信じた正義の行く末
第三章完結です。
「また会ったな、揺川青花。この前は振られてしまったが、気は変わったか?」
「ふざけるな。拒否」
青花の前に現れた被疑者の男を青花は鋭い眼光で睨んだ。青花は以前あった際に男に勧誘されたことを思い出し、あの時の怒りが再燃してしまったのだ。
男はそんな青花の視線など気にも留めず、普段紺星が使っている机に腰を下ろした。男の行動に青花の怒りは更に増殖してしまった。
「そこに近づくな。下衆」
「あぁ……ここが隊長の席なのか、分かりやすい女だ」
睨みつけてくる青花をあざけ笑った被疑者に青花はすぐさま回し蹴りを食らわせた。被疑者はそれを片手で抑えると戦闘態勢に入った。
被疑者の狙いはやはり内田敦子で結界魔術で守られている彼女に視線をやった。青花はすぐに剣を取り出すと被疑者に向かって斬りかかった。
被疑者はその攻撃をかわすように剣を取り出し青花の攻撃を払った。両者はそれぞれ剣に魔術を組み込んで戦闘を始めた。青花は燃焼魔術、被疑者はそれに合わせて水流魔術を。
数分間、二人は剣による戦闘を続けたが二人の実力はほぼ互角で、このままでは埒が明かないと考えた被疑者は風魔術を青花に向かって放った。
青花はその攻撃を避けようとしたが、僅かな剣先にその攻撃が当たってしまい、青花が剣に組み込んだ燃焼魔術が青花に襲い掛かった。
青花はとっさに水流魔術を発動し燃焼魔術による負傷を防いだが、体勢を崩してしまい隊員たちの机に転がり落ちた。被疑者はその隙をついて電撃魔術を青花に放った。
「っ……」
青花は襲ってきた痛みに声にならない声を上げた。だが被疑者が油断したところを狙い拳銃で被疑者の肩を打ち抜いた。被疑者にもかなりの負担がかかったはずだったが、被疑者は以前と同じで大した反応を見せなかった。
青花たちは再び魔術を組み込んだ剣で戦闘を始めた。被疑者と違い、青花は全身にダメージを食らったせいで思うような剣撃ができないでいた。
「なんだ?ユスティーっていうのはこの程度の集団なのか?」
「っ……見くびるな。私は……揺川青花という人間は、この国最強の男が作り上げた女だ!お前如きに負け、師の恥さらしになど決してならない。絶対!」
青花は強い意志のもと、ぎらつくような瞳でそう宣言した。そんな会話を繰り返す間にも、青花は被疑者によって体中に傷を作られていた。青花はふと何かを思いついたような顔をすると、持っていた剣を真上に投げた。
青花の行動に一瞬気を取られた被疑者に青花は後ろ回し蹴りをした。被疑者がその攻撃に怯んだ隙に青花はとある魔術に意識を集中させた。
被疑者は動きを見せない青花に魔術を放とうとしたが、それは叶わなかった。被疑者は途端に苦しげな表情を見せると、両耳を塞いだ。
「なっんだ……これ……うわぁ!!!!」
被疑者は地面に膝をつくと激痛が走る頭を抱えて蹲った。被疑者の両耳、両目からは血が流れ吐血までする始末だった。被疑者が床に倒れ込んだのを確認した青花は、被疑者に放った魔術を止めた。
「な、なにを……した?」
被疑者は息も絶え絶えに青花の放った魔術について尋ねたが、青花はその質問に答える前に被疑者に捕縛魔術をかけたうえで手錠もかけた。
「私の一番の得意魔術。伝声魔術の戦闘版」
「なん、だと……」
被疑者は青花の答えに信じられないといった表情で驚愕した。伝声魔術は青花のように自分の声帯で話すことのできない人の日常会話や、遠くにいる人との通信を可能にするなど、主に会話のために魔術だ。その魔術を戦闘に使うなど、被疑者は聞いたこともなかった為そんな反応をしたのだ。
「人間が耐えられない程の超爆音を伝声魔術によって耳と頭に送ることで、鼓膜や脳にダメージを送り様々な影響を及ぼした。解説」
「そんな、とんでもない魔術が存在していたのか……」
青花は手放した剣を拾うと被疑者を倒した魔術の種明かしをした。被疑者は未知の魔術との遭遇にどこか遠い目をした。
「因みにこの戦い方を提案してくれたのは紺。葛城紺星という男に育てられた私と対峙するとはこういうこと。補足」
青花は治癒魔術で自分の怪我をある程度治すと、どこか誇らしげに破顔した。そんな青花の表情を見た被疑者は戦意を喪失したようでがっくりと項垂れた。
「居なくなった被害者たちの子供は、今どこにいんだろうな」
警察組織のビルを襲ってきた敵をあらかた片づけた紺星は行動を共にしているユレにそう尋ねた。今回の事件の被害者は子供に虐待をしていた人物ばかり。その子供たちが全員行方不明なのだから、当然犯人が連れ去ったと考えて良い。紺星はその子供たちの安否を心配していたのだ。
「犯人は子供に虐待していた親を執拗に狙ってるんだからぁ、子供は丁重に扱ってるんじゃなぁい?」
紺星はユレのそんな回答に何かを考えこむようにして動きを止めた。すると紺星は重要なことを解き明かすために状況を整理することにした。
「……なぁ、虐待を受けている子供にとって一番安全な場所ってどこだろうな?」
「うーん、やっぱりぃ、児童養護施設とかじゃなぁい?」
ユレは紺星の問いに一般的な答えを述べた。紺星の質問は言い換えれば今どこで子供たちが生活しているのかということだったのだ。
「なぁユレ。実はココなんじゃないか?」
「ココぉ?」
「子供たちにとって一番安全な場所、それは俺たち警察なんじゃないのか?」
紺星の言葉にユレは驚きで目を見開いた。だがすぐにユレは納得したように口元を押さえた。
「善良な一般市民、特に子供は俺たちにとって保護の対象だ。今回の被害者の子供が警察内で見つかれば、当然俺たちはそいつらを保護し、ゆくゆくはユレの言ったように児童養護施設に預けるだろう。それ自体が犯人の狙いだったとしたら、今子供たちはこのビルの中にいるってことにならねぇか?」
「ちょっと待ってぇ、紺ちゃん。部外者が警察に侵入して長い間子供を匿うなんてぇ、現実的に考えて無理なんじゃなぁい?」
ユレの意見はごもっともだった。紺星の言うように虐待を受けている子供にとって警察という組織はこれ以上ない砦だ。だが最初の事件が起きた一か月前から被害者の子供を警察内で匿っていたとすると、それはあまりに無謀な計画なのだ。
「部外者じゃなければ、どうだ?」
「っ……まさか、警察に裏切り者がいるってことぉ?」
紺星の発言にユレは鳩が豆鉄砲を食らったような反応をした。紺星は今回の事件の犯人側に警察組織の人間がいると考えているのだ。もしそうならば、子供を組織のどこかに隠しておくことも不可能ではないうえ、見つかった時はついさっき発見して保護していたとでも言えばどうにでもなる為、一石二鳥なのだ。
それに加え、青花が最初に戦闘した被疑者は何故かユスティー隊員のことを詳しく知っていた。仲間に警察の人間がいるのなら、その人物から情報を得ることは容易なため辻褄が合うのだ。
「だがそれを裏付ける証拠が……」
紺星の言葉は青花からの伝声魔術によって遮られた。紺星は青花からの通信に耳を傾けると青花に話しかけた。
「どうした?青花」
「私が捕縛した男――前に戦闘した被疑者が一応のボスだった。事情を聞いたら洗いざらい吐いた。今回の事件には必要不可欠の協力者がいたらしい。その人物が……」
「警察の隊員だったか?」
「!流石紺。どうして分かったの?疑問」
青花は被疑者を捕縛した後、その男の事情聴取を行ったのだ。男から聞き出したとんでもない事実について紺星が勘付いていたことに青花は感嘆の声を上げた。
「まぁそれは後で。その隊員が誰か話したか?」
「全部白状した。今回の事件の協力者は――」
紺星は青花から犯人側に協力した隊員を聞き出すと、すぐにその隊員の所属する隊へと転移魔術で向かった。紺星が訪れたのはビルの45階、〝ロウブ〟の本拠地だった。
ロウブとは、主に窃盗事件などを管轄にする隊でユスティーが担当する程の窃盗事件でない限り、その全てをこの隊が担っているのだ。
紺星はロウブという隊の名称が記された扉を開けた。すると紺星の目の前に現れたのは五人の子供と、この隊の隊員らしき男だった。
隊員は成人男性の平均身長ほどの背丈に、一重の目がバッチリ確認できるオールバックという髪型だった。服装はロウブの灰色で統一された制服で、男の容姿の地味さを更に強調させるものだった。
部屋の中で固まっている子供は男児三人と女児二人だった。最初の被害者夫婦の子供は男児と女児の二人、五人目の被害者と内田敦子の子供も男児と女児の二人、そして最後の被害者である小野田亮には一人息子がいた為、全ての被害者の子供が揃っているということになる。
紺星はその子供たちの顔を一通り見ると、目の前の隊員に視線を向けた。
「小野田悠っていうガキってどいつだ?」
「?そこの男の子ですが」
「ふーん」
隊員の男は自分ではなく、子供についての話を切り出されたことに首を傾げたが、紺星の質問に素直に答えた。紺星は隊員が指差した男児を何故か凍てつくような目で見つめた。隊員は紺星のその態度に更に疑問を抱えたが追及はしなかった。
その子供、小野田悠はくりくりとした黒目に黒髪のどこにでもいる可愛らしい容姿の男児だった。だが子供にとって、この訳の分からない状況下でも悠は全く動揺の色を見せていなかった。
「駒野霧栖だな。被疑者たちのボスが全部自供した。言い逃れはできねぇからな」
「……なんだ、そうなんですか。残念ですね」
紺星が問い詰めると、霧栖は拍子抜けするほどあっさり罪を認めるような発言をした。紺星は少し面食らったような表情をしたが、すぐに霧栖の手首に手錠をかけた。
「駒野霧栖。連続殺人計画の容疑で逮捕する」
紺星は手錠をかけ終えると、近くにあった椅子に腰を下ろした。すぐに警察内の監獄に連れて行かれると思っていた霧栖は、紺星の行動が予想外だった為ポカンとした表情で立ち尽くした。
「今回の事件。子供に虐待をする親を罰すること、そして何より子供たちの生存のために行ったのか?」
「えぇ、そうです。今回の事件には多くの人間が関わっていますが、ほとんどがその目的を知らない者たちです。知っているのは自分が過去にそういう経験をしてきた者たちだけです」
「お前も虐待されていたのか?」
今回警察を襲撃してきた人数は確実に百単位だった。その全てがこの事件の真髄に関わっていた訳ではなく、適当に寄せ集めただけの集団だったのだ。
その中で事件の目的達成のために犯罪に手を染めた人物はそう多くはなく、またその全てが過去に親に虐待を受けていたのだという。紺星は霧栖もその一人だったということに勘付いていたのでそれ程表情は変えなかった。
「俺の場合はきっちり警察が両親を逮捕してくれたので、そこまで悲惨じゃなかったですがね」
紺星は霧栖のその経験が警察に入隊し、今回の事件に関わった理由なのだろうと察した。自分を苦しめた両親を捕まえてくれた警察に憧れたが、虐待を行う親に対する復讐心が消えることは無かったのだろう。
「ならどうして小野田亮を殺したんだ?」
「……何を言ってるんですか?そんなの、小野田亮もそこの悠くんに虐待をしていたからに決まっているでしょう」
霧栖は紺星の言動の意味が全く理解できず、眉を顰めながら悠に視線を移した。霧栖は何故ユスティーの隊長がそんな愚問をしてくるのかが分からなかったのだ。
「俺たちユスティーが小野田亮の家を調べている時、ある違和感を感じたんだ」
「違和感?」
紺星は三日前に捜査した際に感じた違和感について霧栖に話し始めた。霧栖は先刻の紺星の疑問と今の話に何の繋がりがあるのか理解できず首を傾げた。
「あぁ。だがようやくその違和感の正体が分かった。実は小野田家にあった刃物やらライターやら重くて硬い物やらが、何故か全て大人でも踏み台無しでは届かないほど高い場所に保管されていたんだ」
「……?」
紺星が部屋の違和感に気づき、部屋中を調べた際に気づいたことがそれだったのだ。
「日常的に使うハサミや包丁なんかも全部そういう高い場所に置いてるなんて不自然だろ?」
「確かにそうですが、それが何なんですか?」
霧栖自身、確かに日常生活でよく使う物をそんな面倒な場所に保管していたことに違和感を感じたが、それがこの事件と何の関係があるのだろうかと疑問を口にした。
「この違和感に加えて、部屋から見つかった傷薬の処方箋で俺はあることに気づいた」
「傷薬の処方箋?彼と小野田亮の妻のですか?」
霧栖は彼――悠に視線を向けてそう尋ねた。霧栖は小野田宅で妻の紗英が殺されていたことを知っていたようで、紗英も被害者から暴力を受けていたのではないかと予想をつけていた為、悠と紗英の処方箋だと思ったのだ。
「いや、小野田亮を含めた三人全員の処方箋だ」
「え……?」
霧栖は紺星の言葉で信じられないといった表情になった。暴力を与えていた側であるはずの小野田亮が何故傷薬を購入したのかが霧栖は理解できなかったのだ。
「極めつけは部屋の収納スペースに遺棄されていた妻の遺体の状態だ。死因は首を絞められたことによる窒息死。だが首を圧迫した時に付いたであろう犯人の痕跡は何故か小さかった。これがどういうことか、お前に分かるか?」
「……まさかっ……」
紺星たちが発見した小野田紗英の遺体を詳しく調べた結果、首を絞められたことによる窒息死だと判明したのだ。そして犯人が首を圧迫した際に出来た手の痕は何故か大人のものとは思えないほど小さかったのだ。
「なぁ、小野田悠。小野田紗英を殺したの、お前だろ?」
「……だったら何?刑事さん」
紺星の重く冷たい追及に、悠は悪びれることもなく肯定した。霧栖はみるみるうちに顔色を悪くし、困惑と恐怖の表情で悠を見つめた。
「どうしてっ……」
「つまりだ。暴力を振るっていたのは被害者じゃなく、息子であるコイツだったってわけだ。部屋にある危険物が全て高いところに置いてあったのは暴力的な息子にそれらを使用されると困るから。処方箋が全員分あったのは多分、息子から暴力を受けていた夫妻が息子を止めようとした時にでも軽く怪我させちまったってところだろうな」
「へー、刑事さん、強そうなのに頭もいいんだね」
霧栖の困惑の声に紺星は小野田家で起こった事件のあらましを説明した。紺星の推測は的中していたらしく、悠は感心した様に紺星を称賛した。
「どうして母親を殺したんだ?」
「毎日毎日ビービー泣いててキモかったから」
自分の一人息子が両親に暴力を振るうような人間だったとしたら、誰だって泣きたくもなるだろう。にも拘らず平然とそんなセリフを吐いた悠に霧栖は嫌悪感を露わにした。
「あそこに隠そうと思ったのは何故だ?」
「あれを提案したのは俺の父親。別に俺は遺体なんてどうでも良かったんだけど」
「なるほどな。息子のお前をかばおうとしたんだろう。防腐魔術をかけたのはお前か?」
「そ。腐敗臭とかしたら嫌じゃん?」
「だが防腐魔術はかけない方が正解だったな。あの魔術のせいで半年前に死んだはずの小野田紗英の身体は何の変化もしなかった。そのせいでお前の手痕が綺麗に残ってたんだからな」
「らしいね。失敗したよ」
父親である小野田亮は、いくら自分たちに暴力を振るい続け、あまつさえ妻を殺した人間であろうと息子である悠のことを見捨てることができなかったのだ。
だからこそ被害届も出さず、妻が死んだという事実も隠そうとした。そして防腐魔術をかけたのが悠だと思ったのには紺星なりの理由があった。
いくら日常的に大人に暴力を振るっていたとしても、子供が大人の首を絞め殺すのはパワー的に難しい。なら悠は身体強化魔術を施せるほどの魔術の使い手なのでは?と紺星は考えたのだ。
それ程の使い手なら防腐魔術を行使することも簡単にできてしまうだろう。その為紺星は悠が防腐魔術をかけたのではないかと推測したのだ。
「にしても母親は息子である俺に殺されて、父親は意味分かんない連中に暴力男だって勘違いされてあんな惨い殺され方するなんて……あはっ、腹が壊れそうなぐらい笑えるよな」
狂気的な笑みを浮かべながらそんな暴言を吐いた悠を目の当たりにした霧栖は思わず膝から崩れ落ちた。当然である。自分たちが信じた正義のために犯罪に手を染めたというのに、自分たちのルール内でも殺すべきでなかった人物をあんな風に殺めてしまったのだから。
寧ろ殺すべきだったのはこの狂った少年だったのだと霧栖は気づいてしまったのだ。紺星はケラケラと笑い続ける悠の顔を片手で掴むと、思いっきり自分の顔すれすれまで近づけた。
「おいガキ、てめぇの感情もコントロールできねぇようなお子様は、反省というものを覚えない限り同じことを繰り返す。お前が大人になって少年院を出た頃、また同じような胸糞悪い面見せてたら俺が確実にお前を監獄に入れてやるから覚えておけ」
「……あっそ」
紺星の突然に行動によって固まってしまった悠に紺星は低く重い声でそう叱責した。悠はそんな紺星を軽く睨みつけると、大した反論の言葉が出てこなかったのかそう軽く返した。
霧栖はそんな紺星たちの様子を呆然と眺めながら、自分が犯してしまった罪の大きさに打ちのめされ、自分の身体の重みを普段の何倍も感じていた。
主犯と警察内の協力者を逮捕したことでユスティーは今回の連続殺人事件にピリオドを打つことができた。やはり動機は虐待をする親に罰を下すためと、その子供を救うためだった。
最後の被害者に関しては犯人側の勘違いによる悲劇だった為、主犯の男も十分に罪を償うだろうと紺星は思った。
一方実の母親を殺した悠は少年院送りとなった。そして本当に虐待を受けていた子供たちは適切な精神治療を受けた後に児童養護施設で生活することになった。
「私を産んだ二人は、私がいなくなったことで子供への虐待をしなくなった。何故標的にされた?疑問」
「多分それは駒野霧栖がお前の生い立ちを知っていたからだろう。昔虐待を受けていた警察組織の仲間としてアイツらを葬ってやりたかったんじゃないか?」
事件が解決した翌日、ユスティーの本拠地内で二人きりになった紺星と青花は事件についての会話を始めた。
青花の生みの親以外の小野田亮を除いた被害者は、全て現在進行形で虐待をしている者たちだった。にも拘らず犯人側の標的にされたことが青花には納得できなかったのだ。
紺星はそんな青花に自分の推測を話した。憔悴しきった今の霧栖に事情を聞こうにも無理があったので紺星の推測の域は出なかったが青花はそれで納得した。
「裏切った癖に余計なお世話。嫌悪」
「まぁそういうなよ。余計なお世話っていうのは同感だけどさ」
「同類」
「だってお前、アイツらのことなんてもうどうでもいいだろ?」
「もちろん」
不貞腐れた青花を紺星は眉を下げながら宥めた。青花自身、自分を過去に苦しめていた存在に欠片の興味もなかったので、すぐに機嫌を直し破顔した。
紺星は今回の事件で青花に何か悪い影響が及ぶのではないかとほんの少しだけ危惧していたのだが、今の青花の笑顔を目の当たりにしてただの杞憂に終わったことを心の底から歓喜した。
第三章は割と短かったですね。すいません。
次回から最終章になりますので、どうぞよろしくお願いいたします。