。人形作りの才能がある。