正義の制裁
時間軸が元に戻ります。
「――こんな感じで私の名前は揺川青花になった。理解?」
「……はい」
青花の昔話を一通り聞き終えた志展は、しばらくの間暗い表情になってしまった。その最大の理由は以前総括である羽草に言われたことの意味を真に理解してしまったからだ。
〝君の過去より不幸な人間などいくらでもいる〟羽草が志展と会った際言ったことを志展は思い出したのだ。あの発言にはきっと青花も含まれていたのだろう。そのことに志展は気づいたのだ。
志展は一瞬でも自分と青花が似た境遇なのではないかなどと、浅はかな考えを持ったことが恥ずかしくなり頭を抱えた。
「……ん?そういえば、苗字はどうして揺川なんですか?」
青花の昔語りについて一つ分からないことがあった志展は直球で青花にそれをぶつけた。青花の話の中では名前の意味までは語られたが、姓の意味までは分からなかったからだ。
「あぁ、紺曰く……〝テキトー〟……らしい」
「そこはテキトーなんですね」
青花は志展の質問に変声魔術で紺星の声を真似て答えた。青花の答えに志展は苦笑いする他なかったが、よくよく考えれば志展の苗字の永浜も、紺星が潜入捜査した際に使ったものを取ってつけただけだったことを思い出したので、志展は異様に納得してしまった。
青花と志展がそんな会話をしていると、総括から呼び出されて席を外していた紺星が漸く戻ってきた。紺星の表情はどこか真剣だったが、暗いという訳でもなかったため青花たちは首を傾げた。
「青花、お前からすればどうでもいいことかもしれんが、一応報告しておく」
「なに?」
「お前を生んだ奴らが……死んだ」
「……そう」
紺星からの報告に驚愕の表情を見せたのは志展ただ一人だった。だが志展が真に驚いていたのは、青花の生みの親が死んだという事実より、そのことに何の反応を示さない青花に対してだった。
青花は表情一つ変えることなく紺星からの報告を受け入れたのだ。それ程までに青花にとってその人物たちはどうでもいい存在だったのだ。きっと隣にいる志展でも青花の生みの親と比べれば、青花にとって百倍重要な人物だろう。
それ程までに青花は名前も知らない生みの親のことなど、微塵の興味もなかったのだ。
「で、本題はここからなんだが」
「?」
青花の生みの親が死んだことこそが本題だと勘違いしていた為、志展たちは紺星の発言に疑問を持った。青花は自分を生んだ大人が何か重大なことに関わっているのかと眉を顰めた。
「そいつら、連続殺人の被害者の一人になっちまったようなんだが……」
「ユスティーの管轄になった?推測」
青花の推測はズバリ的中していたようで、紺星は静かに頷いた。青花の生みの親は他の隊が手に負えない程の連続殺人事件に巻き込まれてしまったようで、総括はそのことと管轄がユスティーになったことを紺星に告げたのだ。
「って訳でこれから捜査会議するから志展の稽古はここまでな」
「あっ、はい。ありがとうございました」
「志展も仕事気張れよ」
稽古のお礼を丁寧にした志展の頭を撫でながら紺星はそう言って志展を鼓舞した。志展はそんな紺星の行為が予定外過ぎて身体を硬直させながら激しく頷いた。
そんな二人の様子を青花は微笑みながら眺めていたが、心中はこれから捜査が始まる事件に対する執念で燃えていた。
「こーんーさーまぁぁ!」
「うざい……ていうか毎回やってて飽きねぇの?」
例の如くユスティーの本拠地の扉を開けた紺星に飛びついてきた十乃を、軽く避けた紺星は呆れたように呟いた。青花は何とも言えない表情で十乃を見下すような形になっていた。
「はい、もちろん!私は紺様を……あ、あ……愛しておりますから(チラッ)」
「あっそ」
「リアクションうっす!」
十乃は頬を染めながら細々とした声+上目遣いで紺星に公開告白したが、紺星にはあっさりスルーされたので十乃の作戦はいつものように失敗に終わった。
そんな十乃を尻目に仕事のできる男福貴は、ホワイトボードや資料を用意してパパっと捜査会議の準備を進めていた。
「福貴、サンキュな」
「いえいえ」
「おい十乃。俺に好かれたきゃ、ああいう細やかな気配りをしろ。俺的好感度はお前より福貴の方が上だ」
「「ぶっ」」
福貴にお礼を言った紺星は十乃にそんな爆弾助言をした。紺星の発言にその場にいたほぼ全員が吹き出し、福貴は何とも言えないような顔になっていた。
「そそそ……そんな……まさか私のライバルは、福貴さん……?おっ男同士で……そもそも福貴さんは既婚者……不倫びーえる……?」
「アホだな」
「アホがいる」
「こいつアホだ」
「アホ変態、確定」
紺星の冗談を真に受けた十乃の反応に、紺星、骸斗、寛、青花はほぼ同じ反応を見せた。冗談と言っても十乃より福貴の方が紺星の好感度が高いという点は事実なのだが、十乃の思う好感度とは違う種類ということに全く気付いていない時点で、十乃のアホ変態認定は確定的なものになった
「はいはい皆さん。私を使って十乃さんを揶揄わないでください。捜査会議を始めますよ」
紺星のせいでとばっちりを受けた福貴は両手を叩いてユスティー隊員たちに合図をした。その合図で各々自分の席に座りホワイトボードに視線を移した。
そんな中十乃は一人悶々としていたが、ユスティー隊員満場一致でスルーに徹することにした。ホワイトボードには被害者の写真が五枚張られていて、その下に名前と年齢、職業が書かれていた。
その写真の中には青花の生みの親も当然いた。写真の下には〝齋藤真司、42歳、無職〟〝齋藤照美、40歳、無職〟と書かれていた。
その文字から初めて青花は生みの親の名前と年齢を知ったのだ。青花にとってそれは、もはや親の名前でも何でもなく、ただの連続殺人事件の被害者の名前としか認識されなかった。
「……弱そう」
ポツリと青花が呟いたのを聞き逃した者はいなかった。上の空状態だった十乃でさえもその呟きを拾ったのだ。その言葉は青花が齋藤夫婦の写真を見て感じた素直な感想だった。
青花にとって生みの親とは、自分を絶対的な暴力で支配してきた存在で、こんなにもすぐに屈服させることができそうな弱い人間ではないと青花は認識していたのだ。
寧ろこんな相手に昔の自分は恐れを感じていたのかと思うと、青花は自分に対する激しい嫌悪感に襲われた。そんな青花の心情を察した紺星は青花の頭をポンポンと撫でた。
「お前が強くなったんだろ?」
「っ……うん」
青花の生みの親が弱くなったわけじゃない、青花が強くなっただけなのだから。紺星は青花にそれを伝えた。青花は紺星の言葉に破顔すると、深く頷いた。青花は紺星のおかげでここまで強くなれたという事実を改めて噛みしめたのだ。
「被害者は今のところ五人みたいだが、この事件が連続殺人と呼ばれる根拠は何なんだ?」
まだこの事件について詳しいことを知らなかった裕五郎はそんな疑問を口にした。被害者たちは年齢や職業もバラバラで、共通点が見つからなかったからだ。
「まぁこの事件において連続殺人と呼べる根拠は二つあります。まず最初に分かりやすいものが、被害者の殺され方です」
福貴は裕五郎の質問について説明を始めた。そしてユスティー隊員にも分かるように、遺体として発見された時の写真をホワイトボードに張り付けていった。
「惨いな」
被害者全員の骸を見た紺星は素直にそう言った。被害者たちは全員、頭部と四肢全てを切断されていて、所謂バラバラ死体になっていたのだ。
そしてこの事件が連続殺人だと決定づける根拠は被害者たちの背中にあった。バラバラにされ、残ったその背中には刃物で傷つけてつけた赤い鮮血の文字でこう書かれていた。
〝この世の害虫に正義の制裁を〟
「……この世の害虫に正義の制裁を……か」
「被害者全員の背中にこの文字が刻まれていたことから、この事件を同一犯による連続殺人事件として捜査を始めたらしいです。そしてこの言葉はこの事件を連続殺人だと呼ぶ二つ目の根拠につながっています」
「どういうことだ?」
紺星がぽつりと呟くと、福貴は事件についての説明を続けた。そして二つ目の根拠について説明しようとすると、寛から疑問の声が上がった。
「この連続殺人の被害者全員が、“この世の害虫〟と呼ばれるにふさわしい程のことをしていたんですよ」
福貴のその言葉に誰よりも反応したのは青花だった。それもそうだ。青花は被害者のうち二人の邪悪さを誰よりも理解していたからだ。他の被害者も青花の生みの親のような人間だったと聞けば、青花が反応するのは必至だったのだ。
「脅迫、虐待、レイプに人身売買……言いだしたらキリがないですが、この被害者たちは立場や力の弱い存在に殺されても文句は言えないようなことを散々やって来た連中だったらしいです」
「なるほどな……」
“この世の害虫に正義の制裁を〟という犯人からのメッセージの意味を理解した紺星は納得の声を上げた。被害者たち全員が青花の生みの親のようなことをしてきたのなら、誰かから恨みを買うことなんて日常茶飯事だっただろう。
紺星はこの事件がユスティー管轄になった理由を漸く理解できた。あまりにも容疑者が多すぎて他の隊では手に負えなかったのだろう。
「めぼしい容疑者はいるのか?」
「それが、疑い始めると全ての人間が容疑者に見えるような状態で、これという人物は……」
紺星の問いに福貴は苦い顔をしながら答えた。苦しい現状に、紺星は考え込むようにおでこに手を当ててしばらく動かなかった。
「ま、被害者の誰かに恨みを持った人間の犯行とは限らないしな。こういう非人道的な人間を殺すのが目的の奴の仕業かもしれないし」
「それだと余計に容疑者増えちまうじゃねぇか」
紺星の意見に寛はとても嫌そうに目を細めた。偏った正義感で被害者のような人間を殺しているような人物が犯人なら、被害者とは全く関係のないところからも探らなければならないのだ。
「……なぁ福貴。この被害者全員が共通して行っていた悪行って何かあるか?」
「それが……被害者全員には子供がいて、虐待をしていたらしいです」
福貴から発せられた事実に青花はまたもや反応を示した。つまり犯人は虐待をしてきた人間を執拗に狙っているということ。青花のように虐待を受けた経験のある人間が犯人かもしれないと、青花は身構えたのだ。
「被害者の子供たちは?」
「何故か全員行方不明らしいです。犯人が連れ去ったとしか考えられないですが」
「その子供全員が犯人だったりしてな」
福貴の予測を上塗りするようにとんでも発言をしたのは紺星だった。だが青花は何となくそうかもしれないと思い始めていた。自分も経験したからこそ、あの生き地獄から抜け出せるのなら例え子供だろうと、何でもできてしまうと。
「ま、冗談だけど」
「どっちなんですか……」
「あのバラバラ死体、魔術でやったんじゃないだろ?」
「えぇ、傷口から魔法の反応は無かったようです」
「魔術使ったんならともかく、虐待を受けてきた子供が物理的な力で人をあんなバラバラにはできねぇだろ。まぁ俺ならできるけど」
「「あーー……」」
誰一人として否定する者はいなかった。あのバラバラ死体が魔術によるものでは無いのなら紺星の意見が妥当だった。何より紺星は青花という人間から虐待を受けた者がどういう身体をしているのかをよく知っていた。
虐待を受けている者は精神的にも肉体的にも疲弊しているため、強くなりたくても鍛錬などできないのが現実なのだ。紺星のように子供の頃から戦いに身を投じているのならまだしも、そんな子供に大人をバラバラにする力などあるはずないのだ。
「子供が事件に関わっているにしてもいないにしても、必ず大人一人以上がこの事件には関わっているだろうな」
「そうですね」
紺星の意見に福貴は同意を示した。そんな福貴の言葉が耳に入っていないかのように、紺星は被害者の情報を凝視していた。そして紺星は何かを考えこむように口元を押さえた。
「……なぁ。第一第二と、第三第四の事件はそれぞれ夫婦が被害者なのに、五人目は何で夫の方だけなんだ?既婚者だろ?」
紺星が引っ掛かっていたのは五人目の被害者が他の四人とは違った点だった。確かに第一第二の被害者は近藤夫妻、第三第四の被害者は青花の生みの親である齋藤夫妻なのに対し、第五の被害者は夫だけだったのだ。
「この事件を担当していた隊も五人目の被害者の妻を調べたらしいのですが、虐待をしていたという証拠は出てこなかったらしいです」
「じゃあその妻が白だったから犯人に見逃されたんじゃねぇの?」
福貴はユスティーの前にこの事件を捜査していた隊の報告を告げた。五人目の被害者の妻自体も虐待を否定していた為、寛の意見も一理あった。
「……虐待を受けているのに、ずっとそれを見て見ぬふりをされたら子供はどう思うんだろうな?」
「……誰も信じられなくなる。確実」
紺星の呟きに青花は小さな声で返した。それを聞いたユスティー隊員たちは静まり返ってしまった。青花自体は生みの親どちらからも虐待を受けていた為、見て見ぬふりをされるという状況の辛さは知らなかったが、この中で最もそれを想像できたのだ。
「仮に虐待をしていなかったとしても、子供が暴力を受けているのに見て見ぬふりをした奴を今回の犯人が見逃すんだろうか?」
「私が犯人だったらそんなぬるいことはしない……多分」
紺星の問いに青花は冷めた目でそんなことを言った。だがそれが包み隠すことの無い素直な青花の心情だったのだ。紺星は青花の意見に頷くとおもむろに立ち上がった。
「五人目の被害者の妻の護衛を総括に提案しようと思う。そいつから有益な情報でも聞き出せれば一石二鳥だしな」
「「了解」」
紺星の意見には皆賛成だったようで、息の揃った声でユスティー隊員たちは了解した。こうしてユスティーは六人目の被害者になりうる人物の護衛をすることで犯人逮捕を目指すことになったのだ。
総括である羽草からの了承を得た紺星たちは、五人目の被害者の妻――内田敦子の護衛を始めた。護衛と言っても姿が見える離れたところから行動を監視するようなもので、傍から見ると容疑者を追っている刑事のような状況だった。
ユスティー隊員なら例え離れた場所からだろうと護衛を完璧にこなす為、寧ろ近くで護衛をすると犯人が警戒してしまう恐れがある為それを避けたのだ。
内田敦子は30歳のどこにでもいそうな主婦で、以前夫からDVを受けていたらしい。だが子供が生まれてからはその暴力の矛先が子供に向いた為、敦子は内心ほっと胸を撫で下ろしたのだ。
だが毎日毎日夫に苦しめられる子供を目の当たりにし止めようと考えたが、DVを受けていたころの記憶が過ぎり、見て見ぬふりをしてしまったようだった。
ユスティー隊員たちは二人ずつ敦子の護衛をしていた。そして一定時間を過ぎると他の隊員二人と交代するといった感じで護衛を進めたのだ。
現在担当しているのは青花とユレ。青花もユレも常人と比べれば超人的な戦闘能力を秘めていたが、ユレは治癒魔術を得意とする治癒師だ。ユスティー内の戦闘力を考えれば今の組み合わせは最強と呼べるものでは無かった。
犯人の実力が不明なこともあり、青花は神経を鋭くしながら護衛に挑んでいた。ユレはそんな青花の眉間に寄ったしわを撫でるとにっこりと破顔した。
「青ちゃん、可愛い顔が台無しよぉ。大丈夫ぅ、私もできるだけ頑張るしぃ。それにぃ、青ちゃんがどんな怪我をしても私が治してあげるからぁ」
「……ありがとう」
青花にとって母代わりのようなユレの言葉に、青花は強張っていた顔を緩ませた。青花はユレが決して弱くないことを知っている為、犯人に対して過敏になり過ぎるのはユレに対して失礼だと考えたのだ。
そんな会話をしていると護衛対象の近くに突然ある男が姿を現した。男は深い青色の短髪に平均より少し低めの身長、とてもシンプルな格好をしていた。
「転移魔術?」
青花は突然現れた男が使ったであろう魔術に目を丸くした。転移魔術はそう簡単な魔術ではない。ユスティー隊員でこそ全員が使える魔術だが、一般人にとっては夢のような代物で使える者は限られているのだ。
青花とユレは男が現れてすぐに転移魔術で護衛対象に近づいた。敦子は突然現れた男とユスティー隊員に腰を抜かしていて、ユレはそんな敦子をかばうような態勢になった。一方男は警察が現れたことは想定内だったのか、大した動揺も見せず青花に視線を向けた。
「ユスティー隊員の、揺川青花に浅見ユレ」
「!どうして私たちの顔を知ってるの?疑問」
ユスティー隊員は名前こそ公表されているが顔も年齢も性別も名前以外の情報はトップシークレットな隊で、一般人がユスティー隊員の顔を見分けることなんて不可能なのだ。
にも拘らず、青花とユレの名前を言い当てた被疑者に青花は疑問の声を投げかけた。被疑者はその質問に答えることなく、青花に襲い掛かった。
被疑者は小型のナイフを取り出すと素早い動きで青花に斬りかかった。青花は被疑者と同じようなナイフでは無く長い日本刀しか所持していなかった為、拳銃を取り出してナイフの攻撃をかわしていった。
被疑者は素早い動きにも拘らず、一撃一撃が重く青花の拳銃にはたくさんの傷がついた。この状況を拳銃を作った福貴が見れば卒倒してしまうことだろう。
青花は攻撃をかわしながら“風魔術〟を被疑者に向かって放った。被疑者は風に飛ばされたが、空中でくるりと回転すると綺麗に地面に着地した。
青花は被疑者が着地した一瞬の隙をついて拳銃を発砲したが、被疑者はその攻撃さえもくいっと首を曲げることでかわした。青花が被疑者の実力に目を見張っていると、被疑者が口を開いた。
「揺川青花。お前は幼少期、虐待を受けていただろう」
「だからどうしてユスティー隊員のことを知っているの?疑問!」
青花は被疑者に尋ね返すと、日本刀で被疑者のナイフを弾いた。被疑者は武器であるナイフを失ったことで先刻とは一転、青花からの攻撃をかわすことになった。
「醜い大人たちに苦しめられてきたお前になら分かるだろう?あいつらはこの世の害虫だ。排除しなければならない」
被疑者は青花の素早い剣撃をかわしながら青花に話しかけた。青花は被疑者の言葉に顔を顰めたが、攻撃の手を止めることはなかった。
「俺たちの仲間にならないか?」
その言葉で青花の堪忍袋の緒が一瞬で切れた。青花はこれまで見せたことの無いような凍えそうな目で被疑者を睨みつけると、日本刀に燃焼魔術を組み込みんで斬りこんだ。
その攻撃で漸く被疑者の左肩に少しの傷をつけることに成功した青花。被疑者はその痛みにも大した反応を見せなかった。そんな被疑者を見た青花は直感的に理解した。この男は痛みに慣れている人間だと。
「……ふざけるな。私の仲間はあの時から……ずっと、紺たち以外にありえない。絶対!」
重い声でそう唸った青花は被疑者に止めを刺そうと剣を振り下ろした。だがその攻撃が被疑者に届く前に、被疑者は転移魔術でその場から逃げてしまった。
青花は被疑者を取り逃がしてしまい、日本刀を強く握りしめた。青花はしばらくの間、被疑者がいなくなった空間をただじっと見つめることしかできなかった。
読んでくださってありがとうございました!