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dark blue  作者: 乱 江梨
第二章
14/33

面白い化学反応

 時間軸が元に戻ります。

「――という訳で、寛は犯人への復讐を誓い我らユスティーの一員となったわけだ。分かったかな?骸斗くん」

「はい!良く分かりました。隊長先生」


 先生面をする紺星の問いにそう呑気に元気よく答えたのは、一連の事件の発端を知らない新人の骸斗だった。骸斗は勢いよく敬礼をした後寛の方に視線を移した。


「寛先輩がいつもムカつくヘラヘラ顔をしていたのにそんな理由があったなんて……ただのセクハラ野郎じゃなかったんだ……ですね」

「ただのセクハラ野郎で悪かったな」


 骸斗がしみじみといった顔で頷き続けると、寛の方は蟀谷をひくつかせながら骸斗を睨んだ。寛の顔には紺星によって往復ビンタされた時の手跡がまだくっきりと残っていたこともあり、その様子を青花がクスクスと笑いながら眺めていると、紺星が口を開いた。


「で、あの事件の犯人がまた何かやらかしたのか?」


 紺星は寛の魔力暴走の原因――幻覚魔術によるあの事件の首謀者の話をユスティー隊員たちに尋ねた。紺星は寛の話から犯人がまた犯行を始め、そのせいで寛が怒り狂っていることは理解できたが、どういう経緯でそうなったのか、犯人の新たな犯行についての詳細などは知らなかったのだ。


「紺様!ここは私が説明します」

「……まぁお前でいいや、よろしく」


 紺星が隊員たちに説明を求めると十乃(変態)が我先にと名乗りを上げた。三秒ほどの沈黙が過ぎると紺星は妥協しました感全開で十乃に説明を頼んだ。十乃にそんな冷たい態度を取ってもM心に火をつけて喜ばせるだけなのだが……。


「まず最初に事件が起きたのは日本ではありません」

「……海外か、厄介だな」


 十乃の口から発せられた予想外の事実に紺星は頭を悩ませた。海外で起きた事件ならばそれは海外警察が捜査の指揮を執るのは当然のことである。犯人が同一犯であるなら日本警察が海外まで赴き捜査協力することは可能だが、主導権がこちらにあるわけではないのだ。


 新たな事件が海外で起きたというのは考えれば当然のことだ。日本で同じ犯行を行ったところですぐに同一犯だと分かり、被害者を死に至らしめることなど不可能なのだから。


「どうやらルセカン国らしいです。二か月ほど前から三年前の事件の被害者と同じ症状の者が現れ、五人亡くなったと。症状を訴えた者は他にもいたのですがルセカン国の隊員が日本で起きた事件と酷似していることに気づき、体を温めないよう警鐘を鳴らしたおかげで死者はそれ以上出なかったらしいです」

「ルセカン?あぁ、あのアホ隊長がいる国か……じゃあその隊員ってのは十中八九副隊長だな」

「でしょうね」


 紺星は事件の起こった国を聞き、そう予想を立てた。ルセカン国というのは日本の東側に位置する国で、面積は日本より少し大きい程度だ。日本に比べて身分制度がしっかりしており日本警察のように実力至上主義という訳ではない。


 なのでルセカン警察の第一隊――つまりルセカン版ユスティーの隊員たちは身分、実力が備わっている者ばかりなのだ。だからこそ実力は誰よりも高くても身分が低ければその隊に入隊することはできない。


 その身分制度が災いしてかルセカン版ユスティーの隊長――つまり紺星と同業の人物は実力はあるのだがかなりのアホなのだ。身分の低い者への差別が激しく、冷静な判断や決断力がかけており隊長の器にはふさわしくない人物、というのがユスティー隊員たちから見たルセカン版ユスティーの隊長の印象なのだ。


 上司がちゃらんぽらんだと部下が育つというのは本当らしい。隊長と違い副隊長は頭が切れ実力も申し分なく、何より身分による差別をしない人間なのだ。


「幻覚魔術が組み込まれているだろう海は立ち入りを禁止し被害者も抑えられているらしく、あちら側から捜査協力の申し出が来ました」

「へぇ、あの自尊心の塊野郎がよく俺たち日本警察の手を借りる気になったな」

「あっちの副隊長が上手く言いくるめた。多分」


 紺星と十乃との会話を聞いていた青花がそう予測した。紺星たちが噂しているアホ隊長はめんどくさい人間だがあくまでも根っこはアホ――言葉巧みに操ることは容易なのだ。


「で、総括からは何て?」

「早速明日からルセカンに向かう様にと。隊員は既に選抜されました」


 紺星が総括からの命令を聞くと十乃は制服の胸ポケットから一枚の紙を取り出した。任務命令の詳細が事細かに記載された紙で十乃はそこに載っている隊員の名前を読み上げた。


「警察組織第一隊ユスティー隊長、葛城紺星。同じく隊員、天藤福貴。同じく隊員、里見骸斗。同じく隊員、柳瀬寛。以上四名にルセカンとの捜査協力を命ずる」

「総括なりに考えた結果だろうな、ありがたい」


 寛は自分の名前が挙がったことに静かに安堵した。ルセカン警察との合同捜査において隊長の紺星は外せない人員。それに加えまだルセカン警察との面識がない骸斗もこの捜査に参加させて損はない。そして寛はこの事件との因縁を決着させる必要がある。福貴に関しては、復讐に燃える寛とユスティー(いち)の問題児である骸斗が暴走した時のため、冷静に対処ができるであろう人員を総括の羽草なりに考えた結果だったのだろう。


「……どうして私はいけないの、不満爆発」

「そんなこと言いだしたら私だって紺様と一緒に行きたかったわよ!」


 捜査協力の人員に選ばれず不満を口にしたのは青花だった。それに同調するように十乃も本音を漏らしたが命令なのでこれは仕方がない。


 二人の不満の動機は聞かなくても分かる為隊員たちは苦笑いするほかなかった。動機そのものの人物は合同捜査の詳細を熱心に熟読している真っ最中だったが。


「福貴、寛、骸斗。ルセカンに向かうのは明日からだ、早速準備を始めろ。日本に残る奴らはこの事件について何か情報を得たらすぐに俺に報告してくれ。それと俺たちがいない間の代理の隊長は五郎さんに頼みます」

「おう、息子よ。任せとけ」


 紺星が隊員たちに次々に指示を出すと明日からの代理隊長が己の胸を叩いた。紺星は裕五郎の返事に満足げに頷くと、ユスティーの本拠地から退出した。






「おやおや、誰かと思えばユスティーの隊長様ではありませんか」

「……今日はそういうキャラなんだな」


 今紺星がいるのはビルの66階――つまり志展が配属されたエントライの本拠地である。紺星に声をかけたのはエントライの隊長――東偽那知(とうぎなち)だった。


 男性にしては長い黒髪を後ろで縛り、髪と同じ色の眼鏡をかけきっちりとしたスーツを着ていた。因みにこのエントライという隊にはユスティーのような制服は無い為、服装は自由なのだ。


 紺星が苦笑いしながらそう言ったのには訳があった。この男、那知は潜入捜査という特殊な任務を主な仕事にしているせいか多重人格者なのである。


 潜入捜査の際、ある人物に成りすましたり、存在しない架空の人物として過ごすせいか、偽りのはずの人格がそのまま己に定着してしまうことがあるらしく、紺星は那知に会うたびに別人と会話をしている気分になるのだ。因みに以前会った時は半世紀前のヤンキーのような性格だった。


「あぁ、今はある犯罪組織の末端に成りすましているのですよ。本物は牢の中ですがやたら口調が丁寧な人でしてね」

「なるほど。ところで志展は?」


 紺星はエントライにやって来た理由について那知に尋ねた。紺星は志展のことが心配で様子を見に来たのだ。ただの学生だった志展にとっては初の職場、しっかりと職務を全うできたのかの確認もあったが。


「あぁ、初日でしたからもう帰らせましたよ。定時は過ぎましたしね。この組織にいると定時なんて概念ほぼ無いに等しいですがね……」

「そうか。俺は明日からルセカンへ向かうからしばらく会えないと志展に伝えておいてくれ」

「「分かった」」


 紺星の頼みに返事をしたのは那知ではなく可愛らしい二人の女性の声だった。二人の顔は瓜二つで、双子というのが容易に想像できる。かなり小さめの身長にパーマのかかったショートヘア。違うところといえば頭の上にちょこんと乗っているカチューシャの色ぐらいだ。


 双子の姉の名前は湯次螺良(ゆすきらら)、青色のカチューシャをしている方で、双子の妹の名前は湯次璃々(ゆすきりり)、赤色のカチューシャをしていた。


「おぉ、螺良璃々(ららりり)姉妹か。どうだった?志展は」

「要領はいい、でもたまに小さな単純ミスをするタイプ」

「変身魔術の技術は一級品」


 上げてから下げたのは姉の螺良、そして変身魔術を素直に褒めたのは妹の璃々だった。螺良の正直な評価に紺星が苦笑していると双子が紺星の周りをグルグルと回り始めた。


「エントライはかなりの人手不足。優秀な人材を提供してくれた隊長さんには感謝」

「感謝感謝」


 螺良が紺星に謝すると璃々も同調して感謝の言葉を述べた。紺星は螺良璃々姉妹からの優秀という言葉で合格通知を貰った気になり胸を撫で下ろした。璃々螺良姉妹の無邪気な笑みを見るととても成人しているとは思えないほど童顔が際立つ。


「それにしても隊長さんは相変わらずいい男」

「ほんとほんと。一度でいいから夜を共に過ごしたいね」

「……俺にお前ら二人の相手をしろと?」


 螺良璃々姉妹はその顔には似つかわしくないセリフを平然と吐いた。紺星が顔を引きつらせると双子はお互いを抱きしめあった。


「もちろん」

「私たちはお互いを愛している。いい男はそれに加えるスパイスなだけ」


 螺良が紺星の問いに肯定すると璃々がとんでも発言を投入した。紺星はこの双子がお互いを()()()()対象として愛し合っていることを知っていた、というよりもこの組織の人間にとっては有名なことなのだ。


「悪いがそういう趣味はないから……あ、志展のこと誘惑すんなよ。アイツまだガキだから」

「ざーんねん」

「隊長さんだってまだ未成年」

「経験値が違うんだよ」


 紺星が誘いを断ると螺良が不満気な声を上げた。半分冗談が混じっていた為最後には紺星の発言に双子揃ってクスクスと笑みを零していたが。双子自身本気では無い上に紺星がそんな申し出を受けるわけないと理解していた為、本当はショックも不満も螺良璃々姉妹にはないのだ。


「じゃあ志展のこと宜しく頼むわ」

「「おまかせあれ」」


 紺星が去り際に螺良璃々姉妹にそう頼むと双子はハモリながら承諾した。紺星はそんなエントライの隊員たちに背を向け手を振った。





 そして翌日。紺星たちがルセカン国へ向かう時刻となった。準備を整えた紺星、寛、骸斗、福貴の四人はユスティーの本拠地に集まっていた。ルセカン国へ向かうと言ってもユスティー隊員たちは〝転移魔術〟を行使することが出来る為派手な乗り物は必要ないのだ。


 今回捜査協力を命じられた隊員以外の面々も見送りのためにその場にいた。その中で最も異彩を放っていたのは十乃だった。紺星とのしばらくの別れが辛いのか、十乃は号泣しながら紺星に抱きつこうとしたが紺星にはあっさり避けられ足蹴にされてしまった。


 十乃は更に目元の水分量を上げたが、それは悲痛な涙ではなく紺星がSを十分に発揮してくれたことによる歓喜の涙だった。紺星はそんな十乃(変態)を冷めた目で見ていたが、全くもっていつもの光景なので誰一人としてツッコみを入れる者はいなかった。


「じゃあそろそろ俺らは行くから日本のことは頼んだぞ」

「俺が隊長代理なんだから安心して行くといい、息子よ」


 紺星が頷くと青花、十乃、ユレ、裕五郎が敬礼で返した。それからルセカンへ向かう四人は転移魔術を発動し、日本から姿を消した。





「着いた着いた」


 紺星たちはルセカン国の警察組織の入り口に到着した。早速紺星たちが組織のビルに足を踏み入れると目の前に見知った顔が見えた。


「ようこそルセカン国へ。ユスティーの皆さま」


 そこにいたのはルセカン警察第一隊――ストラの副隊長、ヴィオラ・カンベルだった。銀色の長髪を後ろで三つ編みにし、眼鏡をかけてはいるがその容姿の良さはよく分かる。ストラの制服が良く映える長身の男だ。


「お久しぶりです。カンベル殿、わざわざ出迎えていただいて感謝します」

「いえいえ、お礼を申し上げるのはこちらの方です。今回の捜査協力を承諾して下さりありがとうございます」


 ヴィオラは礼の言葉を述べると紺星たちをストラの本拠地へ案内した。ルセカン警察は日本警察よりは小規模だが、ビル自体は日本警察より大きく110階建てだ。


「それにしてもよく日本での事件をご存じでしたね」

「え?」

「気づいた隊員ってカンベル殿ですよね?」


 紺星は引っかかっていた事案を持ち出した。ヴィオラは初めキョトンとしたが、すぐに話の意味を理解し紺星に苦笑いで返した。日本警察はルセカン警察のことなど全てお見通しなのだとヴィオラは思い知らされたのだ。


「よく気づきましたね、私がそうだと」

「こう言っちゃ悪いがこのルセカン警察で最も優秀なのは隊長ではなく副隊長のあなただ。そう考えるのは自然なことでしょう」


 紺星は苦言を呈すると他のユスティー隊員も同調するように深く頷いた。だが紺星の意見はヴィオラにとってはどう反応すれば良いか正解のない意見だった。


 例え実力で優っていてもヴィオラは副隊長。隊長に逆らえるはずもない。だが実力至上主義の日本警察で最強と謳われている紺星からの高評価に嫌な気分になる者はいないだろう。嬉しいからこそ反応に困ってしまうのだ。


 そうこうしているうちにビルの109階に到着した紺星たち。するとそれまで沈黙を貫いていた寛が深く重いため息をついた。


「どうした?」

「……いや、俺ストラの隊長生理的に無理だから憂鬱で」

「寛先輩がそんなこと言うなんてよっぽどな……ですか?」

「口を開いて三秒でお前たぶん手を出す、予言してやる」

「えー、マジですか」


 紺星が心配そうに尋ねると寛はストラの隊長に対する不満を口にした。紺星は寛の家族が被害にあった事件に対して寛に何か気掛かりな点でもあるのかと危惧した為、ほっと胸を撫で下ろした。ストラの隊長はユスティー隊員全員に嫌われているため寛の不満は予想外でも何でもないのだ。


 骸斗(問題児)はストラの隊長とは今回が初対面だが寛は骸斗が何か仕出かすだろうと諦め交じりに予想をつけた。紺星も同意見なのかこれから骸斗が仕出かすであろう事態に苦笑した。


「あまり隊長を刺激しないでくださいね……」

「だそうだ、骸斗(問題児)。我慢しろよ」

「善処しまーす」


 ヴィオラが胃を押さえながらそう頼むと骸斗は軽く承諾した。骸斗は我慢する気なんてさらさらないということは誰の目にも明らかだった。骸斗と初対面のヴィオラでさえも理解できるほどに。


 紺星はヴィオラには申し訳ないと思いつつも、骸斗とストラの隊長を会わせれば面白い化学反応が起きるのではないかと期待した。それはストラの隊長の性質、骸斗の性質、どちらも把握している紺星だからこそ抱いた感情だった。


 ヴィオラが本拠地の扉を開くとそこにはストラ隊員がそろっており、隊長のアルベルト・カーバイスも腕を組みながら堂々と立っていた。


 紺星より低い身長に短めの金髪が映えるがヴィオラのような美男子ではない。顔は整っている方だがヴィオラや紺星と比べると分が悪いのだ。


「隊長、ユスティーの皆さまがお見えになりました」

「お久しぶりです、カーバイス殿」


 紺星が前に出てアルベルトに一礼するとアルベルトは紺星を見下すような笑みを浮かべた。寛は蟀谷に血管を浮かべながら怒りの表情を必死に抑えた。普段はおとなしく冷静な福貴でさえも内心イラっとしていたが誰よりも感情を隠すのが上手く、表情一つ変えていなかった。


 一方骸斗はというと表情を乱さずただただアルベルトに視線を送っていた。普段の骸斗は感情の起伏が激しくそれが顔にも出やすい。だからこそ寛は内心ヒヤヒヤしていた。骸斗のこんな表情は初めてで何を仕出かすかが寛には分からなくなったのだ。


「貴様のような下民が高貴な私に許可なく話しかけるな……育ちの悪さがうつっ……」


 ダンっ!という大きな音でアルベルトの言葉は遮られた。その後に聞こえてくるのは寛のため息。何が起きたかと言えば骸斗がアルベルトの左頬目掛けて思い切り殴りかかったのだ。アルベルトの体は部屋の隅の方に飛ばされ叩きつけられた壁には大きなひびが入った。もし〝結界魔術〟が張られていない部屋だったら壁をすり抜けていただろう。


 骸斗によって白目を剥かされたアルベルトを見て声を失うストラ隊員たち。それはそうだ、いくら身分を笠に傍若無人な態度を取っていたとしてもそこそこの実力はあるのだ。それがいとも簡単に吹っ飛ばされたのだから言葉も失いたくなる。


「おい、骸斗。あの善処しまーすは嘘か?」

「隊長、普通に疑問なんですが、このクソは何でこんなに偉そうなんですか?俺でも倒せるくらい弱い癖に」

「俺ら庶民と違って生まれも育ちもいいからだろう。日本の常識をこちらさんに押し付けるのは感心しないぞ」


 骸斗がアルベルトをクソ呼ばわりしたせいで何名かが笑いを必死に堪えているのが紺星には見えた。ストラ隊員も隊長に対して不満が溜まっていたのだろう。

 

 一方当の骸斗はゴミを見るかのような目でアルベルトを睨み据えながら紺星に尋ねた。日本警察は実力至上主義をモットーにしているが骸斗はユスティー隊員の中で最もそれを軸に物事を判断するのだ。だからこそ自分より遥か上の実力を持つ紺星に対してはしっかりとした敬語を使うが、自分より弱い人間には興味が無いのだ。骸斗はそんな自分が唯一尊敬する紺星を侮辱されたからこそ余計に腹が立ってしまったのだ。


「でも俺はこのクソを簡単に殺すことが出来るのにどうして自分の方が上だなんて勘違いをするんですか?弱肉強食って言葉を知らないんですか、このクソは」

「さぁ?知らないんじゃねぇの……ていうかさっさと治癒魔術かけてやれ」


 だんだん紺星も面倒臭くなったのか投げやりな返事になってきた。骸斗は不満気に口を尖らせながらも隊長の命令を従順に聞き入れ、失神しているアルベルトに治癒魔術をかけた。


 しばらくするとアルベルトは目を覚ましたが、治癒したのが自分を殴った骸斗だと分かる見る見るうちに顔を真っ赤にして激高し始めた。


「貴様ぁ!下民の分際でこの私に逆らうなど……」


 パチーン!骸斗自身は手加減をしたつもりなのか今度はビンタだった。アルベルトの左頬にはくっきりと骸斗の手形が残った。アルベルトはというと、話始めるたびに殴られるので声を出すのを躊躇い始めていた。だがアルベルトはプライドの塊、そう簡単に引き下がることなどできない。


「貴様、私に手を出してどうなるか分かっているのか……」

「は?どうなるんだよ。アンタは弱すぎる、俺を殺すことはできない」

「っ……お前から仕事を奪ってやる」


 アルベルトが骸斗を睨み据え、骸斗はアルベルトを見下ろす形になった。アルベルトは反抗したが骸斗にとってそんなもの、痛くも痒くもないのだ。


「んなの無理に決まってんだろうが。日本警察は実力のある者を簡単には手放さない。お前みたいなクソがクソみたいな圧力かけたところで何も変わんねーんだよ」


 アルベルトは骸斗のクソ発言を直に浴びた上に論破されてしまい恨めしそうに歯を食いしばった。実際骸斗の言うことは正しいのだ。アルベルトが日本警察に圧力をかけ、例えダメージがあったとしても骸斗のような優秀な隊員を手放すダメージの方が大きいと日本警察は判断する組織なのだから、アルベルトのなそうとしている行為は無意味なのだ。


「おい、骸斗。そのくらいにしとけ」

「はーい」


 紺星が漸く止めに入ると骸斗は渋々といった感じで引き下がった。そんな紺星をアルベルトはギロッと睨みつけたが紺星にはもっとダメージが無いので更に無意味である。


 そんな三人の様子をストラ隊員たちは茫然としながら傍観することしかできなかった。ヴィオラはやっと落ち着いたことに胸を撫で下ろしていたが、他のストラ隊員は状況をうまく把握できていないようだった。


「コイツがお騒がせして申し訳ありません。早速ですが事件の話をしましょうか」


 紺星はストラ隊員たちに陳謝すると、早速話題を移した。最早ストラ隊員たちは呆けることしかできない。この状況で事件に向けて顔を引き締めていたのは寛たった一人だった。





 志展がエントライを訪れた時の話を番外編で書きたいなと思っています。きっとこの章が完結してからになるでしょうが……

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