疑惑と衝撃
そろそろクライマックスです!
「キツネ、くん……どうして?」
「唯に聞きたいことがあってな」
紺星の姿を見て涙を流した唯の声はかすれていて、それだけでこの小さな小屋での生活の困窮さが青花には分かった。
紺星は顔だけを入れていた小屋にその身体ごと入ると、唯の涙を拭うついでに濡れタオルで汚れた顔を綺麗に拭いてやった。
唯は紺星の行動に一瞬身体を硬直させたが、見知った仲なので途中からは流されてされるがままになっていた。
唯の顔が綺麗になったところで青花もその小さな小屋の中に入った。汚れを取り払った唯の顔はあまり外に出ていないからか、青白いと呼べるほど白かった。だが手入れなどは当然していないので顔の所々は粉をふくほど乾燥していた。
「唯、お前の母親――神奈さんはどうした?」
「!……それは…………」
唯の母親である神奈の名前を紺星が出すと、唯は一瞬にして顔を引きつらせた。その反応は紺星たち警察にとっては何か知っていると言っているようなものだったので紺星は鋭い目つきになった。
「最近お前ら母娘の様子がおかしいと聞いた。俺がいなくなった後、何があった?」
震えながらだんまりを決め込んでいる唯に紺星は絶えず質問をした。だが唯は何かに怯えているように肩と唇を震わせ、しばらく何も話せない時間が続いた。
(唯のこの反応……一体何に怯えているんだ?俺を見た時に泣いたことと、何か関係があるのか?)
紺星は唯の涙を思い返していた。その涙、表情は紺星のよく知るもので、だからこそ紺星はその理由を知らなければならなかったのだ。
唯は紺星の幼少期からの知り合いで紺星のことをよく知っている。そんな唯が紺星に見せた表情は、どうしようもなくなり救済を求める人間がよくする表情だったのだ。
紺星はそういう表情を他人に向けられることが多い。理由はその仕事柄や、紺星の常人ならざる実力が深く関係している。
スラム街で暮らしていた頃も今も、紺星は守るべき弱者のこういう顔を幾度となく見てきた。故に今唯が何かに怯えていて、自分に救いを求めているのが手に取るように分かったのだ。
「唯。俺は何があってもお前の味方だ。絶対に守ってみせる。だが話してくれないと、お前を何から守ればいいのかも分からない」
「……っ」
張りつめていた唯の緊張感は、そんな紺星の言葉でもろく決壊してしまった。最初に流したものとは違い、唯は止めどなく溢れ続けるような涙を流した。
そんな唯の涙が枯れ始めた頃、唯は小さな小さな掻き消えそうな声を発した。
「……わっ……分からないの……」
「分からない?」
「お母さんが、何をしているのか……何があったのか……分からないから、こわいのっ……」
唯は今にも壊れてしまいそうな状態で紺星に必死に伝えた。自分が何に怯えているのか。自分の母親の様子がおかしくなったこと。紺星はその訴えを一つも聞き零さないように唯を見つめた。
「詳しく教えてくれ」
「お母さん、キツネくんがいなくなってから、すごく元気がなかったの。私もキツネくんがいなくなって寂しかったけど、お母さんはそれ以上だった。キツネくんは私たち母娘に優しくしてくれた唯一の人だったから。だからお母さんいつもぼーっとしてた。でも……」
このスラム街で生活するというのは誰にとっても困難なものだ。誰にも頼ることが出来ず、大人の男たちには怯え続け、衣食住の確保もままならない。そんな生活の害悪から守ってくれ、尚且つ自分たちに食料を恵んでくれる紺星の存在は母娘にとって希望だったのだ。
「でも?」
「でも、四年ぐらい前から急におかしくなったの」
「やっぱり四年前か」
凛人が殺された最初の事件の時期と、唯の母親である神奈の様子がおかしくなった時期が一致したことに、紺星は考え込むような表情をした。
「何だかその頃からいつも楽しそうで、何か質問しても全然的外れなこと言ったりして、お母さんじゃないみたいで。それにそんな時期が続いたある日、すごい怪我をして帰ってきたことがあったの」
「怪我?」
「そう。スラム街の人にやられたのかなって思ってお母さんを問い詰めたんだけど、それにも答えてくれなくて」
怪我という単語を聞いた途端、紺星と青花の二人は互いに顔を見合わせた。もし四年前に負ったその怪我が、凛人との戦闘によってできたものならば、神奈が犯人であるということになるからだ。
「ここ数年はその怪我を治すために良く寝込んでたんだけど、最近またよく外に出るようになって、なかなか帰ってこないの」
そこで紺星たちは確信した。唯の母親である神奈は、今回の事件で何らかの形で関与していると。そしてその関与の形が犯人というものである可能性があることを。
だがそんな可能性を娘の唯が勘付かないように、紺星たちは態度に出さないように注意した。
「分かった。俺たちも神奈さんを探しておく。それとこれを渡しておく」
「携帯?」
「俺の番号が入ってあるから何かあったらすぐに電話してくれ」
紺星が唯に手渡したのは普通の携帯電話だった。スラム街で暮らす唯に携帯などを所持する余裕などもちろんないので、紺星は自分の番号を登録しておいた携帯を唯に渡したのだ。
「分かった。ありがとう、キツネくん」
紺星の言った〝何かあったら〟の何かの意味を唯はしっかりと理解していたので紺星にお礼を言った。紺星はただ母親の様子などに変化があった時だけではなく、唯の身に危険が迫った時にも自分に連絡しろと言ったのだ。
唯にとって紺星はいつでも助けてくれる救世主のような存在で、いつも紺星に面倒をかけていることを申し訳なく思う反面、唯は紺星の厚意を嬉しく思い困ったように笑った。
「どうだった?」
「私たちの方は手掛かりなしでした。チンピラなら大量捕獲したのですが……」
紺星たちとは別行動をしていた十乃たちはめぼしい情報を手に入れることが出来なかったせいで肩を落としていた。とはいっても全てのユスティー隊員たちが数名のチンピラを捕獲してはいたので、全く収穫が無かったというわけでもなかった。
紺星たちが捕らえたチンピラたちは何台かの警察車両に詰め込まれており、まるで地獄絵図のようだった。
「容疑者と思われる人物を特定した」
「本当ですか!?流石隊長」
紺星が有力な情報を手に入れたことに各々反応を見せたが、声を上げ称賛したのは骸斗だった。
「あぁ。でも自宅にはいなかった。よってこれからその自宅を交代制で張り込もうと思う。最初は俺と青花。お前らは帰ってチンピラ共牢屋に入れたらユレの傍で休んでろ」
いつ神奈が帰ってくるかも分からない為、紺星はあの小屋の張り込みをすることにしたのだ。紺星と青花以外の隊員は帰宅してから休養を命じられたが、ユスティー隊員たちは分かっていた。
わざわざ負傷したユレの傍で、と言った紺星が自分たちを休ませる気など無いことを。要は余ったユスティー隊員たちでユレを守りながら、固まって行動しろという命令なのだ。
「「了解」」
それから一週間、神奈の家の張り込みをしたユスティー隊員たちだったが、神奈は一向に現れなかった。
紺星は情報特務課で神奈の情報を調べてもみたが、スラム街で暮らしてからの情報は手に入らず八方塞がりになってしまった。
因みに襲撃されたユレはすっかり調子を取り戻し、自分の治癒魔術で残った傷跡も綺麗に修復していた。ユレも犯人について気づいたことなどはなかったようで、紺星たちはこれからの方針を考えあぐねていた。
そんな日が続いたとある深夜。とある人物が情報特務課を訪れていた。各隊の隊長にしか入室を許されていない情報特務課にその人物が入室することは犯罪すれすれの行為で決して褒められるものでは無かった。
だがその人物にはどうしても知りたい情報があったのだ。違反を犯してまで知りたい情報が。
その人物――裕五郎は隠蔽魔術で周りの人間から姿を視認されないようにすると、情報特務課のパソコンにとある人物の名前を入力した。
雲雀羽草。それが裕五郎が情報を知りたかった人物の名前だった。裕五郎はユレの治療の際に羽草が高度な治癒魔術を行使したことを未だに疑問に思っていたのだ。
その秘密がこの情報特務課にあるかは分からなかったが、何か手がかりが見つかればと、裕五郎はこんな賭けに出たのだ。
検索結果は……出なかった。
(何故だ?何故名前を入力しても出てこない?)
裕五郎は何度も試してみたが結果は同じだった。裕五郎は諦め、情報特務課を退出した。
(考えられる可能性は三つ。一つ、総括の本名が雲雀羽草ではない可能性)
可能性の一つは入力ミス。総括の名乗っている雲雀羽草という名前が偽名である可能性である。本名を入力しない限り、その人物の個人情報は閲覧できない為その可能性は十分にあった。
(二つ、何者かが総括の情報を消去した)
基本的に個人情報の消去はその人物が死亡しない限り許されていないが、何者かが何らかの理由で総括の情報を辿れないようにした可能性も十分にある。
(そして三つ目……総括が、死んでいた場合)
その可能性を考えた時、裕五郎は歩みを止めた。
情報特務課で管理している個人情報は、生存する全ての日本国民の個人情報だ。つまり死亡している人間の個人情報は管理されていないということだ。
死亡している人間の個人情報についてはまた別の課が担当しているのだ。
だがその可能性は最も考えにくいものであると同時に、最も考えたくないものでもあった。
「確かめねぇとな」
裕五郎は早々と別の課へと向かった。向かったのは情報特務課と同じくビルの30階。課の名称は〝情報特務課二係〟。情報特務課とは違い、二係は死亡した人間の情報を管理している課なのだ。
死亡してから百年はその情報が消去されることは無い。そして情報特務課と異なる点は他にもある。
それは組織の人間であれば誰でも情報閲覧可能である点だ。生存する個人の情報を扱う情報特務課は厳しく制限されているが、死亡した個人の情報を扱う二係はそこまで厳しい制限がないのだ。
裕五郎が二係の扉を開けようとするより先に内側から扉が開かれた。扉を開けた張本人は情報特務課二係の男性職員だった。 その職員は身長190センチ程の長身で、体格の大きい裕五郎を見下ろすほどのものだった。だがその代わりに筋肉はほとんどついておらず、もやしという表現がぴったりの色素の薄い男性だった。
裕五郎は男性職員が自分の気配――魔力を感じ取って自分の存在に気づき、扉を開けたという行為に驚いた。
情報特務課というのは魔力を持たない、つまり戦闘能力のない人間が所属することの多い課だ。基本、魔力を持たない一般人は己が持たない魔力を感じ取ることが出来ない。
だがこの情報特務課二係の職員は裕五郎の魔力を感じ取った。つまりは魔力を保持しているということになる。そんなイレギュラーな存在に裕五郎は関心を持ったのだ。
「ユスティー隊員が何の御用ですか?」
「少し調べたいことがあってな。いいか?」
「別にそれは構いませんが」
その職員はユスティー隊員である裕五郎に物怖じすることなく話しかけた。裕五郎の用件を聞いた職員は情報特務課二係の入室を許可した。
裕五郎は室内のパソコンに先刻同様、羽草の名前を打ち込んだ。そしてエンターキーに指を置き、ごくりと喉を鳴らすとその指を沈めた。
裕五郎の目に映った画面に映し出された言葉は――
〝検索結果 一件 雲雀羽草〟
「どうなってんだ……?」
裕五郎はその画面を見た途端、冷や汗が止まらなくなってしまった。この情報特務課二係は死亡した人間の個人情報を扱う課だ。その情報特務課二係に雲雀羽草の情報があるということは、羽草は死亡しているということになる。
その事実がどれほど衝撃で、どれ程の恐怖で、どれ程の謎か、裕五郎は目の当たりにしたのだ。
「おい!これはどういうことなんだ?お前は知っていたのか?」
裕五郎はとっさに近くにいた二係の職員に切羽詰まった様子で尋ねた。職員は画面に映し出された情報を確認すると取り乱すことなく言った。
「この件に関して俺が言えることは何もありません。口止めされていますから」
「口止めって……誰にだ!?」
「それも言えません」
一向に口を割ろうとしない職員に対し苛立ちを感じた裕五郎は思わずその胸ぐらを掴んだ。だが職員はそれに対しても反応を見せず平然と裕五郎を見下ろした。
そんな職員の態度に裕五郎は諦めるしかなかった。舌打ちをしながら手を離すともう一度パソコンに向き合った。そして雲雀羽草の名前をマウスでクリックし、その情報を閲覧した。
「雲雀羽草……四年前に死亡……四年前?まさかっ!」
四年前。今回の事件の全ての始まりとも呼べる年。四年前、ユスティー隊員襲撃事件の始まりでもあるユスティー隊長殺人事件が起こり、一連の事件の容疑者である神奈の様子がおかしくなった。
その四年前に羽草が死亡しているという事実が今回の事件と無関係とは誰も言えない。その為裕五郎は最悪な可能性を考えてしまった。
「まさか……容疑者が総括に成りすましている……?」
羽草が死んでいるという事実がある以上、この四年の間に顔を合わせてきた羽草は本物ではないということになる。そうなると誰が羽草に成りすましているのか?という問題が発生してしまう。
その問題を考えた時、最も可能性が高いのが容疑者である神奈が変身魔術で羽草に扮しているというものだったのだ。
「だが容疑者は魔力保持者ではないはず……変身魔術をどうやって……協力者でもいるのか?」
紺星の知る神奈は娘の唯同様、魔力を持たない一般人のはずなので、普通に考えれば神奈が羽草に成りすますことは不可能だ。
だが単独犯でないのなら、これが可能になる。協力者が魔力を持つ者ならば神奈に変身魔術をかけることは可能だ。そもそも総括に成りすましているのがその協力者である可能性もある為、複数犯のという可能性は十分にあり得るものだった。
「兎に角このことを息子に伝えねぇと……」
羽草が死亡しているという事実を紺星に伝えようと裕五郎は席を立った。すると伝声魔術でその紺星から通信が来た。
『五郎さん、容疑者が現れた。すぐに来てくれ』
「!了解」
紺星からの連絡を受け取った裕五郎は容疑者捕縛のため、転移魔術で容疑者の自宅へと向かった。
その姿を目で追った二係の職員は開いたままの羽草の情報を見つめながらこう呟いた。
「……隊長、どうするおつもりですか?」
「久しぶりだな、神奈さん」
「…………」
裕五郎が到着した時には十乃とユレ以外のユスティー隊員全員が集まっており、その視線の先には容疑者である鈴森神奈の姿があった。
神奈はぼさぼさの長い黒髪を無造作に伸ばしていて、それだけで神奈がこのスラム街の住人であることが分かってしまう。だが娘の唯に似て大きな瞳が特徴の整った容姿を持った女性だった。
神奈は紺星の挨拶に目をぱちくりとさせるばかりでしばらく何も話さなかった。その様子を影から見ているのは青花の後ろで身を縮こませている唯だった。
「お母さん?」
唯がそんな風な疑問を零したのには訳があった。何故なら今まで沈黙を貫いてきた神奈が紺星をキラキラとした目で見つめると満面の笑みを浮かべたからだ。
「キツネくん!会いたかっっっっっっっっっっっっったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ♡♡」
スラム街中に神奈の甲高い声が響き渡った。そんな神奈をユスティー隊員たちは怪訝そうな目で見つめたが、紺星は取り乱すことなく声が消えるのを待った。
「俺も会いたかったぜ。アンタを取っ捕まえたかったからな」
「それほんとぅ?嬉しいぃ。私ね、キツネくんがあのクズに連れて行かれてから、本当に寂しかったんだよぉ」
紺星が神奈に会いたかった理由を無視した神奈は無邪気に喜んで見せた。一方ユスティー隊員たちは凛人のことをクズ呼ばわりされたことに怒りを覚えつつ、神奈の話を聞くことにした。
「キツネくんはこの街にとって、私たち母娘にとって、本当にかけがえのない、唯一無二の存在だったの。それをあの男が……あの憎き雅園凛人が……ぶっ壊したのよ。私の幸せを」
「それで、隊長を殺したのか?」
「うん!」
凛人への恨み言を語る神奈は先刻とは別人のような、低く重い声と鬼のような顔を見せた。だが紺星が凛人を殺害したのか確認すると、また元の晴れやかな笑顔に戻った。
その表情の変化はあまりにも狂気的で、唯はそんな母親を見ていられず瞼を固く閉じ、青花の制服の裾を掴んだ。
「だってあの男が死ねばユスティーは解散して、キツネくんが戻ってきてくれると思ったんだもん。でも警察はキツネくんを隊長とすることで事件を丸く収めちゃった」
「魔道具を使って殺したのか?」
「そう!体術や剣術は努力で何とかなるけど、魔術はそうはいかないから。魔術を封じたうえで私は己の力を高めてあの憎い男を殺してやったんだよ!」
神奈の話を聞いた裕五郎は掌に爪が食い込み、血が流れるほど拳を握り締めた。魔術を封じたところで、体術や剣術で勝っていなければ相手を殺すことはできない。それ故神奈は凛人を殺すその時まで、己の力を高めていたのだ。
「十乃やユレを襲うまでに四年も間が空いたのは怪我を治していたからか?」
「そうだよ。あの男、なかなかしぶとくて私の方も無傷って訳にはいかなかったんだよねぇ。傷を治してまた身体を鍛えるのに四年もかかっちゃった」
紺星は今回の事件で気になっていた点を尋ねた。唯の言った通り、神奈は凛人との戦闘後にひどい怪我を負い、それを治すために時間を費やしていたのだ。
「ユスティー隊員たちを襲い始めたのは、今度こそユスティーを消滅させるためか?」
「そうだよ!キツネくん以外を皆殺しにすればユスティーは消えてなくなるでしょ?」
四年の歳月を経て、神奈は今度こそユスティーと言う隊を消し、紺星を奪還しようと試みたのだ。ユスティー隊員を紺星以外皆殺しにするという方法で。
そんな理由で凛人を殺し、十乃やユレを襲ったという事実にユスティー隊員たちが怒りに震えていると、とある人物の声がした。
「そんなことをしても、ユスティーは消えませんよ」
その声の主はその場にいたユスティー隊員のものでも、唯のものでも、ましてや神奈のものでもなかった。
その声を聞いた一部のユスティー隊員はあまりの衝撃で動けなくなってしまった。それは唯や神奈も同様だった。だがそんな状況の中で動けるものが三人いた。
三人のうち二人は寛と骸斗。二人は声という情報だけではその人物を特定することが出来なかったのだ。だが声のする方へ視線を向けると、その人物の正体に気づき、他の隊員同様固まってしまった。
そして三人のうちの最後の一人は紺星。紺星はその声の主の登場に今まで見せたことの無いような、不敵な笑みを浮かべたのだ。
「う、嘘。嘘よ!そんなことありえないわ!」
沈黙が続く中、焦った様子でそう叫んだのは神奈だった。紺星以外が衝撃で動けなくなる中、最も恐怖していたのは神奈だ。何故ならユスティー隊員たちは恐怖からくる驚きではなく、喜びからくる驚きを抱えていたのだから。
慌てふためく神奈に対し静かな笑みを浮かべた声の主は更に続けた。
「何があろうと、ユスティーは消えません。紺がいる限り、このユスティーと言う隊は不滅なんですよ」
その言葉で現実を受け入れ始めたユスティー隊員たちは寛や骸斗のように、声の主の方を振り返った。青花はあまりの衝撃で涙を流した。福貴はいつもとは正反対のポカンとした顔で口を半開きにした。
そして裕五郎は――
「凛人……?」
再会を切望していた、己の弟の名を静かに呼んだ。
もう少しで完結予定です!