表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
dark blue  作者: 乱 江梨
第一章
7/33

少年少女の違和感

 どうぞよろしくお願いします。

 最上伊作は己の目を疑った。これは悪い夢だと、そう思った。何故かと言えば、高校にいるはずのない入山杏、永浜昴、来栖あいの姿を見つけたからである。


 あの三人は今男たちの手によって殺されているか、捕らえられているかのどちらかのはずだった。あの女にそう命じられたからだ。にも拘らず、何事も無かったかのように三人は学園に登校していたのだ。


 いつも通りの日常が目の前で繰り広げられているこの状況に伊作は酷く違和感を覚えた。自分は何か大きな勘違いをしていないか?自分は何かとんでもない存在と敵対しているのではないのか?と、それ程までの違和感と悪寒。伊作はそれを感じたのだ。


 伊作に起きていたその違和感はこの状況だけが作り出していた訳ではない。この国最強の男の冷たい視線も原因の一つだったのだろう。


 伊作はこの異常事態に対し、急いで自分の母親に連絡をした。これからどうやって転入生(ユスティー隊員)を排除するのか、それとも諦めるのか、あの女に委ねる必要があるのだ。


「あら、伊作。わざわざ連絡してくるなんて、失敗でもしたのかしら?」

「っ……今朝、人質の女と転入生が登校してきました」

「使えない男たちねぇ……」


 母親の声がどんよりと暗く湿っていることに身震いした伊作。〝使えない男たち〟それに自分も含まれていることに気づけない程、伊作は馬鹿ではなかった。18年間も一緒にいた母親が自分のことを道具以外の何物とも思っていないことは当の昔に気づいていた。今の母親にとって自分は使えない駒にすぎないのだ。


「なら今日、その転入生を家につれてきなさい」

「えっ……」

「もう使えない駒には頼らないわ。それぐらいならできるわよね?伊作」

「……はい」


 電話を切った伊作は今日ずっと感じていた嫌な予感が増幅していた。転入生(ユスティー隊員)をあの女の元に連れて行くのは、自分たちにとって良くないことなのでは?という考えが頭から離れなかったのだ。


 自分の母親の命令に背けないことは伊作自身が一番理解している。だがもし弓絵を監禁していることがバレれば、確実に警察に通報されてしまう。今までの計画が失敗に終わっているのを見ると、転入生(ユスティー隊員)は相当な実力者と考えていい。伊作は自分と母親では到底相手にならないと考えているのだ。


 だからこそ、伊作は不安感を拭えなかった。しかしだからと言って伊作は母親に逆らうことができない。伊作にはどうすることもできないのだ。




「今日の放課後、家に来ないかい?」


 潜入捜査四日目の昼休み。紺星たちに唐突にそう話しかけた伊作。紺星は伊作のことを疑っているため、伊作の様子がおかしいことにも気づいていた。青花の方は急な誘いの理由が理解できず、紺星と伊作の顔を交互に見つめていたが。


「佐戸野弓絵について思い出したことがあるんだ。詳しく話したいから来てくれないか?」

「……分かった。だが一度帰宅させてくれ、そのあと訪ねる」

「分かった、住所はあとで教えるから」


 伊作は紺星の申し出を了承するとその場から立ち去った。紺星はその背中を見届けると、自分の顎を掴みながら思案していた。そんな紺星を青花が不満そうに見つめると紺星がその視線に気が付いた。


「なんだ?」

「紺、何か隠してる。確実」

「……別に隠しているつもりはないが」

「あの男、何企んでる?疑問」

「さぁな。ま、企んでるのがアイツとは限らねぇし」


 青花が疑わしそうに尋ねると紺星が意味深な発言をした為、青花は顔中に?マークを散りばめていた。そんな青花の顔を見た紺星は破顔し、青花の不機嫌度は増すばかりだった。


「悪い悪い。でもこれだけは断言できる。この事件今日中に片付けるぞ」

「了解」


 紺星が精悍な笑みを浮かべながら青花にそう言い放つと、青花は嬉々とした表情で答えた。ユスティーの隊長が事件解決を断言したのだ。説得力の桁が違う。紺星がそう言うのであればこの事件は今日で解決するのだろう。青花の中の常識はそう考えた。


 そんな中紺星は伊作の後ろにいるやもしれない影の存在に思考を飛ばしていたのだった。




 放課後。紺星と青花は一旦ユスティーの本拠地へと戻っていた。理由は総括にあることについて許可を得るためだった。青花は詳しく聞かされなかった為、紺星には着いていかず、ユスティーの本拠地の中で休息を取っていた。


 一方の紺星は羽草に会う為に、ビルの最上階へと赴いていた。総括である羽草の部屋はユスティーの一階上の百階にある。ユスティー以外の警察官はその階に入ることも難しいのだ。


 厳重な魔術が組み込まれた扉を紺星がノックすると、羽草の「入ってこい」という素っ気無い返事が返ってきた。事前に羽草に連絡はしていたので、訪問相手が紺星というのは分かっていたのだ。


「失礼します」


 紺星が扉を開けて部屋の中に入ると、忙しそうに資料整理に追われている羽草の姿が目に入った。羽草は紺星の姿を確認すると、忙しない手の動きを一旦止めた。


「お前がここに来るのはめずらいしいな。何かあったのか?」

「今日は拳銃所持許可を頂きたく窺いました」

「拳銃か、めずらしいな」


 この警察組織において拳銃はあまり重宝されていない。何故かと言えば魔術の方が人にとって使い勝手がいいからである。拳銃は発砲するか、牽制する以外の使い道がないのに比べ、魔術には使用者の技量にもよるが様々な攻撃、治療、防御、捕縛、通信、などの使用手段がある。よって拳銃は魔術を不得手とする人間か、拳銃の扱いに長けている人間以外は使わないのだ。


 使用する人間が少なくなるにつれ、拳銃の扱いに慣れた人間も当然少なくなっていった為、拳銃を所持するだけで総括の許可を得なければならなくなったのだ。この国で拳銃の作り方を知っている者は実は一人しかいない。その唯一の人物が実はユスティーの福貴だったりするのだが。


 そのため拳銃は一般市民が手に入れるためには海外から流通しなければならない。もちろん警察はその方面にも目を光らせている為、拳銃を手に入れるのは至難の業なのだが、極稀に逮捕した犯人が所持していたということがあるのだ。


「はい、まぁ念のためです。犯人に撃ったりはしませんので、安心してください」

「犯人……そうか事件は解決しそうか?」

「えぇ、今日中に片を付けます」

「お前は本当に頼もしいな。期待しているぞ。拳銃の所持許可を出そう」


 まるで犯人をもう見つけたかのような紺星の発言に、羽草が感嘆の声を漏らした。紺星は羽草に対して敬礼で答え、そのまま部屋から出て行った。紺星の姿が見えなくなるのを確認すると、羽草はしみじみとため息をついた。


「――本当にアイツだけは敵に回したくないものだ」




 ユスティーの本拠地に戻った紺星は早速拳銃を保管している部屋へ向かった。警察の拳銃は作成者の福貴の属するユスティー内で管理しているのだ。紺星が様々な種類の拳銃を吟味していると、その様子が気になったのか、福貴が現れた。


「隊長、どんな拳銃をお探しですか?」

「あぁ、福貴か。そうだな、撃たれて一番痛いやつってどれだ?」

「隊長は一体何をする気なんですか?」


 あまりにも物騒なことを言い出した紺星に、福貴は苦笑いを漏らした。福貴は様々な拳銃から一つを選ぶとそれを紺星に差し出した。


「これなんてどうでしょう。私が開発したF-28式です。痛み……は分かりませんが威力は十分です。その分扱いが難しいですが、隊長なら大丈夫でしょう」

「おぉ、サンキュな」


 福貴から拳銃を受け取ると紺星はそれを制服の内ポケットにしまった。その様子を後ろから見ていた青花は何やら羨ましそうにしていたが、それに気づいた福貴に両手で大きな×マークを作られてしまった。


 実は青花は拳銃の扱いが大の苦手で、ユスティー1の下手糞なのだ。なので拳銃の所持は福貴、紺星、総括の全方向から禁止されており、青花はそれが不満なのである。


 そんな二人の様子を見た紺星は破顔一笑すると、青花を連れて伊作の自宅へと向かったのだ。





「やぁ、よく来たね」


 伊作は自宅の門を叩いた紺星たちを出迎えた。伊作は制服から私服に着替えており、普段とは違う印象を青花は覚えた。そんな青花を尻目に紺星は違った意味で目の前の人物に対して違和感を覚えていた。紺星はその違和感の正体に気付けてはいなかったが。


 伊作の家はまさしく豪邸と呼べるような大きさと美しさを誇っていた。まず一般家庭ではこんな家には住めない。伊作の親が富豪であるのは間違いないだろう。


 玄関からリビングルームへ案内されると、紺星たちの目に伊作の母親、最上皐月(もがみさつき)の姿が写った。


 皐月は腰まで伸びた黒髪に、真っ赤な口紅を中心とした厚化粧が目立つ女性だった。香水もきつく、そういった匂いに慣れていない青花は思わず鼻をつまんだ。


 ユスティー内で化粧をしている女性は十乃がいるが、十乃は自分が一番綺麗に見える化粧の程度というものを弁えている。だからこそユスティー隊員はこういった女性には慣れていないのだ。


 青花とは対照的に紺星は皐月に対して何の反応も見せなかったが、頭の中では事件のことについて思案していた。この女性が事件の黒幕なのだろうか?それとも他に首謀者がいるのか?と。


「よくいらしたわね。伊作の母です。どうぞごゆっくりお寛ぎになって」

「はい、お邪魔いたします」


 皐月の出迎えに紺星が社交辞令で答えた。二人は互いに笑顔を浮かべてはいたが、内心では互いの腹の中を探っていたのだ。


 リビングの中の客間に案内されると、伊作が茶菓子を持ってきた。それを見た途端、青花に瞳に光が灯った。実は青花は大の甘党なのだ。特に洋菓子が好きで、伊作が持ってきたマドレーヌのような菓子は青花の好みドストレートなのだ。


 しかしそんな青花とは対照的に紺星はとても冷めた目で伊作と茶菓子を見つめていた。理由は二つあった。一つはこの茶菓子に毒でも盛られている可能性がある為。この最上家が事件の首謀者なら、邪魔者の自分たちを抹殺しようと考えるのは必至である。戦闘になれば勝ち目がないと思っている相手を殺す方法は毒殺一択である。だからこそ、紺星は警戒していたのだ。


 二つ目の理由は、その毒が入っているやもしれないその茶菓子を持つ伊作の手が、ひどく震えていたからである。この家を訪ねた時から、紺星は激しい違和感に襲われていた。目の前で震えるこの人物に対して。


 この家を訪ねてから、伊作はどうもおかしい。自分の家のはずなのに、道に迷ったりもしていた。そういう違和感を紺星が感じるたび、伊作は冷や汗を吹き出していたのだ。


 そんな紺星の危惧を余所に青花が目の前の輝かしい菓子に手を伸ばそうとすると、すかさず紺星がその手を叩いた。自分の手に突然痛みが走り、青花が赤くなった手を擦りながら不満気に紺星を見上げた。


「どうなされたのですか?遠慮なさらずお食べになって?」

「……」


 紺星たちにはそんな皐月の声が重く湿ったものに聞こえ、青花も思わず伸ばした手を引っ込めた。伊作はというと、にっこりと笑う皐月の隣に酷く悪い顔色で腰を下ろしていた。 紺星が鋭い目つきで皐月を見つめていると、皐月が更に破顔した。


「ふふ、毒なんて入っていませんから安心してください」


 皐月が見透かしたように言い放つと、紺星はため息をつきながら湯気の立ちこめる紅茶に手を伸ばした。青花はそんな紺星を心配そうに見つめていたが、毒が入っていないというのは間違いないと思っていた。


 なぜなら紺星は毒が入っているかどうかが瞬時に見分ける魔術も持っているからである。この魔術はユスティーでも使えるのは紺星と十乃だけである。それ程高度な魔術なのだ。その魔術を行使できる紺星がティーカップを手にしたということは毒は入っていないということになる。


 皐月の不気味な笑みと同時に紺星は紅茶を一口喉に通した。その笑みを睨み据えながら。その様子を伊作はますます顔色を悪くしながら見ていた。


 紺星が紅茶を口に含んでから数秒後。何かを悟ったかのように小さなため息をついた紺星。その様子を片方の口角を吊り上げながら窺っていた皐月。


「さぁ、お嬢さんもどうぞ召し上がっ――」


 その皐月の言葉が合図だった。紺星はため息をつき終えると、突然自分の着ている制服の内ポケットに右手を突っ込んだ。そしてそのまま内ポケットに忍ばせていた拳銃を取り出し、躊躇無く自分の左腕に押し付け、発砲した。


 激しい発砲音と共にその場にいた人間の顔が歪んだ。当然である。拳銃なんて代物はほぼ警察しか所持しておらず、その警察でさえも使う者は少ない。その拳銃をたかが高校生が所持し、あまつさえ己の腕を打ち抜くなど、常識では考えられない光景なのだ。


 拳銃を隠し持っていたことを把握していた青花でさえも、紺星の突然のその行為に驚愕したのだ。一般市民が驚かないはずがない。青花以外の二人を口をポカンと開け、呆けている状態になっていた。


「あぁ、流石は福貴。そこそこ痛いじゃねぇか」

「な、何を……」

「紺!」

「あ、治すなよ、青花。痛みが消えると寝ちまうだろ?」


 紺星の左腕からは血が大量に流れており、途端に青花の顔が青くなった。紺星はそんな青花には目もくれず、福貴に対して称賛の声を上げた。伊作と皐月は何が起きているのか全く理解できていないのか、大けがをしているというのに笑っている紺星に鬼胎の視線を向けることしかできなかった。そんな二人を尻目に紺星は拳銃を収めると、精悍な笑みを浮かべながら足と腕を組んだ。


「さてと、あんた等は刑事に睡眠薬を飲ませた公務執行妨害でもう逮捕できるんだが、こっからは大人同士の話をしようじゃないか?」

「……け、刑事?何を言って……」


 そう、紺星たちに出された茶菓子には睡眠薬が仕込まれていたのだ。睡眠薬はあくまで薬であって毒ではない。そのため紺星でも気づけなかったのだ。と言っても、紺星はこの可能性を考えていたからこそ、拳銃を所持していたのだが。


 紺星の発言があまりに唐突過ぎて、まだ皐月は理解できていないようだったが、伊作の方は何かを察したようだった。紺星たちが互いを〝紺〟と〝青花〟と呼び合っていたことで伊作は二人の正体に気が付いたようだった。


「あぁ、名乗ってなかったな。俺は警察組織第一隊ユスティー隊長、葛城紺星だ」

「同じくユスティー隊員、揺川青花」

「ユ、ユスティー……う、嘘よ!」


 ユスティー。その名を知らぬ人間などこの国にはいない。その隊員の名を知らぬ者も同様に。皐月はようやく気が付いたのだ。自分が誰を敵に回してしまったのかを。だが現実を認めたくないのかその事実を否とした皐月。


 伊作は予測してはいたものの、本人から直接現実を突きつけられ、皐月同様に取り乱しては……いなかった。寧ろ紺星たちを期待に満ちた目で見つめていたのだ。そしてその視線に気づいた紺星は理解したのだ。ずっと感じていた違和感の正体はこれだったのだと。


 もやもやが晴れた紺星は突然伊作の顔を片手でグイっと掴み、その顔をじっくりと見つめた。一方の伊作は力強く顔を掴まれたことに対する驚きと緊張で、冷や汗を流した。あまりにも長い間紺星がじろじろと伊作を見つめていると、伊作の頬がうっすらと赤く色づいた。それに気づいた者はいなかったが。


「よくできてんなぁ……」

「えっ……?」

「いや、何でもねぇ」


 そんな会話が交わされた後、紺星はやっと伊作の顔を離し、元の態勢に戻った。紺星は何やら考え込んでいるようだったが、目の前の皐月が顔を真っ青にしながらプルプルと震えているのを見て、ようやく先刻の質問に答えた。


「あぁ、俺たちがユスティーっていうのは嘘じゃねぇよ。あんたを連続変死事件の首謀者として逮捕しに来た」

「な、何のことです?私が殺人事件の犯人だなんて……何か証拠でも?」


 皐月は先刻までの慌てようを見せているにも拘らず、諦め悪く反論した。わざわざユスティーの隊長が赴き「逮捕する」と言っているのだから、逮捕状がないわけがない。よって拒否権は無いのだ。そんな無意味な抵抗をする皐月に紺星たちは内心ため息をついた。


「あのなぁ、証拠云々の前に俺たちを眠らせようとしたことはどう説明すんだよ?」

「そんなの知らないわよ。伊作が勝手にしたことでしょ?」


 皐月は全てを伊作に擦り付けることにしたらしい。正直これには紺星も本気でため息をついた。往生際が悪いにも程があるのだ。紺星は目の前にいる面倒な女は後回しにしようと考えたのか話題を変えた。


「はぁ、それはまぁ置いといて。佐戸野弓絵はどこにやった?」

「し、知りませんよ。誰ですか?それ」

「行方不明の生徒、この家にいるっていうのは分かってんだよ」


 その言葉に一番驚いていたのは伊作であった。伊作は何故か口をポカンと開けたまま涙を流した。その様子を青花が不審そうに窺った。青花自身も弓絵がこの家に捕らえられているということを伝えられていなかった為、目を見開いていた。死んではいないと思ってはいたが、無事かどうかも分からなかったため、当然の反応である。


 伊作は自分の頬に伝う液体に気づいたのか、慌ててそれを拭った。その様子を見ていた皐月が軽く舌打ちをしたが紺星はガン無視でいきなり転移魔術を使った。しかもその場にいる全員を巻き込んで。


 伊作と皐月は突然別の空間に移動したため目を白黒させた。転移魔術というのも高度なもので一般人にはまず使用できないのだ。青花は慣れっこな為自分が今いる場所を把握するとすぐに紺星に尋ねた。


「佐戸野弓絵、ここにいる?疑問」

「え、あぁ、まぁここにいるのは間違いないんだが」


 なぜか歯切れの悪い紺星の回答に青花が思わず首を傾げた。紺星は弓絵がいるであろう場所に転移したのだ。皐月は何故か勝ち誇ったような笑みを浮かべていたが、紺星は気にせず弓絵を探し始めた。転移したのは細長い道が続く場所だったが、しばらく歩いていると大きな檻を見つけた。


 その檻の中には写真で見た弓絵の姿があった。弓絵はシャツ一枚着ているだけの格好だったが青花は弓絵の姿に違和感を覚えた。この様子だと監禁されていたと考えるのが妥当である。しかし目の前の少女は顔色こそ良くないものの、汚れてもなく、顔に隈ができていなかったのだ。それが違和感の原因だった。


 青花は以前、奴隷として売られる寸前だったところを紺星に救ってもらった経験があるため、檻に監禁された人間がどうなるかは誰よりも理解しているつもりだった。だからこそ少女の様子に違和感を覚えたのだ。目の前の少女は健康体ではないか?それとも皐月が弓絵を監禁しながら、手厚い世話でもしたとでもいうのか?と。青花はそんな馬鹿な話あるものかと、違和感を増幅させていった。


 弓絵が見つかったことで、言い逃れはできないはずの皐月は何故か片方の口角を上げ、破顔していた。その形相を伊作は顔色を悪くして窺っていた。


 檻の中の弓絵は紺星たちの姿を見つけると一瞬驚いたような顔をした。紺星はその檻を帯刀していた剣で壊し、そのまま弓絵に近づいた。


 弓絵は更に驚愕し、ますます紺星から目が離せなくなっていた。当然である。突然囚われていた檻がいとも簡単にぶっ壊れ、しかも壊した当人の左腕からは大量の血が流れていたのだから。驚かない方がどうかしている。


 そんな弓絵の顔をしばらく眺めた紺星はニヤリと破顔すると、周りからすれば当に荒唐無稽なことを言い出した。


「お前、最上伊作だろ?」


 そう言ったのだ。目の前の少女の姿をした人物に対して、そう言い放ったのだ。




 読んでくださってありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ