剣豪────遭遇
黒く染まった大地にポツンと一軒だけ建つ教会、そこにその男は居た。
「わざわざ革命まで起こして、何がしたいのさ?フウガ?」
その声に答える声は無く、狂気的な目をした殺意の塊だけが存在していた────
「やって欲しいことがこんなこととはな」
ディルはたった一人、黒く染まった大地を見つめていた。
そこはかつてのインドラ教国の土地であり、現在は革命により生まれた、ヴリトラ狂国の領土となっているらしい。
「それにしてもなんでこんな黒いんだ?」
かつては草花も生えていたはずの大地に思いを馳せる。
恐らくは守護獣、と呼ばれる存在によるものだろう。
だとすれば、守護獣さえ倒せればきっと戻せるはずだ。
そして、今回頼まれたのは、国の様子の調査である。
しばらく、荒廃した土地を進み、やがて辿り着いた街の様子を見て、絶句した。
全市民が笑顔だったのだ。
革命後の荒廃した土地に見合わない、明らかな異常だ。
同じように絶句した様子の者は何人かおり、その者達が同じく調査に来ていたことは明らかである。
「あの、ちょっとこっちへ来てください」
隣の、袴を着た女に路地裏まで連れていかれる。
「あっ、自分、蘭丸、と言います。和国のヴリトラ狂国調査班です」
やはりこの国を調べに来たようだ。
「俺はディル、イフリート王国とインドラ教国の調査班だ」
自己紹介が住んだところで、本題を言ってもらおうとする。
「で、なんの用だ?」
その一言を聞くと、蘭丸は大きく手を広げ、抱きついてきた。
「っ!?」
思わず何の反応も出来ず、狼狽える。
「ねぇ、一緒に楽しいことしない?」
「.........は?」
咄嗟に言葉が出てきてしまう。
胸の膨らみの無さをとっても、腕力をとっても、蘭丸は男だ。
だと言うのに、抱きついてくるとは一体何故なのか。
思考力を駆使し、1つの答えにたどり着く。
「同性愛者?」
そう呟くと、蘭丸は顔を真っ赤にし、仰け反る。
「どどど、どうしてそうなる!?」
「いや、そうとしか思えんだろ?」
蘭丸はただ一人、深呼吸をし、心を落ち着かせた。
「さっきのは、情報を引き出すためだからな?次言ったら、容赦なく斬るぞ?」
その雰囲気は、さっきまでの女とも男ともとれないなよなよしい雰囲気ではなく、歴戦の剣豪を思わせた。
「俺を斬るつもりなのか?やってみるか?」
二人の剣豪が互いを牽制し、今にも戦いの火蓋が切られようとしていた。